筆頭家老の家に生まれ。一生裕福で平和に暮らせるはずだった大石内蔵助の人生は、主君が起こした松の廊下の刃傷事件によって暗転する。不公平な幕府の裁定を前に、籠城だ仇討だといきり立つ藩士たち。内蔵助は彼らをのらりくらりとかわしながら、「藩士どもを殺してたまるか!」とお家再興に向けて奔走する。しかし、下からは突き上げられ、上からはそっぽを向かれる四面楚歌。やってられるか、こんなこと!役割や責任なんて投げ出せたら楽になれるのに…。人間・内蔵助を等身大で描く、新たな忠臣蔵。
綱渡りの如く心身のバランスをとりながら、医師で作家という二足の草鞋を履いて四十余年。今、定年退職し、地元の男たちと山から伐り出した材で小屋を建て、岩魚を食し、酒を呑む。その場に現れるのは祖母、母、父、姉、山遊びの先達ら先に逝った懐かしい人びと。生と死の境を淡々と越える真摯でユーモラスな傑作私小説集。
かつて一世を風靡しながら、不慮の事故で行方を晦ました歌舞伎役者が、十五年ぶりに京都に姿を現した理由とは。茶会の準備で老舗和菓子屋の女性が見せた「おもてなし」の神髄。ようやくお店出しが決まった舞妓に思わぬ事態が…。花街祇園にひっそりと佇む一見さんお断りの甘味処「もも吉庵」を営む元芸妓・もも吉と、そこに集い、慎ましくも誇り高く生きる人々の哀歓を描いた連作短編集。文庫オリジナル。
ミラーゲーム。犯人をさがせ。テレパシーゲーム。船長さんの命令。背中合わせで立ちましょう。五人組、体じゃんけん。3、4文字口パクあてクイズ…ルール、使い方、所要時間など活用の目安を入れ、パッと使えるノウハウを紹介!全ゲーム、QRコード付き。スマホをかざすだけで、全体像クッキリ。
一方的すぎる想いから出る言葉は大切な人の心を抉る。弓道部の部長を務め、誰もが認めるイケメンで、その人気から告白されることも日常茶飯事の柳楽涼介。そんな彼には、霊感体質という秘密があった。負の感情を抱き、妖狐に取り憑かれてしまった同級生とともに妖の世界に閉じ込められた涼介は、異空間の壁を打ち破ることができるのか。そして、言霊の力は心にかかった靄を取り払ってくれるのか。『神様とゆびきり』では高校生だった涼介の、中学生時代の物語。
ウーバーイーツの配達員をしているK。TikTokerをしている女子大生のICO。二人の人生が交錯する時、何かが動きはじめる。
「はじめてのキスは想像もつかないところでしよう」。東京まで新幹線や飛行機で半日かかる地方都市に住む女子高生・長田さんと、一緒に受験勉強をしていた小川くんとの奇妙な恋愛関係を描いた表題作、オール讀物新人賞受賞作「ひどい句点」など、ちょっとこじれた四人の女性の青春時代を描いた注目の短篇集。
玩具職人の文治郎が斬り殺され、続いて娘も惨殺された。事件の裏には、孫の徳太郎を巻き込んだ大店の跡目争いが…。玩具の犬張子に込められた孫への情愛が胸を打つ表題作ほか、「独楽と羽子板」「柿の木の下」「鯉魚の仇討」など七篇。るいと東吾、同心の畝源三郎など「かわせみ」ファミリーが大活躍する人情捕物帳。
唐詩の時代より、「詩」という形式が広く親しまれるようになり、作者も作品もはるかに数多かったと言われる宋代。本書では、この安定した中国的国家体制が敷かれていく時代を、北宋と南宋に大別し、おのおの約30人ずつの数作を選ぶ。自分が好きな詩に限って選んだと述べつつ、王安石、黄庭堅、蘇軾、陸游ら、偉大なる詩人たちの名作を解釈し訳出する。巻末につけられた編訳者による「解説」は、親しみやすい調子で書かれた充実の宋詩論かつ漢詩概説にもなっている。
布団屋の民子が入院中、向いのふぐ屋のおかみさんが駐車場の猫に餌をあげているらしい。やがてふぐ屋の差し入れを食べた夫が体調を崩し、猫が姿を消し…。家政婦をする姉とラブホテルの受付をする妹、職人気質のクリーニング店主人と常識外れの女性客。何気ないやりとりから生れる違和感がクセになる愛すべき7篇。