日韓関係 by id:Kodakana

請求権の放棄

請求権の問題に関しては、協定本文第二条「財産、権利及び利益並びに請求権に関する問題の解決」に規定されている。

1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。) の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する間題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランンスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
2 この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執った特別の措置の対象となったものを除く。) に影響を及ばすものではない。
 (a) 一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及ひ利益
 (b) 一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって千九百四十五年八月十五日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいったもの
3 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。

また、一つ目の「合意された議事録」の 2 に、次の補足がある。

2 協定第二条に関し、
 (a) 「財産、権利及び利益」」とは 法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された。
 (b) 「特別の措置」とは、日本国については、第二次世界大戦の戦闘状態の終結の結果として生じた事態に対処して、千九百四十五年八月十五日以後日本国において執られた戦後処理のためのすべての措置(千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)の規定に基づく特別取極を考慮して執られた措置を含む。)をいうことが了解された。
 (c) 「居住した」とは、同条2(a)に掲げる期間内のいずれかの時までその国に引き続き一年以上在住したことをいうことが了解された。
 (d) 「通常の接触」には、第二次世界大戦の戦闘状態の終結の結果として一方の国の国民で他方の国から引き揚げたもの(支店閉鎖を行なった法人を含む。)の引揚げの時までの間の他方の国の国民との取引等、終戦後に生じた特殊な状態の下における接触を含まないことが了解された。
 (e)  同条3により執られる措置は、同条1にいう両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題の解決のために執られるべきそれぞれの国の国内措置をいうことに意見の一致をみた。
 (f) 韓国側代表は、第二次世界大戦の戦闘状態の終結後千九百四十七年八月十五日前に帰国した韓国国民が日本国において所有する不動産について慎重な考慮が払われるよう希望を表明し、日本側代表は、これに対して、慎重に検討する旨を答えた。
 (g) 同条1にいう完全かつ最終的に解決されたこととなる両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題には、 日韓会談において韓国側から提出された 「韓国の対日請求要綱」(いわゆる八項目) の範囲に属するすべての請求が含まれており、 したがって、同対日請求要綱に関しては、 いかなる主張もなしえないこととなることが確認された。
 (h)  同条1にいう完全かつ最終的に解決されたこととなる両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題には、この協定の署名の日までに大韓民国による日本漁船のだ捕から生じたすべての請求権が含まれており、したがって、それらのすべての請求権は、大韓民国政府に対して主張しえないこととなることが確認された。

この中で「韓国の対日請求要綱」というのは、国交正常化交渉の過程で提示されたもので、次の内容を持つ(趙世暎『日韓外交史 対立と協力の50年』日本語訳版より引用する)。

(1)朝鮮銀行を通じて搬出した金塊と銀塊の返還請求
(2)一九四五年八月九日現在、日本政府が朝鮮総督府に対して負っている債務の返還請求
(3)一九四五年八月九日以降に韓国から振込みまたは送金された金品の返還要求
(4)一九四五年八月九日現在、韓国に本社、本店または主な事務所があった法人の在日財産の返還請求
(5)韓国の法人または韓国自然人の日本国または日本国民に対する日本国債、公債、日本銀行券、被徴用韓国人への未収金、補償金およびその他請求権の返済請求
(6)韓国の法人または自然人の日本政府または日本人に対する個別の権利行使に関する項目
(7)前記の財産または請求権で発生した利益の返還請求
(8)前記の返還および決済の開始および終了時期に関する項目:協定成立後即時開始、六か月以内に終了すること

ここにいう請求権とは、韓国側から日本側に対するものと、日本側から韓国側に対するものを含む。日本側からのものとは、日本の国策に従って朝鮮半島南部に入植した日本人が残した私有財産などである。これらは米軍政庁に接収され、韓国政府に引き渡された。引揚者は約五十万人といわれた。請求権の放棄は、相互に行われた。この協定第二条において、請求権の放棄に対する補償が定められていないことは、第一条において経済協力がどういう理由で行われるのかが記されていないことと対応する。

また、協定第二条の「千九百五十一年九月八日にサン・フランンスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)」とは次のものである。

(a) この条の(b)の規定を留保して、日本国及びその国民の財産で第二条に掲げる地域にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で現にこれらの地域の施政を行っている当局及びそこの住民(法人を含む。)に対するものの処理並びに日本国におけるこれらの当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は、日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とする。第二条に掲げる地域にある連合国又はその国民の財産は、まだ返還されていない限り、施政を行っている当局が現状で変換しなければならない。(国民という語は、この条約で用いるときはいつでも、法人を含む。)

「この条の(b)の規定」とは次のものである。

(b) 日本国は、第二条及び第三条に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又はその司令に従って行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承認する。

「第二条に掲げる地域」とは平和条約によって日本が放棄した領域であり、「第三条」は米国に信託した領土を指す。

続く。

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