日韓関係 by id:Kodakana

払われなかった補償

日韓請求権経済協力協定には、第一条の経済協力と第二条の請求権放棄がどう関係するかについて書かれていない。経済協力は請求権の放棄に対する補償であると暗示的ながら読めなくもないし、そうでないとも考えられる。

これについては、昭和四十年十月三十日、衆議院「日本国と大韓民国との間の条約及び協定等に関する特別委員会」で質疑応答があった。

○宇野委員 請求権並びに経済協力に関する協定の第一条と第二条の関連についてお尋ねをいたしたいと思います。
 これはもう過般来から、野党の質問者からも相当強く疑義を持たれて質問されたわけですが、つまり経済協力は請求権の対価ではないかという説であります。私は、すでにこのことに関しましては、政府当局の御答弁によりまして、そうではないということを明らかにいたしておるものでございまするが、しかし、過般来の質問を通じて私が考えることは、対日請求八項目の内容、それを知らせよという強い御要望がございました。その項目に関しましては、すでに外務委員会におきましても、外務省当局より資料が出されておりまするが、内容は明らかではありません。内容は明らかではないけれども、しかし、そうした韓国の対日請求権は、経済協力と並行して、最終的に、かつ完全に、かつ同時に解消するということが明らかになっておるのであります。したがいまして、私は、そうした問題に対しては、当局も、もっと自信を持って、より具体的に、そのそうではないという意味合いのことを明らかにいたしてほしいと思うのであります。と申し上げますことは、今回の日本と韓国との間の条約の締結という問題に関して、私はこれを勝負であるというふうな考え方で見てはいけないと思うのであります。ついこの間も小坂先生が申されましたとおり、どちらかの国が一〇〇%をとれば、どちらかが不平、不満が残るのであるというような状況であってはならないから、日本の今回の交渉も、いわゆる百点満点ではない、韓国も百点満点ではない、そういった意味合いのものが残ったほうがいいんだというようなことを言われましたが、私も全く同意見でございます。
 ちなみに戦後のわが国の外交というものを大別いたしますと、たとえば米ソのごとき大国に対しましては、日本の外交は要求する外交でございます。ところが、賠償等の外交に関する新興国家に対しましては要求される外交であります。しかしながら、今日われわれがなさんとするところの外交というものは、同じく兄貴という立場に立てば要求される外交であるかもしれぬけれども、しかし、わが国と韓国は交戦国ではない。もとは一つの国家であり国民であったという立場において、非常に特異な性格を有しておる条約であると私は考えるのであります。したがいまして、それを勝った、負けたというような感情でなすことは許されないと私は思う。だから対日請求八項目の内容に関しましても、たとえばその請求権が肩がわりされて経済協力になるというたてまえからものを考えられると、勢いその金額は幾らであったのかというような数字をあげつらうようなことになってしまいます。数字をあげつらうということは、要はどちらかが負けたか負けなかったかというようなことになりまして、今後永久に友好を続けようという日韓間における重大な問題を残すだろうと思いますので、私の考え方といたしましては、いまさら対日請求八項目の内容にこうした場において触れるべきでないと思うのであります。触れるべきではないが、しかし政府は、なお一そう具体的にこの一条と二条の関連性が、つまり肩がわりではない、対価でないということを示していただきたいと思うのであります。
 私が調査いたしましたところによりましても、たとえば協定第一条の末尾に、韓国の経済の発展に役立つものであるという、その経済協力の使命がうたわれておりますが、こうした規定というものは、政府としては年度実施計画の合意であるとか、あるいは契約認証の際には基準に合致するよう供与、貸与を審査するというふうなことを意味しておると思うのでありますが、そうしたことであるのならば、これは明らかに賠償でもなければ、まして請求権の肩がわりでもなければ、明らかなる経済協力であるという立場が鮮明にされるのではないかと思うのでございます。以上に関する御所見を承っておきたいと思います。
○椎名国務大臣 請求権のいきさつ、経済協力と請求権の関係は、この審議のいきさつから申しますと関連はございます。そして同じく経済問題でありますから、同じ場所において取り扱っておるのでありますけれども、御指摘のとおり、この請求権の問題と経済協力の問題は、何らそこに法律上の因果関係はない。あくまでこれは有償、無償、総計五億の経済協力は、韓国の経済建設に役立つために日本がこれを供与するものであるという趣旨でございます。

つまり、経済協力と請求権の放棄とは、「同じく経済問題」だから一つの協定にまとめただけで、「因果関係はない」、経済協力は補償ではないということが、日本政府の立場として明言されている。従って日本側から韓国側へ、補償としての性格を持つ何らの拠出もされていない。これは逆の関係についても言える。日本国民の立場としては、日本から補償となるものを一文たりとも韓国に渡したことはないという点は憶えておくべきだろう。

これについてはさらに、昭和四十年十一月十九日の参議院本会議でも次の質疑応答があった。

○草葉隆圓君 私は、自由民主党を代表しまして、ただいま上程されました日韓関係諸案件につきまして、政府の所信をただそうとするものであります。

 次に、請求権及び経済協力に関する問題でございます。本協定によりまして、わが国は将来十年にわたって、無償三億ドル、有償二億ドルに相当する生産物及び役務を提供することになっておりまするが、これは賠償の性質を有するものであるかどうか。また、請求権問題の処理と全く無関係であると言い切り得るものであるかどうか。この点、外務大臣の御答弁を伺いたいのであります。
○国務大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。関係大臣に、私が触れなかった点は後に説明させたいと思います。
○国務大臣(椎名悦三郎君) …
 それから、請求権の問題と経済協力、これは、日本の対朝鮮請求権は、軍令及び平和条約等のいきさつを経て、もはや日本としては主張し得ないことになっておりますが、反対に、韓国側の対日請求権、この問題について、この日韓会談の当初において、いろいろ両国の間に意見の開陳が行なわれたのでありますけれども、何せ非常に時間がたっておるし、その間に朝鮮動乱というものがある。で、法的根拠についての議論がなかなか一致しない。それから、これを立証する事実関係というものがほとんど追及ができないという状況になりまして、これを一切もうあきらめる。そうして、それと並行して、無償三億、有償二億、この経済協力という問題が出てまいりました。何か、請求権が経済協力という形に変わったというような考え方を持ち、したがって、経済協力というのは純然たる経済協力でなくて、これは賠償の意味を持っておるものだというように解釈する人があるのでありますが、法律上は、何らこの間に関係はございません。あくまで有償・無償五億ドルのこの経済協力は、経済協力でありまして、これに対して日本も、韓国の経済が繁栄するように、そういう気持ちを持って、また、新しい国の出発を祝うという点において、この経済協力を認めたのでございます。合意したのでございます。その間に何ら関係ございません。英国であるとかフランスなんか、旧領地を解放して、そうして新しい独立国が生まれた際にも、やはり、この経済的な前途を支持する、あるいは新しい国家の誕生を祝う、こういう意味において相当な経済協力をしておる。その例と全然同じであります。
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