かぐや姫 55 大伴御行大納言と龍の頸の玉
「わしは、神様ではないので、何もできません。強い風が吹き、波が荒く、その上雷まで・・・。これは、ただごとではありません。あなたが、龍を探し殺そうと思っているから、こんなことになっているのです。龍が怒っているのですよ。早く神様に祈ってください」
「神様、どうかわしの話を聞いてください。わしは、かぐや姫が望んだ龍の頸についている玉が欲しくて、龍を探し殺そうとしました。もうそんな恐ろしいことはしません。神様、どうか許してください」
/かぐや姫
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かぐや姫 55 大伴御行大納言と龍の頸の玉
「わしは、神様ではないので、何もできません。強い風が吹き、波が荒く、その上雷まで・・・。これは、ただごとではありません。あなたが、龍を探し殺そうと思っているから、こんなことになっているのです。龍が怒っているのですよ。早く神様に祈ってください」
「神様、どうかわしの話を聞いてください。わしは、かぐや姫が望んだ龍の頸についている玉が欲しくて、龍を探し殺そうとしました。もうそんな恐ろしいことはしません。神様、どうか許してください」
かぐや姫 54 大伴御行大納言と龍の頸の玉
すると、船頭が。
「長い間、このあたりを船で通っているが、こんないやな目にあったことは一度もない。船が沈まなければ、雷が落ちるだろう。神様の助けがあれば、南の海に漂着できると思うが。あなたを船に乗せたばかりに、こんなことになってしまうなんて・・・」
船頭は、泣きだしました。
「船に乗ったら、船頭だけを信頼するものだ。それなのに・・・なぜ頼りないことをいうのか」
船酔いのため、大納言は口から物をはきながらいいました。
かぐや姫 53 大伴御行大納言と龍の頸の玉
「わしの弓の実力なら、龍がいたら、さっと殺して、頸の玉をとる。もう家来たちが持ってくる玉など、あてにしない」
大納言は、二人の家来と船に乗って、龍の頸の玉を探しに行きました。
あちらこちらの海をまわるうちに、筑紫の海にたどりつきました。
ところが・・・。
どうしたことか、疾風が吹き出し、あたり一面、真っ暗に。
どこにいるのかもわからず、何度も船が沈みそうになりました。
その上、雷もごろごろとなりだし、ぴかっと稲光も。
「今まで、こんな苦しい目にあったことは一度もない。どうなってしまうのか」
かぐや姫 52 大伴御行大納言と龍の頸の玉
「大伴大納言さまの家来が、ここから出航し、龍を殺して、龍の頸の玉を手に入れたといううわさを聞いたことがあるか、聞いてこい」と。
すると・・・。
「ふしぎな話ですなー。そんな仕事をしている船などありませんよ」
船長たちが、笑いながらいいました。
その話を聞いた大納言は、
「臆病な船長たちだ。わしの実力を知らないから、そんなことをいうのだ」と、腹をたてました。
かぐや姫 51 大伴御行大納言と龍の頸の玉
大納言は、前からいた妻たちとは別居し、かぐや姫と結婚するのだといって、一人で暮らしています。
大納言は、家来たちからの連絡を、首を長くして待っていました。
でも、いくら待っても、連絡がありません。
しびれをきらした大納言は、家来を二人連れ、難波の港まで様子をみに出かけました。
そして、二人に命じました。
かぐや姫 50 大伴大納言と龍の頸の玉
「無理なことを、平気で命令するなんて、我慢ができない」
家来たちは、大納言を口々に非難しました。
大納言がくれた物は、みんなで分けました。
ある者は、自分の家にとじこもってしまったし、ある者は自分が行きたいと思っていた所へ遊びに行ってしまいました。
一方、大納言は、「かぐや姫を迎えるには、この家ではみすぼらしい」といって、立派な家を建てました。
壁は、漆を塗り、その上に蒔絵を。
屋根は、糸をいろいろな色に染めてふきました。
襖は、豪華な綾織物に絵を。
かぐや姫 49 大伴御行大納言と龍の頸の玉
大納言は、龍の頸の玉をとるために、家来たちを派遣することにしました。
家来たちには、道中の食料の他に、屋敷にあった絹や綿や金などを持たせました。
「おまえたちが、龍の頸の玉を持ってくるまで、わしは精進潔斎して待っている。玉を手に入れるまで、屋敷に帰ってくるな」
大納言は、家来たちに厳命しました。
「じゃあ、足の向いた方へ行って、玉を探してこよう」
「大納言さまは、物好きな人じゃのぅ。龍の頸についている玉など、とれるはずもないのに。何を考えているのか」
かぐや姫 48 大伴御行大納言と龍の頸の玉
「わしに仕えている者は、命を捨てても、命令に従うべきだ。龍は、外国ではなく、わが国の海や山に住んでいるというではないか。それなのに、おまえたちは、わしが命令したことを、なぜ困難なことだと思うのか」
家来たちは、ふるえあがりました。
「大納言さまの命令なら、しかたがありません。龍の頸の玉を探してきます」
すると、大納言が機嫌をなおし、
「おまえたちは、わしの家来として、世間に知られている。わしの命令に、さからえるわけがない」といいました。
かぐや姫 47 大伴御行大納言と龍の頸の玉
大伴御行大納言は、すべての家来を集め、命令しました。
「龍の頸には、五色の光を発する玉がついているそうだ。龍の頸についている玉をとってこい。玉をとってきた者には、ほうびをあげよう」と。
すると、家来たちが口々に、
「大納言さまの命令には従わなくてはいけませんが、龍の頸についている玉など、簡単に手に入れることはできません。どうやって、龍の頸から玉をとったらいいのか。龍を見つけることさえ難しいのに」と。
それを聞いた大納言は、かんかんにおこりました。
かぐや姫 46 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
名残なく燃ゆと知りせば皮衣
思ひのほかにおきて見ましを
安倍は、何もいえず家へ帰りました。
人々は、「安倍の大臣が、火鼠の皮衣を持って、かぐや姫の家に行ったというが、二人は結婚したのか。大臣は、かぐや姫の家にいるのか」と聞きました。
ある人は、「火鼠の皮衣を火にくべたら、めらめらと燃えてしまったとのこと。だから、かぐや姫とは結婚しなかったようですよ」といいました。
人々は、安倍の火鼠の皮衣の話を聞いてから、「安倍」にちなんで、「あへなし」というようになりました。
かぐや姫 45 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
その後。
皮衣を火にくべると、めらめらと焼けてしまいました。
「焼けてしまったから、これは偽物ですね」
おじいさんが、安倍にいいました。
安倍は、青ざめた顔で座っています。
「ああ、よかった。これで、安倍さまと結婚しなくてもいい」
かぐや姫が、笑いながらいいました。
そして、安倍が詠んだ歌に返歌をし、箱に入れて返しました。
かぐや姫 44 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
「この皮衣を火にくべて、それでも焼けなけなかったら、本物でしょう。もし皮衣が焼けなかったなら、あのかたと結婚します。じいは、この世にひとつしかない物だから、本物だと思えというけれど、私は本物かどうか皮衣を焼いて確かめたいのです」
姫が、いいました。
おじいさんは、安倍に「娘がこのようにいっております」と伝えました。
すると、安倍が、
「この皮衣は、唐にもなかった物を、やっとの思いで手に入れた物。かぐや姫は、何を疑っているのでしょう」と、いいました。
かぐや姫 43 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
おじいさんは、安倍を座敷の中へ招きいれ、お茶をすすめました。
「今度こそ、姫はこのかたと結婚することになるだろう」
おじいさんとおばあさんは、そう思いました。
二人は、かぐや姫が結婚もしないで一人でいるのをみて、心配しています。
立派な人と結婚させようと思うのに、「結婚するのはいや」というので、二人とも姫に結婚を強いることができなかったのです。
かぐや姫 42 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣
袂かわきて今日こそは着め
安倍は、火鼠の皮衣を持って、かぐや姫の家へ行きました。
おじいさんが、皮衣を受け取り、かぐや姫にみせました。
すると、かぐや姫が。
「立派な皮衣ですね。でも、これが本物の火鼠の皮衣だという証拠は、何もありません」
「姫。ともかく、あのかたを、家の中へ入れてあげましょう。この世では見ることができない皮衣だといっています。姫、本物だと思いなさい。あのかたを、これ以上困らせてはいけませんよ」
かぐや姫 41 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
皮衣が入っている箱を見ると、いろいろの瑠璃をとりまぜ、彩色して作ってありました。
皮衣は、紺青色でした。
毛の端は、ぴかぴか光っています。
比べる物がないほどの美しさでした。
「かぐや姫が、皮衣を欲しがるのも、無理はない。恐れ多いことだ」といって、皮衣を箱の中へしまいました。
安倍は、化粧を丁寧にして、出かける支度をしました。
かぐや姫の婿として、屋敷に泊まることになるだろうと思い、木の枝に歌をつけて持って行きました。
かぐや姫 40 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
でも、安倍さまから預かったお金では足りず、私が五十両払いました。だから、五十両いただきたいと思います。船が帰る時、そのお金を託してください。お金を払っていただけない場合は、皮衣を返してくださるようお願いします」と。
「あと五十両払えば、貴重な皮衣を手に入れることができる。それにしても、よく皮衣をみつけてくれたな」といい、安倍は唐の方に向かって手を合わせました。
かぐや姫 39 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
「依頼された火鼠の皮衣を、やっと手に入れることができました。裕福な長者の家や大きな寺などを訪ね、皮衣を持っているかと聞いて歩きました。でも、皮衣はないといわれました。
今も昔も、火鼠の皮衣は、容易に手にいれることができない貴重な物です。あきらめていたら、天竺の聖者が、この国へ持ってきたという皮衣が、西の山寺にあるという噂を聞きました。早速、朝廷にお願いし、朝廷の力ぞえで、やっと皮衣を買い取ることができました。
かぐや姫 38 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
何年かすぎました。
待ちに待った唐船がやってきました。
家来の小野が筑紫へ帰国し、都へ帰ってくると聞き、安倍は小野の帰りを待ちました。
小野は、安倍がさしむけた足の速い馬に乗って、筑紫から七日で都へ帰ってきました。
小野が持ってきた王けいの手紙には、こんなことが書いてありました。
かぐや姫 37 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
王けいは、手紙の返事を書きました。
「火鼠の皮衣は、唐にはありません。噂には聞いたことがありますが、見たことはありません。手紙に書いてあるように、この世にある物なら、もしかしたら天竺の人たちがこの国に持ってきているかもしれません。
しかし、火鼠の皮衣を探すことは難しいことです。裕福な長者の家や大きな寺などを訪ね、火鼠の皮衣があるかどうか、聞いてみましょう。探しても皮衣がみつからなかったならば、いただいたお金をお返しします」と。
かぐや姫 36 阿倍の右大臣と火鼠の皮衣
右大臣の安倍御主人(あべみうし)の家は、裕福な家でした。
一族も栄えています。
安倍は、「火鼠の皮衣」を手に入れるため、日本にやってきた唐船の王けいに、手紙を書きました。
「唐にあるという火鼠の皮衣を送っていただきたい」と。
そして、家来の小野房森に、皮衣のお金と手紙を持たせ、唐へ派遣しました。
小野は、安倍の手紙を、唐船の王けいに渡しました。