会社の出向で移り住んだ岩手で、ただ一人心を許したのが同僚の日浅だった。ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。いつしか疎遠になった男のもうひとつの顔に、「あの日」以後触れることになるのだがー。芥川賞を受賞したデビュー作に、単行本未収録の二篇を収録した、暗い燦きを放つ三つの作品。
詩歌の実作者が書いた『万葉集』の鑑賞。八世紀後半に成立した『万葉集』は、きわめて難解でありしかしまた我々の心に残る多くの親しまれた歌がある。その膨大な数の歌を、巻一から巻二十まで通読した大岡信の鑑賞には、日本の美学の起源をみる。『万葉集』を現代人が味わい楽しむ「生きた」歌集として魅力ある読み方をするために現代詩人が挑んだ全五巻。
宗教とは、神とは何かを求めてパリに飛び立った私。極限の信仰を求めてプスチニアと呼ばれる、貧しい小さな部屋に辿り着くが、そこは日常の生活に必要なもの一切を捨て切った荒涼とした砂漠のような部屋。個人としての「亡命」とは、神とは、宗教とは何か。神の沈黙と深く向きあう魂の巡礼、天路歴程の静謐な旅。著者を敬愛する芥川賞作家・石沢麻依による解説を巻末収録。
「じいちゃんなんて早う死んだらよか」。ぼやく祖父の願いをかなえようと、孫の健斗はある計画を思いつく。自らの肉体を筋トレで鍛え上げ、転職のため面接に臨む日々。人生を再構築中の青年は、祖父との共生を通して次第に変化してゆくー。瑞々しさと可笑しみ漂う筆致で、老人の狡猾さも描き切った、第153回芥川賞受賞作。
本は読んでいなくてもコメントできる。いや、むしろ読んでいないほうがいいくらいだー大胆不敵なテーゼをひっさげて、フランス文壇の鬼才が放つ世界的ベストセラー。ヴァレリー、エーコ、漱石など、古今東西の名作から読書をめぐるシーンをとりあげ、知識人たちがいかに鮮やかに「読んだふり」をやってのけたかを例証。テクストの細部にひきずられて自分を見失うことなく、その書物の位置づけを大づかみに捉える力こそ、「教養」の正体なのだ。そのコツさえ押さえれば、とっさのコメントも、レポートや小論文も、もう怖くない!すべての読書家必携の快著。
30年前の中国、当時の貴重な写真・図版・文字資料約1000件を収録。
可愛がっている孫に、賭場で借金を作り取り立てられていると泣きつかれた呉服屋の隠居が、二十両を用立てたという。自身も孫ができた弥平次はそれが騙りではないかと疑い、さらに調べると、近ごろ金持ちの年寄り相手に騙りを働く坊主がいるという。卑劣な騙り屋を久蔵たちは追い詰められるのか!?快調な新シリーズ第2弾。
「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小六の慎は結婚をほのめかす母を冷静に見つめ、恋人らしき男とも適度にうまくやっていく。現実に立ち向う母を子供の皮膚感覚で描いた芥川賞受賞作と、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんとの共同生活を爽やかに綴った文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。
書の最高傑作「蘭亭序」の学習が、書道上達の早道です。初心の方にもやさしいレッスンで、やわらかな筆遣いが体得できます。周りと差がつく行書の入門書です。
日本人の食生活に欠かせない、良質なたんぱく質のもととなる大豆。しかし、その自給率はわずか7パーセント。「大切な幼い命を守るにはまず、この国の大豆を再興することから」という信念のもと、料理家・辰巳芳子は2004年に「大豆100粒運動」を始めました。幼い子どもにも「まほうのおまめ」、大豆のことを楽しく知ってほしい。そんな願いからこの絵本は作られました。さあ、大豆といっしょに旅に出てみませんか?
刺青の彫師が集まる台北の紋身街。食堂の息子・景健武は、彫師のケニーやニン姐さん、珍珠〓茶(タピオカミルクティー)屋の阿華など、一癖も二癖もある大人たちに囲まれ、街での暮らしを楽しんでいた。ある日、顔に刺青を入れたいとニン姐さんに依頼した女が現れて…(「黒い白猫」)。熱気溢れる雑多な街の人間模様を描く傑作連作集。