かぐや姫 114 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
気持をふるいおこし、弓をひこうとするけれど、手に力がはいりません。
気丈な者が弓を射ようとするが、矢がとんでもない方向へとんでいってしまいます。
どの人もぼんやりして、お互いに顔をみあわせるばかりでした。
地上から五尺ほど上に立っている人たちの衣装の素晴らしさ。
こんな美しい衣装は、今までみたことがありません。
/かぐや姫
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かぐや姫 114 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
気持をふるいおこし、弓をひこうとするけれど、手に力がはいりません。
気丈な者が弓を射ようとするが、矢がとんでもない方向へとんでいってしまいます。
どの人もぼんやりして、お互いに顔をみあわせるばかりでした。
地上から五尺ほど上に立っている人たちの衣装の素晴らしさ。
こんな美しい衣装は、今までみたことがありません。
かぐや姫 113 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
こうしているうちに、宵もすぎ、夜中の十二時になりました。
家のまわりが、昼間より明るく光り輝きました。
満月の明るさを、十も合わせたような明るさで、人の顔の毛穴さえみえるほどの明るさでした。
大空から、雲に乗り、おおぜいの人が降りてきました。
そして、地面から五尺ほどあがった所に並びました。
その様子をみた外にいる人も、家の中にいる人も、物の怪に襲われたような気持になって、戦う気持がなくなってしまいました。
かぐや姫 112 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
二人に心配をかけてしまったことが悲しいです。月の都の人たちは、すばらしい人ばかりで、老いることがありません。悩み事もありません。そんないい所へ帰ろうとしているのに、私は少しもうれしくありません。二人が老いていく姿を見守ってあげることができないので、後髪をひかれるような気がします」
「姫、もう何もいうな」
おじいさんは、月の使者をうらみ、腹をたてています。
かぐや姫 111 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
「じい、そんな大きな声を出さないでください。屋根の上にいる兵士たちに聞かれたらはずかしいですよ。大切に育てていただいたのに、月に帰ってしまうことは、ほんとうに残念です。前世からの宿縁がなかったために、まもなく月に帰らなくてはならなりません。
お世話になったのに、二人に何のお礼もできなかったので、月の王にお願いしました。せめて今年だけでもここにいさせてくださいと、休暇の延長をお願いしたのですが、許可されませんでした。
かぐや姫 110 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
たとえ鍵をかけてあっても、月の国の人たちがくれば、鍵が自然に開いてしまいます。戦おうとしても、どの人も戦う気持はなくなってしまうでしょう」
「じいは、迎えにきた人を、長い爪で目の玉をつぶし、髪をつかんでつき落してやる。そして、尻をまくって、帝の兵士たちにみせ、はじをかかせてやる」
かぐや姫 109 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
「蝙蝠一匹でも飛んだら、さっと殺し、みせしめのため外にさらしてやろうと思っています」
兵士のことばを聞き、おじいさんは頼もしく思いました。
それを聞いた、かぐや姫が。
「戸をしめて、戦う準備をしていても、月の国の人たちとは戦うことはできません。弓矢でも、月の人たちを射ることはできないでしょう。
かぐや姫 108 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
おじいさんは、塗籠の戸に鍵をかけ、戸口に座りました。
おじいさんは、兵士たちにお願いしました。
「こんなにおおぜいの人で、かぐや姫を守っているのだから、月の国の人たちに負けるはずはない。ちょっとでも、空を何かが飛んだら、殺してくれ」と。
かぐや姫 107 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
兵士たちを、家の土塀の上に千人、屋根の上に千人配置し、使用人とともに、かぐや姫を守りました。
使用人たちも、兵士と同じように、弓矢を持ち武装しています。
兵士の一部を屋根からおろし、家の中にいるかぐや姫も守りました。
おばあさんは、塗籠の中で、かぐや姫を抱いて座っています。
かぐや姫 106 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
「かぐや姫を、ひとめみただけでも忘れることができないのに、長い間かぐや姫と暮らした翁は、どんな気持でいるのだろう」と、心配しました。
八月十五日。
帝は、それぞれの役所に命令をだし、中将高野大国を任命し、二千人の兵士を、竹取りのおじいさんの家に派遣しました。
かぐや姫 105 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
「かぐや姫が、月をみて、物思いにふけっているといううわさは、本当か」
使者が聞きました。
すると、おじいさんが、
「今月の十五日に、月の都から、かぐや姫を迎えにきます。十五日に、月の都の人たちを捕まえるため、帝の兵士をここへ派遣していただけないでしょうか」と、使者にお願いしました。
使者は御殿に帰り、帝に報告しました。
かぐや姫 104 帝、かぐや姫の昇天を確かめる
「かぐや姫が、月に帰る」といううわさを聞いた帝は、竹取りのおじいさんの家へ使者を送りました。
おじいさんは、使者に会い、「娘は、八月十五日に、月へ帰ってしまいます」といい、泣いています。
おじいさんは、姫のことを心配するあまり、髪が白くなり、腰も曲がり、泣くために目もただれています。
姫と別れるのが辛く、おじいさんはあっという間に老けてしまったのです。
かぐや姫 103 帝のお召しに応じないかぐや姫
使用人たちも、長い間、優しい姫と暮らしてきたので、姫が月に帰ってしまうと聞き、悲しい気持でいっぱいでした。
どの人も水さえ喉に通らないほど、かぐや姫のことを心配しました。
かぐや姫 102 帝のお召しに応じないかぐや姫
「月の国には、私の父も母もいます。わずかな間だけといって、月の国からやってきました。でも、この国で、長い年月がすぎてしまいました。月の国にいる父と母のことは、もうおぼえていません。
この地上で、長い間滞在したので、月の国へ帰れると聞いても、少しもうれしくありません。むしろ、悲しい気持でいっぱいです。でも、月の国へ帰ってきなさいと命令されれば、いやでも帰るよりしかたがありません」
姫は、おじいさんとおばあさんと一緒に泣きました。
かぐや姫 101 帝のお召しに応じないかぐや姫
「姫、何をいうのだ。竹の中で、姫をみつけた時には、三寸位だったのに、今ではじいの身の丈と同じ位になった。じいが大切に育てた姫を、誰が迎えにくるというのだ。そんなことは、じいが許さん。もしそんなことになったら、じいが死にたい」
おじいさんが泣くのをみて、姫はどうしたらいいのかわかりません。
かぐや姫 100 帝のお召しに応じないかぐや姫
それなのに、前世の因縁により、この世に生まれました。もうすぐ月の都へ帰る時がきました。今月の十五日に、月の国から迎えにくることになっています。私は、月に帰らなくてはならないのです。
二人がこのことを知ったら、悲しむだろうと思い、この春以来、悩んでいました」
そういって、姫ははげしく泣きました。
かぐや姫 99 帝のお召しに応じないかぐや姫
「姫、どうした」
おじいさんとおばあさんが、かぐや姫に聞きました。
かぐや姫が、泣きながらいいました。
「前々から、私が泣いている訳を話そうと思いましたが、話すと二人が悩むと思い、今まで話せませんでした。でも、いつまでもだまっているわけにもいきません。おもいきってうちあけます。私は、この世の人ではありません。月の都の人なのです。
かぐや姫 98 帝のお召しに応じないかぐや姫
姫は、月が出る時刻になると、時々ためいきをつき、泣いています。
「まだ姫さまは、悩み事があるようです」
仕えている人たちは心配しました。
でも姫が何を悩んでいるのか、誰もわかりません。
八月十五日が近づいたある日の夜。
姫は縁側に座り、月をみながらはげしく泣いています。
人目も気にしないで、はげしく泣いていました。
かぐや姫 97 帝のお召しに応じないかぐや姫
「姫、もう月をみてはいけません。姫の様子をみると、何か悩んでいるようにみえるが」
「私は、月をみないではいられません」
と姫がいいました。
姫は、月が出ると、縁側に座り、ためいきをついています。
月が出ていない時は、物思いにふけっている様子はありません。
かぐや姫 96 帝のお召しに応じないかぐや姫
「月をみると、心細くしみじみした気持になりますが、何も悩み事はありません」と。
しばらくして、またおじいさんが姫の様子を見に行くと、まだ物思いにふけっているようでした。
「大切な姫よ、何を思い悩んでいるのかね。悩み事は何かな」
「悩み事は、何もありません。ただ、月を見ると、何となく心細くなるだけです」
かぐや姫 95 帝のお召しに応じないかぐや姫
七月十五日の夜。
かぐや姫は縁側に出て座り、月をみながら、物思いにふけっています。
「姫さまは、月をみて、何か心を動かされているようです。ただごとではありません。何か悩み事があるのでは・・・。気をつけて、姫さまのことをみてあげてください」
姫に仕えている人が、おじいさんにお願いしました。
「姫。月をみて、物思いにふけっているようだが、何か悩み事があるのかね」
おじいさんが、聞きました。