モーガンは二十歳になったばかりでたったひとりの身寄りの祖父を失い、自活を強いられる。そのため夏休みの間、給料のいい作家の秘書を務めることになった。作家は大西洋の小島ヒドゥン島にひとりで暮らしている。島への旅は途中、嵐に見舞われるさんざんなものだった。くたくたで夜ふけに島にたどり着いたモーガンは、その作家ケント・テイラーの家の扉をノックする。怒ったような低い声がして、がっしりとした大柄な男が現れた。髭面に、しわの寄ったシャツと色あせたジーンズという格好だ。彼はぶしつけにモーガンをながめまわしたあとで、「明日の朝、帰ってもらう」と言ったきり、とりつくしまもない。
制服がわりのシンプルな黒いドレスに身を包み、カリスは客の指し示す宝石をつけてみせる。一流ホテル内の宝石店に勤め、ほほ笑んで接客する彼女の胸の奥に、悲しい過去が潜むのを知る人はいない。男性とのつきあいも拒否して働く理由はあまりに深刻すぎて、親しい同僚にさえ気軽に話すわけにはいかなかった。今日もカリスは客のために、大きな鏡の前でネックレスをつけた。顔を上げたとたん、全身が凍りつくー鏡の中に見覚えのある男。あの冷ややかな目つきはニック・クリスチャナイズに違いない。客を送り出してから店の前に出てみたが、彼の姿は見えなかった。
北海道新聞文化賞、毎日書道展大賞、日展特選など、輝かしい受賞歴をもつ著者、初のエッセー集。焼尻島の酷烈な自然を書に凝縮して自己を語る。
2年前、イーデンの純愛を踏みにじってアメリカに去ったヴァーンの姿を、思いがけなくパーティの人ごみの中に見つけて彼女は思わずよろめいた。イーデンとヴァーンは、彼女の18歳の誕生日の夜に知り合った。幸せな日々が続くかに思えた2人の仲は、ヴァーンの妹ジェシーの狡猾な企みに無残にも引き裂かれ、ヴァーンは妹の言葉を信用してイーデンのもとを去っていった。あのヴァーンがジャマイカ島に帰ってきていた。しかし恐れていたとおり、彼の誤解はまだ解けていなかった。しかも妹ジェシーも、今また兄と一緒に島へ帰ってきているらしい。
母・森瑤子の愛と真実。次女マリアによる、初めての回想録。書下ろし350枚。
モーガンは二十歳になったばかりで、たったひとりの身寄りの祖父を失い、自活を強いられる。そのため夏休みの間、給料のいい作家の秘書を務めることになった。作家は大西洋の小島ヒドゥン島にひとりで暮らしている。島への旅は途中、嵐に見舞われるさんざんなものだった。くたくたで夜ふけに島にたどり着いたモーガンは、その作家ケント・テイラーの家の扉をノックする。怒ったような低い声がして、がっしりした大柄な男が現れた。髭面に、しわの寄ったシャツと色あせたジーンズという格好だ。彼はぶしつけにモーガンをながめまわしたあとで、「明日の朝、帰ってもらう」と言ったきり、とりつくしまもない。
敗戦。死と背中合わせの中国からの引揚げを経て、小学校五年生の豊三少年一家は親戚を頼りに、静岡に落ち着く。崩壊した秩序と価値観の中で、内地の生活は少年にとって何もかもが珍しく、新鮮に感じられた。青空のような未来が、豊三の前に広がっていく。終戦直後の青春をみずみずしく描く読売文学賞受賞作品。
タヒチの碧い海。桜庭高志は、黒真球を採る少年瑞紀に出会った。「彼は、海に愛されているんだよ」-。そう、まさしくミズキは人魚のように泳ぎ、水と戯れた。ミズキに魅せられてゆく高志。海の色を映す瞳が、しなやかな肢体が、愛おしくてたまらない…。ミズキも高志に惹かれ、真珠母貝に語りかける。「僕は高志が好きだよ」。心ふるえるラブロマンス。
好きな男と結婚して、家族を愛するのが私の夢。でもママは「愛だけでは幸せになれないのよ」と過去の自分の情熱を忘れて言った。ママが小説家になると、質素だった我が家の冷蔵庫に100%のジュースとキャビアが入った。夢を実現させたママは輝き、思春期の私は、理由なき反抗をかさねていた。1993年の夏、ママは死んだ。私は22歳、切ないほど悲しみのわかる大人になっていた…。