2010年12月17日、案の公開や公聴会の開催、意見募集などを経て、男女共同参画基本法に基づく第3次男女共同参画基本計画が閣議決定された。基本計画は5年ごとに更新されており、第3次計画は来年度から適用される。10年後までを見通した長期的な政策の方向性と、5年後までに実施する具体的な施策を記述したとし、「男性、子どもにとっての男女共同参画」「高齢者、障害者、外国人等が安心して暮らせる環境の整備」など重点分野の新設、各分野における期限を切った成果目標の設定、女性差別是正のための積極的修正の推進を盛り込んだことなどを特徴としている。
ざっと内容を見ると、雇用・労働における性差別の是正や性教育、性暴力、性感染症などから児童ポルノや表現規制問題に関する事柄まで含んでおり、性的少数者についての記述も一部にある。ここでは、各章節の要約と、一部引用をまとめておく。
第3次男女共同参画基本計画の要約と抄
第1部 基本的な方針
1.第3次基本計画策定に当たっての基本的考え方
- 1)過去10年の反省を踏まえ、数値目標などを設定し、実効性のある行動計画とする。
- 2)固定的性別役割分担を前提とした制度・構造の変革。府省横断関連施策との連携。
- 3)女子差別撤廃委員会の指摘について点検。国際的な反性差別の動きと協調。
2.第3次基本計画において改めて強調している視点
- 1)女性の活躍による経済社会の活性化
- 2)男性、子どもにとっての男女共同参画
- 3)様々な困難な状況に置かれている人々への対応
- 4)女性に対するあらゆる暴力の根絶
- 5)地域における身近な男女共同参画の推進
3.今後取り組むべき喫緊の課題
- 1)実効性のある積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の推進
- 2)より多様な生き方を可能にする社会システムの実現
- 3)雇用・セーフティネットの再構築
- 4)推進体制の強化
第2部 施策の基本的方向と具体的施策
第1分野 政策・方針決定過程への女性の参画の拡大
- 衆参両院議員選挙における女性候補者の割合を平成32年に30%とする数値目標。
- 中央と地方の司法、行政の各層、審議会等委員、民間企業管理職に占める女性の割合、男性国家公務員の育児休暇取得率に数値目標。
第2分野 男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革
- 男女共同参画、女性差別撤廃条約、仕事と生活の調和という用語の周知度、6歳未満の子どもを持つ夫の育児・家事関連時間に数値目標。
- 税制・社会保障制度を性中立的にする検討、結婚可能年齢の統一、選択的夫婦別姓などを検討。など。
第3分野 男性、子どもにとっての男女共同参画
- 週60時間以上労働者、有休取得率、男性の育休取得率、テレワーカー数、自殺死亡率、常時診療可能な小児救急医療圏数などに数値目標。
- 男性への啓発、職場環境改善、生活能力向上推進、相談体制の確立。
- 子どもへの男女平等教育、性教育、食育、性感染症予防、など。
- 子どもへの虐待・防犯・安全対策。メディア・リテラシー。児童ポルノ・買春対策。など。
第4分野 雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保
- 自己啓発を行う労働者、短時間勤務選択可能な事業所の割合、25歳から44歳までの女性の就業率、第一子出産前後の女性の継続就業率などに数値目標。
- 男女雇用機会均等の推進、男女間の賃金格差の解消、セクハラ対策。
- 同一価値労働同一賃金への取り組み、多様な働き方の普及促進。
- ポジティブ・アクション、「M時カーブ問題」の解消など。
第5分野 男女の仕事と生活の調和
- 次世代認定マーク取得企業数、保育サービス・放課後児童クラブを提供している割合、放課後子ども教室の実施、地域子育て支援拠点事業、メンヘルに関する措置を受けられる職場の割合、20歳から34歳までの就業率などに数値目標。
第6分野 活力ある農山漁村の実現に向けた男女共同参画の推進。
- 農業委員会、農協役員に女性が登用されていない組織数、家族経営協定の締結数に数値目標。
- 意識改革と上級職などへの女性参画拡大、女性の経済的地位向上、就業環境整備など。
第7分野 貧困など生活上の困難に直面する男女への支援
- 公共職業訓練受講者の就業率、ジョブカード取得者数、自立支援教育訓練給付金事業、高等技能訓練促進費等事業、支援事業によるニートの進路決定者数、フリーター数などに数値目標。
- 安全網の強化、ナショナルミニマムの研究。
- ひとり親家庭などへの支援の推進。貧困相続対策。
- 若年期の自立支援、暴力被害者支援。
第8分野 高齢者、障害者、外国人等が安心して暮らせる環境の整備
<基本的考え方>
…また、…アイヌの人々であること、同和問題等に加え、女性であることからくる複合的に困難な状況に置かれている場合がある。さらに、性的指向を理由として困難な状況に置かれている場合や性同一性障害などを有する人々については、人権尊重の観点からの配慮が必要である。…- バリアフリー、ユニバーサルデザインの認知度、60歳から64歳までの就業率、地域自立支援協議会を設置する市町村数、民間企業の障害者実雇用率に数値目標。
- 高齢者への就業・自立支援、医療・介護基盤の構築。
- 障害者の自立環境整備、外国人・外国出身者への就労・生活・文化面の支援。
- 障害者、外国人、アイヌ、同和問題等の人権問題への対策。
…男女を問わず性的指向を理由として困難な状況に置かれている場合などについて、…実態の把握に努め、…救済を進める。…
性的指向を理由とする…
性同一性障害を理由とする差別や偏見の解消を目指して、啓発活動や相談、調査救済活動に取り組む。
第9分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶
- 夫婦間の平手で打つなどを暴力と認識する人の割合、DV防止法の認知度、DV相談窓口の周知度、市町村のDV相談支援センター数、性犯罪被害の相談を受けることを明示する男女共同参画センター数に数値目標。
- 女性に対する暴力を容認しない社会形成、相談体制整備、被害者支援、防止環境整備。
- DV防止、被害者保護、自立支援などの取り組み。
- 性犯罪対策、被害者保護、加害者への対策、メディアや学校を通じた啓発・教育。
- 子どもへの性暴力対策、児童ポルノ対策、児童買春対策など。
- 売買春対策、女性の保護、社会復帰支援。
- 人身取引対策、セクハラ対策。
- メディアにおける性・暴力表現への対策。
女性を専ら性的…対象として捉えた…性・暴力表現は、…女性に対する人権侵害となるものもある。
こうした性・暴力表現については、…国際的に重大な懸念が表明されるコンテンツの流通が現実問題となっていることから、表現の自由を十分尊重した上で有効な対策を講じる。様々な…性に関する情報の氾濫…に伴い、特に児童の性的な被害が依然頻発していることから、…広報・啓発活動を推進する。
わいせつな雑誌、…インターネット上の情報について、法令に基づいた厳正な取締りに努めるほか、業界による自主規制などの取組を促す。
インターネット上の児童ポルノ画像や盗撮画像等の流通防止対策を推進する。さらに、…ブロッキングの…環境整備等、…閲覧防止対策を推進する。
メディア産業の性・暴力表現について、…自主規制等の取組を促進するとともに、表現の自由を十分尊重した上で、その流通・閲覧等に関する対策の在り方を検討する。
第10分野 生涯を通じた女性の健康支援
- 妊娠・出産について満足している者の割合、出生1万人あたりNICU病床数、不妊専門相談センター、子宮がん・乳がん検診受診率などに数値目標。妊娠中の喫煙・飲酒は「なくす」。
- 男女の健康保持増進、健康寿命の延伸。医療体制整備、健康教育・相談・啓発等。
- 妊娠・出産に関する健康支援、経済負担軽減。周産期・救急・小児医療体制充実。不妊治療支援。学校での性の健康や性感染症についての指導。保健所の健康相談。
- HIV、HPVほか性感染症対策。予防から治療まで対策推進、教育推進。
- 薬物乱用、喫煙、飲酒対策。性差医療の推進。
- 医療分野における女性の参画拡大、女性医師支援。など。
第11分野 男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実
- 公立中における職場体験実施、高校でのインターンシップ実施、女性委員が一人以上いる教育委員会の割合、初等中等教育機関の教頭以上に占める女性の割合、大学教授等の女性の割合に数値目標。全ての教育レベルにおける男女格差は「解消」。
- 教育関係者の男女共同参画理解促進、初中高等教育各段階での教育充実、社会教育の推進。国立女性教育会館での調査研究、日本学術会議での検討。
- 各人が固定的性別役割分担にとらわれず進路を選択できるよう生涯学習、能力開発を推進。
- 学校教育の分野における政策・方針決定過程への女性参画拡大。
第12分野 科学技術・学術分野における男女共同参画
- 自然科学系女性研究者採用目標値、日本学術会議会員・連携会員に占める女性の割合に数値目標。
- 科学技術・学術分野各層への女性の参画拡大。
- 女性研究者支援、勤務環境整備。
- 女子学生の理工系分野への進学促進。
第13分野 メディアにおける男女共同参画の推進
<基本的考え方>
…女性や子どもを専ら性的ないしは暴力行為の対象として捉えたメディアにおける性・暴力表現は、男女共同参画社会の形成を大きく阻害するものであり、…人権侵害となるものもある。…啓発を行うとともに、…自主規制等の対策を働きかける。 また、公共性の高い空間やメディアにおける性・暴力表現については、青少年や…接することを望まない人の権利を守るため、…隔離を適切に行う取組が必要である。…
…メディア・リテラシーを向上させる取組を継続する。
また、メディアに関わる業界における女性の参画を拡大するよう働きかける。
- 男女共同参画、女子差別撤廃条約、仕事と生活の調和という用語の周知度に数値目標。
- メディアにおける男女共同参画の推進。
- 性・暴力表現のゾーニング、自主的な取組の徹底、条例、啓発推進。
(3)児童を対象とする性・暴力表現の根絶
・児童ポルノは、…その取締りを強化し、心身に有害な影響を受けた児童の保護に努める。- インターネット等の新メディアのルール確立に向けた検討。現行法令による取締りの強化。規制・環境整備の検討。
・メディア産業の性・暴力表現について、…自主規制等の取組を促進するとともに、表現の自由を十分尊重した上で、その流通・閲覧等に関する対策の在り方を検討する。
・…受信者による自主管理システムの開発、普及を行う。
・性・暴力表現など女性の人権を侵害する情報を含むインターネット上の違法有害な情報の流通に対して、…表現の自由、通信の秘密に配慮しつつ、…自主的対応及びこれを支援する方策についての検討を進める。…
- メディア・リテラシー向上のための広報・啓発・教育推進。
- 国の行政機関の広報等における男女共同参画の視点による表現促進。
- メディア関係業界における方針決定過程への女性参画拡大。
第14分野 地域、防災・環境その他の分野における男女共同参画の推進
- 自治会長に占める女性の割合、女性委員のいない都道府県防災会議数、女性消防団員数に数値目標。
- 地域における政策・方針決定過程への女性の参画拡大、特定の性や年齢で担われている分野への男女双方の参画。地方公共団体の男女共同参画行政推進。防災、環境等の分野での男女共同参画推進。
第15分野 国際規範の尊重と国際社会の「平等・開発・平和」への貢献
- 平成27年を期限とするミレニアム開発目標の達成に努める。女子差別撤廃条約という用語の周知度に数値目標。
- 女子差別撤廃条約の実施強化。女子差別撤廃条約選択議定書の早期締結について検討を進める。パートタイム労働に関する条約、母性保護条約などの締結に向けて積極的に対応。雇用及び職業についての差別待遇に関する条約の早期締結に向けて検討。
- ODA政策におけるジェンダー主流化推進、国際機関等との連携推進。など。
第3部 推進体制
- 国内本部機構の強化。地方公共団体、NGO等との連携強化。各府省の男女共同参画担当部署の充実。行政職員の研修等の充実。国際機関や諸外国との連携強化。
- 基本計画の実施状況監視機能強化。女子差別撤廃委員会の最終見解についての監視機能強化。苦情処理等対応の充実。 など。
刊刻:2010-12-20T21:54JST
分類:一面
執筆:Kodakana