freetel 登場の歴史的意義

日本の携帯電話市場は、通信事業者が主導する計画経済的なやり方で発展してきた。こういう手法は、立ち上げから確立までの段階では割とうまく機能する場合があるが、結局は計画する者の器量が枷になる。ここでは通信事業者の想定から逸脱する物はほとんど存在することを許されず、そのため可能性を失って限界を迎えた。

2008年、Apple が iPhone を日本市場に投入し、2009年には Android も上陸して、それからスマートフォンが拡大を続けたことは、変化の前提を作った。そして、ここ二年ほどの間に MVNO の増加と拡充、モバイル向け IP 電話が使いやすくなってきたことなどで、やっと自由さが出てきた。後は肝心の SIM フリー端末だが、これはまだまだ選択肢が揃っているとは言えない。そのため、国内では電波法に触れる恐れのある、海外で発売された技適を取っていない製品を並行輸入して使うことが広がってしまっているのが現状だ。

ここにきて、2013年11月、スマートフォンの最高級品とも言える iPhone 5S の SIM フリー版が発売されて話題になったが、同じ月にプラスワン・マーケティングから発売されたのが「freetel FT132A」だ。実勢価格は12000円前後であり、性能的にも最下級品である。これで、日本の SIM フリー端末の市場に天井と床が付いたことになる。不充分ながら、何とか枠組みが見えてきたという所だ。

freetel FT132A というスマートフォン

購入まで

2013年末、使っていたスマートフォンの液晶保護シートに目立つ擦り傷が付いてしまったのをきっかけに、保護シートを買うか、いっそ別の機種に乗り換えようかな……なんて考えていた私が辿り着いたのは、「freetel FT132A スペシャルパック」だった。はっきり言えば、ドコモの白ロムなら同じ位の価格でもっと高性能なものが買える(未使用品でも)のだが、それでは面白くないし、ドコモ仕様につきあいたくもない。

freetel の存在を認識したのは、何か面白いモノは無いかと、ウェブを物色している時だった。初めは、「この商品を見た人は……」みたいな所に出てきて、また何か安い物を輸入して適当に売っているのかなあ、という程度に思っていた。そうこうする内に、ファームウェアのアップデートがあると聞き、安いから売りっ放しなのかと思ったらそうでもないのか、どんな会社が売っているのだろうと、公式サイトなどを探して読んでみた。

すると、製造委託先の工場に専用の生産ラインを押さえて品質管理の責任者を派遣したり、いくつもの耐久試験をしたとか、こういう物を作るために起業したなどと、結構すごいことが書いてある。そういったことを踏まえ、改めて FT132A の写真や仕様を見ると、これがなかなか面白い存在に思えてきた。これは、久しぶりにワクワクするガジェットだ。

そんなこんなで、12月29日に「freetel FT132A スペシャルパック」を楽天市場の「ケートラ」に注文し、31日から使っている。売価12080円(税・送料込み)で、ポイントを使って支払いは10999円、運良く期間限定のポイント三倍の時に当たったので360ポイントを貰い、実質10639円だった。


箱は黄緑の地に銀の縁取りで、構造や質感は雛人形や何かの箱を連想させる。シュリンクには説明書の誤記についての訂正が貼り付けられていた。そういえば、もう随分と古い例えになってしまうが、CLIE シリーズの箱がこんな感じの色だった。

筐体

本体の構造は、安いからといって華奢ということは無く、指で摘んで軽くヒネリを加えても、歪んだり軋んだりはしない。配色は四種類が用意されている。私は「Palm Z22」以来、コレ系のモノは白が選べれば白を買っているので、今回も白を入手した。表面はパール塗装がされており、プラスチッキーということは無い。

背面は、「不意に電池が外れたりすることの無い様に固めにした」という趣旨の説明がされている通り、確かに固い。しっかりしているのは良いのだが、ちょっと外しにくい。そのため、付属品の一覧には記載されていないが、「裏ふた取り外し用ピック」が入っている。これを背面から見て左下の窪みの所に差し込み、上へスッと引くと簡単に外れる。やや斜めに入れると蓋と本体の間に差し込みやすい様だ。

端末カバー

「スペシャルパック」の特典ということになっている「端末カバー」は、標準の背面と差し替える形で装着する。横に開くフラップカバーで、古い例えを出すと Palm V や TX に付属していた物の様な感じだ。贅沢を言うと、閉じたままでロック画面の時計が見える窓が欲しかった。

バッテリーと AC アダプタ

当然だが、両方とも PSE マークが付いている。技適マークはバッテリーの下になる所に在る。

USB ケーブル

USB ケーブルは「特製」ということになっているが、試しに Xperia mini に挿して PC へつないでみると、正常に給電され通信もできた。つまりケーブル自体は、USB 規格の A - Micro-B ケーブルに違いない。ただ、本体の USB 端子は、やや奥まった位置に在り、それに合わせて先端の金属部が 2mm ほど長くなっている。このため一般的な Micro USB ケーブルは使えない。

このケーブルは、本体に対してやや斜めに差し込むと、スッと気持ち良く入る。

カメラ

200万画素というのは、解像度だけならL判プリントに十分ではある。レンズの性能に対して画素数が多くなりすぎると、却って画質が悪くなるので、まあ妥当ではないだろうか。私はスマートフォンでの撮影は用途を考えて200万画素程度しか使わない様に設定することが多いので、その点では特に問題は無い。

バッテリ

電池の持ちに関しては、数日程度の使用では評価できないので、ここでは書かない。

APN

国内の代表的な MVNO や mopera の設定がプリセットされている。最初に IIJmio の SIM を挿して起動したら、自動的にその APN が選択されていた。

ROM

ROM は512MBで、その内データ領域には220MBが割り当てられている。データ領域には、初期状態でもアプリが動くために必要なファイルなどが置かれるため、自由に利用できる容量はさらに小さい。これを補うために、本体には Class 10 という高速で 8GB の容量を持つ microSDHC カードが挿入されており、アプリは SD カード優先でインストールされる様に設定されている。

気が利いているのはプリインストールアプリの揃え方で、Google 製のアプリでは、Gmail は有るが、マップ・YouTube・ハングアウトなどの代表格も外されている。必要な物は Google Play からインストールできるから、問題は無い、というだけでは無い。Android では、システム領域にプリインストールされたアプリに対するアップデートは、データ領域に置かれ、SD カードへは移動できない。後からインストールする物は、アプリが対応していれば SD カードに置けるので、データ領域を節約できるのだ。

ただ、ウィジットが付属するアプリは、SD カードへインストールされると、改めて本体へ移動しないと、アプリ自体は使えてもウィジットだけ使えない、という状態になるので、初心者は躓くかもしれない。

RAM

RAM も 512MB で、ICS 以降の機種としては最低限という感じだが、「Memory Booster」がプリインストールされていたり、余計な物が色々と入っていたりしないこともあり、これでもそんなに不足を感じることも無さそうだ。

画面

画面は、最近の液晶としては特に綺麗な方でもなく、上下方向の視野角がやや狭めだが、発色が悪いわけでもなく、それなりに満足できる出来だ。3.5インチという大きさは、この所の流行から見ると小さい様だが、二〜三年前のスマートフォンでよく採用されていたのはこの前後だった。4S までの iPhone とも同じである。もっと古い例を出すと、Pocket PC でも標準的だった大きさだ。片手でも取り回しがしやすく、7インチのタブレットと併用するのに丁度よい大きさでもある。

総括

freetel FT132A は、ローエンドのスマートフォンだ。基本性能は Xperia mini 辺りとどっこいどっこいで、せいぜい二年前の水準だから、今では下位も下位ということになる。しかし、単なる廉価版スマートフォンではない。価格で切り落とされない様にして、出来るだけ多くの人に選択肢に入れてもらい、非キャリアブランドの SIM フリー端末という存在の認知度向上を図り、その市場を作って行こうという意図を持って投入された、"積極的”なローエンドなのだと思う。

私は昨年、数年ぶりに主力用 PC を新調したが、CPU は Ivy 世代で最下級の Celeron G1610 で、費用総額は22000円程度に過ぎない。これでも自分の場合はほとんどの用途で不満を感じない。ハードウェアの向上が、ソフトウェアの複雑化を上回っているからだ。本機も現在のスマートフォンでは下限に近い性能だが、意外と何も考えずに使えてしまいそうだ。まだ PC 程ではないが、スマートフォンの状況もそれに近づきつつある。

本機は、今の状況でこういう物が出てきた、という所に、性能云々ではない魅力が有る。またまた古い例えだが、ハンドヘルド・コンピュータの市場拡大を目指して投入された「Palm m100」に似た雰囲気を感じるのだ。Android 関係では、安い物を輸入して売りっ放し、という感じに見える会社も有るが、プラスワンはアフターサポートなどもやる気が有る様で好感が持てる。はっきり言って FT132A 自体がそんなに優れているとまでは思わないが、今後に期待ができる楽しさも含めて、"今”買う価値の有る製品だ。

(この記事は楽天市場に投稿したレビューを元に加筆・再構成した。)