女子プロレスがブームを起こしたのは世界でも日本だけ。プロレスの本場アメリカでも女子レスラーはおまけ扱い。なぜ日本でだけ女子プロレスがこれだけ成長し、流行し、そして衰退していったのだろうか。先進国と呼ばれながら、男女平等度合いでは未だ下位に格付けされるこの国で。

『1993年の女子プロレス』(柳澤健著)は、女子プロレス界初の団体対抗戦が幕を開けた1993年を軸として、1980年代から90年代にかけて活躍した選手ら13人へのインタビュー集。しかし近年の小さい団体ばかり、小さい興行しか打てないという状況に至った原因を解き明かそうとする問題意識に貫かれているため、単なる昔話の寄せ集めではなく、一つの論考として読めるものとなっている。

1980年代、女子プロレスは世間から色物扱いされるだけでなく、まだプロレスファンからも低く見られる存在だった。しかし、私は全日本女子プロレス中継が割りといい時間にテレビで放送されていた時期に、たまに機会があれば見る程度だった(末っ子でチャンネル権がなかったので)が、女子レスラーが男子レスラーに劣っていると少しでも思ったことはなかった。今回この本を読んで、その当時の印象が間違っていなかったことが確認できて良かったのと同時に、まだ小さかったからむしろものが素直に見られる時期に女子プロレスが見られて良かったと思う。

そしておもしろいのが、ほとんどが中卒か高校中退で女子プロレス界に飛び込んだ彼女たちの頭を使っていること。それはペーパーテスト的な頭の良さではないが、創造的な頭の良さを持っている。そして全盛期の女子プロレスが革新の宝庫だったとすれば、やはり現代日本は「教育水準が上がるほど革新が起きにくくなる」というヘンテコな社会なのではないかと思う。

さて本書で柳澤氏は女子プロレス退潮の原因として、ブル中野とアジャ・コングの闘いが男性ファンを引き込み、逆に女性ファンが離れたことを繰り返し確認しようとしている。これは女子プロレス界の内部的な問題だが、プロレスとはあらゆるスポーツの中でも社会情勢の影響を最も受けやすい、いわば「社会運動」であるというのが私の持論なので、私はもっと外部的な要因を考えたい。これには86年に施行された雇用機会均等法と、99年に施行された男女共同参画基本法が大きく関わっていると私は思っている。しかしこれは本書の紹介の枠を越えるので、また別の機会に書いてみることにしたい。

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いわゆる「暴露本」ではありません。