アメリカ精神医学会は、去る5月18から22日にサンフランシスコで行った年次総会において、診療指針の最新版となる DSM-5 を正式に公開した。事の次第は DSM-5 のウェブサイトに載せられている。Highlight of Changes from DSM-IV-TR to DSM-5(PDF/342KB) によると、従来の性同一性障害(GID)は「性別齟齬(Gender Dysphoria)」に変更された。男女の二分法を前提とした「反対の性への同一感(cross-gender identification)」よりも「性の不一致(gender incongruence)」に重点を置き、より多様な性のあり方を想定した点に注目したい。これも含め、主な変更点は以下の様である。

  • DSM-IV では性同一性障害と性機能障害、性的倒錯を一つの章にしていたが、性の認知の不調和については、精神医療によって診断されながら、多くの処置は内分泌的・外科的であるという点で大きな違いが有るため、今回は別の章に分けられた。
  • 性別齟齬(Gender dysphoria)は、二分するのではなく、広い派生を含み、複数の分類を持つ概念である。現象の数と型、程度の基準に照らして診断する。
  • 思春期と大人のための指針では、以前の基準A(反対の性への同一化)と基準B(自身の性への嫌悪)は、研究の結果として別けることが支持されなかったので一つになった。
  • 指針上の用語で「他の性(the other sex)」は「何らかのあらためるべき性(some alternative gender)」に置き換えられた。「sex」の概念では実例に対して不十分であるため、「gender」を使うことになった。
  • 子どものための指針では、強いられた状況で思いを言葉で表現しないかもしれない子どものために、以前の「繰り返し述べられた望み」は「他の性でありたいという強い望み」に置き換えられた。
  • 亜型と区分
    • 区別することが臨床的に有用とは考えられなかったため、性的指向に基づく亜型は削除された。
    • 多くの場合、性移行した後は性別齟齬の基準を満たさなくなるが、その後も受け続ける種々の処置が有るため、移行後(posttransition)という区分が追加された。