•  1990年代、ワープロ専用機が一世を風靡した。主流の機種はスキャナからプリンタまで内蔵した一体型で、言うなれば書斎から印刷所までを一纏めにしたような存在であり、ワープロ一台手に入れるだけで、自分の部屋が小さい出版社になった様な独特の快感があった。ワープロは、あくまでプリントアウトするための装置だった。

  •  ワープロとウェブの違いは、表示を決め打ちにできるかどうかという点にある。すなわち、ワープロで作成した文書は自分自身で印刷という最終的な表示処理をした上で人に見せるものであるのに対して、ウェブページは閲覧者の所有する端末においてレンダリングが行なわれるものであり、どう表示するかを決める権限は最終的には作成者に帰属しない。

     加えて、ウェブページとはインターネットを経て読まれるものである。文書をアップロードするのは自分の回線だろうが、ダウンロードされるのは読者が契約している回線だ。そして読者が購入した機器の処理能力を使い、それぞれのウェブブラウザの設定に基づき、読者が所有する画面にその都度「印刷」される。

     だから、私の考えでは、ウェブページは読者の持つ機器や回線の能力を無駄に消費しない様に設計されるべきであり、その逆ではない。もっとも、文書を作って公開するからには作者の必要というものもあるので、なんでも配慮すればいいというものでもないが、それでも人間には節度というものが要る。ヨソに上がるんだから勝手はしない。

     ウェブページの設計に際して、視覚面から入ることは、しばしば読み取り方に対する柔軟さを失わせるだろう。いま自分の前にある画面で意図通りに表示されるということを正しいとするのは悪い考えだ。それよりもっと大事なものは、あなたは見た覚えがないかもしれないが、見ようと思えばきっと見られるものだ。ウェブページのデザインとは、体面を取り繕うためにではなく、中心となる内容を守るためにするものであり、ウェブページの品質というものはそこにある。

  •  そこで、パッと見の印象をよくしようとして意味のないデザインをしたり、新しいフィーチャーをどんどん取り入れてストレスを増やすようなことが商売になるのは、こんな世の中だからわかるとしても、私やあなたがそれを真似る必要があるかどうかは別に考える必要がある。より品質を大事にすることが、色々な意味で「読み取りやすい」ウェブページを作り、人と情報と機械、情報と機械を通じた人と人の関係をよくすることにつながっていくだろう。