「男/女」の規範に必ずしもあてはまらない文化がロシア文学のなかで花開いた「銀の時代」と呼ばれる時代が百年前にあった。本書では二十世紀初頭のロシアで都市のミドルクラスの女性たちに人気を博した三人の女性作家による女性向け大衆小説に着目し、これらの作品がいかなる方法を用いて非規範的な“性”のあり方を呈示し、「男/女」や「異性愛/同性愛」といったジェンダーやセクシュアリティに向き合ったのかを探っていく。小説のなかで既存の「男/女」の秩序におさまらない“性”の諸相がいかに示され、そうした表象を支える原理がいかなるものであったのか、当時の社会・文化的コンテクストを参照しつつ明らかにしていくと、彼女たちの小説のなかに豊穣な“性”文化が存在していたことが見えてくる。
ドイツ・ヴィルヘルム時代の市民社会における、ジェンダー秩序の生成、性の規範化プロセスとそれによる女性の管理、新しい性道徳の意義、を明らかにすることで、性と政治社会の関係性を考察し、現代におけるセクシュアリティをめぐる問題の理解・解決への手がかりとしたい。
序 章 セクシュアリティと政治
第1部 新しい性道徳の波紋
第1章 管理売春制度と廃娼運動
第2章 ヘレーネ・シュテッカーと堕胎論争
第3章 オット・グロースの「エロス論」がヴェーバー・サークルに与えた影響
補論1 女性作家 マルガレー・ベーメ
第4章 ドイツ社会民主党と性倫理ー1913年、「出産ストライキ」論争を中心に
補論2 錯綜するプロレタリア女性運動
第2部 性の二重道徳と法の支配ーバーデン大公国を例に
第5章 19世紀のバーデン自由主義ーフリードリヒ大公とバーデン立憲制
補論3 バーデン大公国の社会的特徴
第6章 バーデン大公妃ルイーゼと「バーデン女性連盟(BFV)」
第7章 バーデン大公国の管理売春制度にみる市民社会と政治の一側面
-公的娼家の閉鎖を求める請願書を例に
第8章 ヴィルヘルム時代の女給の問題化プロセス
-カミラ・イェリネックの女給運動を例に
補論4 1970年代東西ドイツにおける妊娠中絶をめぐる論争
終 章 ヴィルヘルム時代の新しい性道徳の意義
東アジアの性、家族、社会。何が変わり何が変わらなかったのか? 2000年代以降の状況を気鋭の研究者が新たな視角から切り込む。
東アジアの急激な少子化は20世紀には想像もつかないものであった。日本・韓国・台湾・中国・北朝鮮、これらの社会では、何が共通で、何が異なるのか、そして何が変わったのか。ジェンダーとセクシュアリティの側面から比較し、日本の「特殊性」をあぶり出す。最先端の研究が切り拓く日本の、そして東アジアの「性」をめぐる課題とは?
アジアのセクシュアリティとジェンダーのあり方を鍵として,東アジアと南アジアを中心とする父系的社会と,東南アジアから日本・韓国までの双系的社会という2つの社会を区別し,それに文明化と近代化が重なって生み出された,アジアの重層的多様性を描き出す。
序論 アジアの重層的多様性(落合恵美子)
【第1部 セクシュアリティ──2つのアジアと1つの近代】
◇1-1 2つのアジア 1. カーマスートラを解読する/2. 朝鮮後期における妾と家族秩序/3. タイの性愛文化におけるヨバイの伝統/4. 百歳女性のライフヒストリー ◇1-2 性と愛の近代 5. 性と愛をめぐる論争/6.植民地朝鮮における新女性,セクシュアリティ,恋愛/7. 「爆弾」としての婚外性交渉 ◇1-3 セクシュアリティの現在 8. レイプ,懲罰,国家/9. 男性ピンナップ,GRO,マッチョ・ダンサー/10. 北京におけるゲイ・コミュニティの実態調査
【第2部 ジェンダー──葛藤と実践】
◇2-1 伝統の重層性 11. 仮面と素顔/12. 「男性の概念」とは何か/13. 女性・神学・暴力/14. 江戸時代は女性にとって暗黒の時代か ◇2-2 近代的性役割の成立と変容 15. 良妻賢母思想の成立/16. アメリカ植民地教育はフィリピン女性の地位をどう変えたか/17. 男性性を作り直す/18. 最後の伝統的な姑 ◇2-3 アジアのフェミニズム 19. 女にとって産むこと産まぬこと/20. 韓国家族法における男女平等 対「伝統」/21. 語られない秘密/22. 「被害者化」を超えて
ことばにならないセックスを論じるに値するものとし、ジェンダーとセクシュアリティの謎に分け入り、身体と欲望から日本の現実を暴く。ひんしゅくを買うことを怖れない社会学者の好奇心に満ちた対論。
ラブホテル、ダッチワイフ、ポスター・広告、アニメ、音楽など、東アジアに遍在するサブカルチャーの具体的なコンテンツを取り上げ、サブカルチャーを駆動させる性への欲望と、性への欲望を再生産するサブカルチャーの共犯関係を見定める。
まえがき 王向華[岸保行訳]
第1章 日本の歌謡界におけるテレサ・テンの“愛人”イメージの形成ーー華人社会におけるトウ麗君のイメージとの乖離 谷川建司
1 日本での第一期・演歌時代
2 日本での第二期・黄金時代ーーニューアダルト・ミュージック期
3 テレサ・テンの“愛人”イメージの背後にあるもの
4 日本におけるテレサ・テンのヒット曲の華人社会でのイメージ
第2章 日本の多様な韓流文化 李修京
1 韓流文化
2 インターネットの普及と韓流文化
3 韓流文化の人気が高まる前の日本
4 「韓流」(●●、Korean Waves)現象
5 中高年女性に支持された韓流文化
6 統計からみる韓流事情
7 韓流文化の課題
第3章 アジア・モダニティーー一九二〇-三〇年代の中国と日本のポスターに見る「新女性」のイメージ 呉咏梅
1 近代都市文化と消費社会の誕生
2 中日の商業ポスターに見る「新しい女性像」
第4章 日本のラブホテルの変遷ーー「貸間」名称の変容から 金益見
1 日本の貸間産業の変遷
2 「貸間」名称の成り立ち
第5章 被害者あるいは加害者?--戦後直後のアニメに見られる女性イメージと戦後社会新秩序の構築 潘文慧
1 女性ヒーローも母親もいない時代
2 「戦後直後アニメ」に隠された真実
第6章 ダッチワイフと「空気人形」 高月 靖
1 ドールマニアのなかでの位置づけ
2 ラブドールとは
3 ラブドールと少女
4 ラブドールへの欲望
PART 1 セクシュアリティ教育のいま、これから
PART 2 セクシュアリティ教育実践
PART 3 民間団体のとりくみに学ぶ、協働する
PART 1 セクシュアリティ教育のいま、これから
じぶんごととしての包括的性教育へ
──『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』から学ぶ日本の性教育の課題
堀川 修平(都留文科大学非常勤講師)
都教委「性教育の手引」を検証する
水野 哲夫(“人間と性”教育研究協議会代表幹事)
人権教育としてのセクシュアリティ教育
──教育実践に取り組むために
内海崎 貴子(川村学園女子大学教育学部教授)
安心・安全な学校づくりのために
──性的トラブルと境界線
野坂 祐子(大阪大学大学院准教授)
【対談】 『ジェンダー平等教育実践資料集─多様性を排除しない社会にむけて─』の活用を
大橋 由紀子(日教組女性部長)、内海 早苗(日教組前女性部長)
PART 2 セクシュアリティ教育実践
〈性教育実践1保育園〉 自分のからだといのちを守るための、5歳児への性教育
安永 愛香(社会福祉法人どろんこ会理事長)
●子どもと読みたい 性と生の絵本
〈性教育実践2小学校〉 もっと知りたい自分のこと──性の多様性を学ぶ
及川 比呂子(神奈川県三浦市立初声小学校養護教員)
〈性教育実践3中学校〉 生徒のニーズに応じた性教育実践
越 安子(公立中学校教員)
〈性教育実践4特別支援学校〉 歌や踊りを交えて楽しい&記憶に残る授業に
船木 雄太郎(公立支援学校養護教諭)
《探る・深める》 つくられたボディ・イメージに抗して
千田 有紀(武蔵大学社会学部教授)
PART 3 民間団体のとりくみに学ぶ、協働する
性教育は性のポジティブな部分から
福田 和子(#なんでないの プロジェクト)
《探る・深める》 私のからだは私のもの
大橋 由香子(フリーライター・編集者)
「性的同意」とは自分も相手も尊重する人間関係のこと
大澤 祥子(ちゃぶ台返し女子アクション共同代表理事)
対等でお互いを尊重する関係性を学ぶ
──デートDV予防教育
阿部 真紀(NPO法人エンパワメントかながわ理事長)
思いがけない妊娠にとまどう人に寄り添う
土屋 麻由美(NPO法人ピッコラーレ副代表)
男性の性被害はなぜ認知されにくいのか?
──セクシュアル・トラウマ・インフォームド・ケアの提案
熊谷 珠美(Center for HEART代表、臨床心理士)
近代~現代のセクシュアルなポップカルチャー(生人形・モガファッション・海女写真・宝塚・ゴスロリ・SM雑誌)をモチーフに、私たちが「性」の表象・身体にどのようなまなざしを注いできたか、その生成と変遷を考察する。近年展覧会をきっかけに再注目されている江戸のマネキン・"生人形"や、2009年にブームを巻き起こした"海女"にも言及。時代・メディアを横断し、日本人の《セクシュアリティ》を問う。
日本の女子選手たちは、男子選手ならば経験することのない、こうした矛盾した要求を突きつけられる。なでしこジャパン、女子レスリング……2000年代以降、かつて「男の領域」とされたスポーツで活躍する女子選手の姿をメディアで多く目にするようになった。
強靭な身体と高度な技能、苦しい練習を耐えるタフな精神力や自律が要求されるエリートスポーツの世界。その中でも「男らしいスポーツ」とされるサッカーとレスリングの世界で活躍するたくましい「女性アスリート」たちはどう語られたのか。メディアの語りから見えてくる「想像の」日本人の姿とは。そこに潜むコロニアリティとは。また、トランスジェンダーへの差別が絶えない社会で、トランスジェンダーやシスジェンダーでない選手たちは、女子スポーツの空間や「体育会系女子」をめぐる言説とどのように折り合いをつけ、スポーツ界に居場所を見出してきたのだろうか。
本書は、日本の女子スポーツ界を取り囲む家父長制的、国民主義的、異性愛主義的、そしてシスジェンダー主義的言説を明らかにし、抑圧の構造に迫る。同時に、その抑圧的環境を創造的に克服してきた選手たちにスポットライトを当てることで、「生きることのできるアイデンティティ(livable identity)」、そしてより多くの可能性に開かれた主体性(subjectivity)のあり方を探る。
“恋愛”の時代から“性欲”の時代へ。そして“性欲”に悶え“性欲”に涙する人々を登場させた近代。文学において“性”を描くこととはー“性”の言説分析。
気鋭の研究者たちが、
ヴィクトリア朝の性を大いに語る!
「抑圧的」と語られながら、
実は、セクシュアリティのイメージが溢れていたヴィクトリア時代。
多彩な視点から、19〜20世紀初頭の「性の言説」を捉え、
現代にも影響を与え続けている
「ヴィクトリア朝文化とセクシュアリティの関係」をひもといていく──。
序章 横溢するセクシュアリティ
【田中 孝信】
第1章 マルサス以降──性は個人と人口をつなぐ
【要田 圭治】
第2章 「不適切な」議題と急進派女性ジャーナリスト、イライザ・ミーティヤードーー1847年スプーナー法案(誘惑・売春取引抑制法案)の行方
【閑田 朋子/日本大学文理学部教授】
第3章 「模倣」する「身体」──『アグネス・グレイ』における動物・身体・欲望の表象
【侘美 真理/東京藝術大学音楽学部准教授】
第4章 髪と鏡ーーメドゥーサとしてのバーサとそのセクシュアリティ
【本田 蘭子/広島大学非常勤講師】
第5章 欲望の封印から充足の模索へ──エリス・ホプキンズとヴィクトリア朝中期の性の葛藤
【市川 千恵子/茨城大学人文学部准教授】
第6章 「現代バビロンの乙女御供」──ウィリアム・T・ステッドの少女売春撲滅キャンペーン
【川端 康雄/日本女子大学文学部教授】
第7章 ジャーナリズムとセクシュアリティの世紀末──オスカー・ワイルドの自己成型
【原田 範行】
第8章 イースト・エンドと中国人移民ーー世紀転換期のスラム小説にみる異人種混淆
【田中 孝信】
第9章 D. H. ロレンス『息子と恋人』のセクシュアリティと(ポスト)ヴィクトリア朝
【武藤 浩史/慶應義塾大学法学部教授】
第4回配本では、大正期より昭和初年代までの単行本を厳選し収録。第22巻には、『全国花街めぐり』(松川二郎、1929・6、誠文堂)を収録した。
現代社会で育まれた先鋭な視点を通して第二波フェミニズムの諸テーマを再検討し、フェミニズムの新たなステージを切り開く。現代の生・性・思想に貫通するカラクリを探き出す挑戦的16編。
植民地主義と性差別主義の結びつき
戦後沖縄における性暴力や性売買をめぐる問題は、これまでフェミニズムの観点から様々に論じられてきた。しかし、広大な米軍基地を抱え、アメリカや日本との複雑な権力関係にさらされるこの地の問題を考えるためには、それだけでは不十分である。植民地主義と性差別主義が深く結びついているからだ。不可視化されてきたこの問題を分析するため、ポストコロニアル・フェミニズムの手法を本格的に社会学に導入し、女性を取り巻く言説を問い直す、刺激に満ちた気鋭の力作。
「ポストコロニアル・フェミニズムという視点は、重要でありながら、あるいは、重要であるからこそ隠され続けてきた植民地主義と性差別主義とのつながりを可視化することができる。ポストコロニアル・フェミニズムは、過去から現在へ続く不正義の発見を助ける眼鏡であると言える。」(本書より)
セクシュアリティはいかに語られてきたのか。私たちは、政治・経済的支配関係の中でディスコースによって与えられた意味にしたがって、性的自分や性的経験を理解し、また性実践を行っている。自明とされる規範としての異性愛を批判的に検討し、「欲望の社会記号論」によって言語研究に社会の権力構造における抑圧、矛盾、沈黙をも取り入れていこうとする試み。
これほどエキサイティングな『源氏物語』読解があったとは! 男女性差に基づくテキスト曲線を活用して『源氏物語』の現代性はもちろん、現代文学の、古典にまで遡り得る根源を解明する。
第1回 ガイダンス講義/第2回 『桐壺』そして谷崎潤一郎/第3回 『帚木』そして『空蟬』/第4回 『夕顔』あるいは「女」/第5回 『若紫』と『末摘花』異形の女たち/第6回 『紅葉賀』あるいはプレからポスト・モダンへ/第7回 『花宴』から『葵』不吉な影が射すとき/第8回 『賢木』から『花散里』花が散るまで/第9回 『須磨』天上から海へ/第10回 『明石』海から天上へ/第11回 『澪標』海=生と欲動のエネルギーによって/第12回 『蓬生』と『関屋』媒介変数としての光源氏/第13回 『絵合』あるいはジャンルの掟について/第14回 『松風』と『薄雲』あるいは麗しき母系支配/第15回 『槿』から『乙女』世代交代の二重構造について/第16回 『玉鬘』物語と小説について/第17回 『初音』あるいはテキストを生きること/第18回 『胡蝶』と『螢』すなわち宙を飛ぶ物語/第19回 『常夏』と『篝火』そして中上健次/第20回 『野分』小説構造と枚数/第21回 『行幸』と『藤袴』ダブルバインドの魔境/第22回 『真木柱』あるいは近代的自我の柱/第23回 香る『梅枝』/第24回 『藤裏葉』偏愛と格調について/第25回 『若菜 上』因果とデジャビュ1/第26回 『若菜 下』因果とデジャビュ2 〜浅い証し〜/第27回 『柏木』あるいはイカルスの墜落/第28回 『横笛』あるいは念の力/第29回 『鈴虫』と『夕霧』あるいは虫どもの世/第30回 『御法』と『幻』すなわち現世での終焉/第31回 『匂宮』あるいは同じ香のする/第32回 『紅梅』と『竹河』物語の始末/第33回 『橋姫』あるいはクライマックスの再来/第34回 『椎本』鏡像の顕在化について/第35回 『総角』あるいは恋愛という観念/第36回 『早蕨』そして三角と四角/第37回 『寄生』ふたたびの主人公論/第38回 『東屋』より「宇治物語」のテーマへ/第39回 『浮舟』まさしく女主人公の誕生/第40回 『蜻蛉』男女あるいは生死の影と光/第41回 『手習』そして文学者の姿/第42回 『夢浮橋』古代から現代への/後記
性をめぐる言説が紡ぎだす近代日本。社会史、歴史社会学、近代社会論、言説分析や資史料分析の方法論に至るまで、広く社会学的な関心を持つ読者に。膨大な資料を渉猟し、理論的検討を尽くした渾身の書。
日々の出会いやメディアのなかで、セクシュアリティはわたしたちを挑発している。セクシュアリティに無関心な人びとを含めて、わたしたちはセクシュアリティから逃れられない時代を生きているのだ。「性」の視点から人間と社会を問い直す。