ウェブで情報を集めているとたまに「転送・転載大歓迎」といった付記がされた文書に出くわすことがある。そして実際全く同じ内容の文書が複数のウェブページにコピーされていたりする。これはおそらく電子メールでの情報交換における慣習がウェブに持ち込まれたらしく思える。メールとウェブはともにインターネットの応用だが、相当異なる性質を持つ。だとすれば、これが適切なのかどうかは一考する必要がある。

 電子メールは基本的に特定の一人から別の特定の一人あるいは少数に送られるものであり、発信者と受信者の関係が単純で、内容に付随する文脈は暗黙の了解に頼れることが多い。対してウェブは、不特定多数に見られ得るものであり、ひとたび公開すればどんな誰が何処からどうやって見に来るかは想定しきることができない。

 例えばウェブ検索を使って情報を探すときなどに、同じ内容の文章がいくつものウェブサイトの別々のページに掲載されていると、探索する人を混乱させることがある。かつまた、情報の流れが把握しにくくなり、情報源を確認しようとする行動に対して障壁になってしまう場合がある。これを避けるには、転載する内容をただ(自分の文章と区別できないような形で)貼り付けるのではなく、HTML の blockquote 要素の内容にする、という方法が考えられる。例:

<blockquote cite="http://www.source.com/news/123.html">
ほげふがの呼びかけ

</blockquote>

 <blockquote>〜</blockquote>で囲んだ部分は HTML 的には「引用」という意味になる。HTML には引用と転載を区別する語彙はないので、これは「その記事とは別の記事から写された部分」を示すことになる。さらに、cite 属性を使って元の記事の URI を明らかにすることができる。HTML は機械的にその「意味」を判別することができるため、検索エンジンでは情報源のウェブページを転載されたページよりも検索結果の上位に表示するといったことがしやすくなる。実際にどう扱われるかは実装に依るが、HTML というウェブのいわば「お作法」に準拠すれば、より情報の流れが明確になることを少なくとも期待できる。視覚的にもわかりやすくなるだろう。

 ただし、受け取った人だけが見るものであるメールと違い、公開されているウェブページは誰でも見ることができるのだから、情報を広めるためにそれを転載する必要があるかと言えば必ずしもそうではない。情報源へのハイパーリンクを示しつつ、一次情報の要約を掲載したり、自分の考えを加えて再構成した方が有益な場合も少なくないだろう。このとき、単にリンクするだけでなく、HTML の cite 要素を適切に用いることで、「別の記事を参照している記事である」ということを明らかにすることもできる。例:

<p><cite>Foo Bar</cite> 氏は、『<cite><a href="http://www.source.com/news/123.html">ほげふがの呼びかけ</a></cite>』の中で、<q cite="http://www.source.com/news/123.html">もごむがの意義のため、ほげふがの会議を開きたい</q>と述べています。</p>

 こうした再構成を行うにはある程度時間や手間がかかる場合もある。急ぐべきだろうか。一秒を争うようなことなら電話で救急車を呼ぶべきだろう。満員電車の中で片手で文を打つくらいなら、両手が使える状況になるのを待った方がよいかもしれない。大抵のことには一時間くらいは考える時間がある。一日待っても遅くはないことも多いし、結局は一週間練った方がよいかもしれず、一ヶ月後で間に合うこともある。