古代の世界には、太陽と呼ばれる燃える炎の玉があった。世界が分離したとき、太陽は四つの新しい世界に分け与えられた。ここアバラクのカイルン・テレストでは炎は世界の中心に据えられていた。しかし、その炎は消え去ろうとしている。死の影がせまる土地から逃れ、救いを求める一行は〈炎の海〉を越えて〈冥界の門〉をめざす。
ミラノのある書店を舞台に、貴族から泥棒まで、強烈な個性をもつ人びとがくりひろげるさまざまなドラマ。昨年度女流文学賞受賞の筆者が、芳醇な文体で回想する「ゆたかなる時」。
混迷の時代こそ、生きることが苦しくなったときに役立つ技術としての哲学、自分と他人、自分と社会の関係を深く了解するための技術としての哲学が必要である。本書は、「私」とは何か、「私」の周囲の社会とは何か、そして社会とかかわる「私」はどう生きればいいのかについてヒントに満ちた書である。
元首相の死、芸能人のスキャンダルから殺人・詐欺・窃盗、地方紙が豆記事で報じた珍騒動まで、’87〜’88年に日本各地で起きた44の事件から、「繁栄の時代」の裏に潜む様様な捩れや歪み、人びとの暮しの中の哀歓を、卓抜な取材力と見事な切り口で鮮やかに焙り出す。ニュージャーナリズムの旗手の傑作ルポルタージュ。
この2,3年のあいだに、アメリカの実業界では大きな変化が起こった。巨大企業の多くは「再編」を経験し、しばしばそれは、より小さな組織を産み出す結果を意味した。と同時に、かつて「スモール・ビジネス」と呼ばれたもののなかから、非常に多くのサクセス・ストーリーが生まれている。多くの若いアメリカ企業は年に40%の成長率を経験しており、4,5年にわたって100%の成長率を示している会社さえある。本書は、そうした急成長中である非常に多くのアメリカ企業がもつロゴを集めたものである。これらの会社の視覚的な身元証明であるロゴ・マークは、成功した若い企業がCIをどのように管理しているかについての興味深い研究対象である。
人間の無意識の世界から紡ぎだされた象徴的主題とそれを核にして形成された神話的なイメージや象徴的表現の分析による心の構造の探究。リビドを広義の人間的エネルギーと捉え、新しい地平を切り開いたユング心理学の記念碑。
謀略と粛清により国内の権力を握りつつあるヒトラーは、国家の生活圏拡大のため密かに戦争計画を策定、1938年民族自決権を主張しオーストリアを無血併合する。続いて英仏独伊4国によるミュンヘン協定でズデーテン地方を割譲させたのちチェコを併合、強圧外交と武力を用いポーランドへ侵攻し第二次大戦の幕が切って落された。
ドイツ第三帝国の興亡と生死をともにしたヒトラーの劇的な生涯と複雑混迷の時代史の実相を克明に活写する長篇第一巻。第一次大戦後、ヴェルサイユ体制の桎梏と世界恐慌に喘ぐドイツで合法的に政権を獲得したヒトラーは軍の増強を果たし、ラインラントへ進駐、一方で華麗なるベルリン五輪を演出し、国威発揚に努める。
永井荷風の愛した戦前の浅草。ストリップブームに湧く昭和20年代の浅草。渥美清、萩本欽一をはじめ、すぐれた喜劇人を次々と育てた浅草。移りゆく時代の変転を背景に、浅草でなければ生きられなかった一人の芸人の生涯を綿密に追跡、浅草という土地の神話をつむぎだした気鋭のノンフィクション力作。
対ソビエト作戦『バルバロッサ』によって’41年6月22日、ナチス・ドイツ軍は突如ソ連攻撃を開始、南北にわたる長大な戦線で圧倒的な勝利を収めるが、退却したソビエト軍は徐々に戦勢を挽回、厳寒の戦場で熾烈な攻防戦が続く。一方、極東では12月8日、日本の真珠湾攻撃によりアメリカも宣戦を布告し第二次世界大戦へと拡大する。
ヒトラーの対英和平工作にもかかわらず、民族の自決権という大義名分を逸脱したナチス・ドイツに対し、英仏はついに宣戦を布告。ヒトラーは西部戦線でも総攻撃を下命、隣国を次々に制圧し、独軍は’40年6月パリ無血入城を果たす。9月に日独伊軍事同盟を締結したヒトラーは全欧州制覇を企図して対ソビエト戦の準備を進める…。
春水『春色梅児誉美』、鴎外『舞姫』、二葉亭『浮草』、一葉『たけくらべ』、荷風『狐』、漱石『彼岸過迄』『門』、横光『上海』、川端『浅草紅団』など近世から現代に至る文学作品と、ベルリン、上海、江戸東京といった都市空間ー。このふたつの相関を、幅広い視野と博識のもと、鋭く、エレガントにそして生き生きとして解読してみせた、著者の代表作。芸術選奨文部大臣賞受賞。
“女躰でありながら精神はあくまでも男”荒御魂を秘めて初々しく魅惑的な十一面観音の存在の謎。奈良の聖林寺の十一面観音を始めに、泊瀬、木津川流域、室生、京都、若狭、信濃、近江、熊野と心の求めるままに訪ね歩き、山川のたたずまいの中に祈りの歴史を感得し、記紀、万葉、説話、縁起の世界を通して古代と現代を結ぶ。瑞々しい魂で深遠の存在に迫る白洲正子のエッセイの世界。
一流の人物、一級の人生、康二一等の人物論名品23。
文字をつくった王の話。黙せる王は、苦難のすえ万世に不滅の言葉を得る。森羅万象からひきだす象。すなわち、文字である。
仮装舞踏会で被せられたサンタクロスの仮面の髯がマッチを摺るとめらめら燃えあがる、象徴的な小説の冒頭。妻を亡くした、著者を思わせる初老の作家稲村庸三は、“自己陶酔に似た”多情な気質の女、梢葉子の出現に心惹かれ、そして執拗な情痴の世界へとのめり込んでゆく。冷やかに己れのその愛欲体験を凝視する“別の自分”の眼。私小説の極致を示した昭和の名作。第一回菊池寛賞。
この世であってこの世でない、宮部ゆみきの怪しい世界七篇。「せんせい、あそぼ」とささやく幻の少年の正体は…。
日本独自のコンピュータ開発に社運を賭けた富士通は、池田敏雄の異才にすべてを託した。多くの人間に支えられ、ついに日本の電子立国の礎を築いて51歳で早逝したその劇的生涯。