咲く花に時勢や人生の全盛を、落ち葉に凋落を、秋の夕暮れに寂莫を重ね合わせてきた日本人の繊細な感覚。それを最もよく示す季節感の変遷を、各々の時代を特色づけた文芸作品や思想の中にさぐり、日本人独特の心の歴史を究明する、創見に富んだ日本精神史。本巻では、万葉・古今・新古今から、芭蕉にいたるまでの、自然と生活が密着していた時代の日本人と季節の関わりを描く。
万葉から近松・西鶴へ古典を通覧し、人麻呂、世阿弥、芭蕉を日本の“詩の自覚の歴史”の三つの頂点に位置づけ、彼等の美の完成とその源泉の中に、日本文学史のもう一つの道を探り、現代文学の生命力を喚起しようとする。豊かな学識と詩精神で古典と現代の溝を埋め、深い愛しみをこめて現代文学に警鐘を鳴らす著者の、“ライフ・ワーク”『詩の自覚の歴史』の源流となった名著。読売文学賞受賞。
炎のように短く燃えた愛もあり、静謐な長い人生もあった。憎しみの果ての別れもあった…。美の狩人たちの創造の源泉であり、その苦悩と歓喜を共有した伴侶たちにとって、永遠の美とは何だったのか。レンブラントからピカソまで、19人の画家による妻の肖像画を通して、男と女の運命的なドラマをさぐる。
「ニュートンと鉄仮面」から「アインシュタインの謎の遺言」まで、「神と悪魔の物理学」と格闘した人々を、興趣豊かに描いた書き下ろし科学エッセイ。
ミッドウェー海戦初期、零戦隊は米新鋭機アベンジャーを叩き、赫赫たる戦果を上げた。だが首脳陣の決断の一瞬の遅れが日本軍に潰滅的打撃をもたらす。敗因分析もろくにしなかった日本軍に対し、米軍は冷静な分析の中から次なる方針を打ち出し、F6Fの開発、零戦情報の収集を急いだ…。渾身の大河ノンフィクション全6巻の2。
呉の兵は強かった。それは彼らが、戦さで一旗挙げようとする、フロンティアの若いあぶれ者だったからである。呉は名将にも恵まれていた。周瑜と魯粛は赤壁で魏軍を破り、呂蒙は関羽を生捕りにし、陸遜は劉備の報復軍を退け、陸抗は怒涛のような西晋軍を食い止めた。呉はフロンティアの常として山越という異民族に悩まされたが、呂岱や周魴はその内患をよく処理した。「呉書」第八〜第十五を収める。
組合闘争にゆれる本多銃砲火薬店。その工場に勤める花城由記子が、遺書をのこして失踪した。社長の1人息子・本多昭一と心中するというのだ。しかし、昭一の遺体が発見されてからも、その行方は杳として知れなかった-。ついに殺人犯人として指名手配をうける由記子。姿を消した姉を追って、花城佐紀子は必死の捜索をつづけるが…。本格、社会派、サスペンスの見事な融合。ロマンにあふれた作風で、笹沢ミステリの原点をなし、第14回日本推理作家協会賞を受けた傑作長編。
夢を追う日々。映画「うみ・そら・さんごのいいつたえ」製作・興行全記録。
SEXの常識をかたっぱしからひっくり返す、ライブ感覚あふれる感動のレッスン。今世紀最後の性革命。
明るく華やかな南フランス・プロヴァンス文化のトルヴァドゥール的情趣と共感しあい、ニーチェの思想の光と影が多彩に明滅する哲学的アフォリズム・詩唱群。神の死に関するニヒリズム、永遠回帰思想の最初の定式化、ツァラトゥストラの登場など、ニーチェの根本思想の核心が明確な姿を現わしてくる重要な作品である。重大な精神的転換期にあった哲学者の魂の危機の記念碑。
本書の主人公ジム・ガードナーが発見するのは、かつてのSF映画の定番、空飛ぶ円盤である。ジム・ガードナーは詩を書きながら大学で英文学を教えていたが、アルコール中毒に苦しみ、一方では反原発デモに加わって検挙されたりしているうちに、友人を失い職を追われ、いまでは詩の朗読で食いつなぐ、鬱屈した中年の社会的落伍者になりはてた。ほとほと自分に愛想が尽きて命を断とうとするのだが、そのとき、友人のボビが大変なことになっているという虫の知らせを感じる。昔の恋人でもあるボビを救いたい一心で自殺を思いとどまり、彼女の農場を訪ねてみたガードナーは、驚くべき変化をまのあたりにする。メイン州の田舎町ヘイヴンとその住民全体が、驚異的でもあり不気味でもある変化をきたしはじめていたのだ。しかも、その変化は、ボビの家の裏手にひろがる森のなか、地中深く埋もれた不可思議な円盤状物体の仕業と考えられた。この物体は生活の利便をもたらし、ひいては戦争抑止の効果をも発揮する夢のエネルギー源なのか、それとも…。
一台の古いピアノが金沢の女子大の片隅に眠っている。その朽ちかけたピアノが、実は乃木将軍から贈られたロシア将軍ステッセル夫人愛用のピアノだったー。その伝説の真偽を追ううちに、作者はステッセルのピアノと伝えられる古いピアノが、なぜか全国各地に存在することを知った。乃木・ステッセル伝説は、はたして真実なのか。日露戦争で散った人々への鎮魂の思いをこめて、日本、中国、ロシアへと旅するうちに意外な事実と深い感動が次々と作者の前にたち現れてくるー。
月々の文芸誌掲載全作品を取り上げて、縦横2軸の座標による仮借ない採点を施し、文壇内外に賛否激論の渦を巻き起こしたスーパー文芸時評の単行本化。
死の直前に訪れる「仲よし時間」に人は何を語ってゆくのか。安らかな死、感動の記録。
明治の黎明期に近代小説の先駆的な作品『浮雲』を書き、〈言文一致体〉を創出した文豪二葉亭四迷の四十六年の悲劇的な生涯を全十七章から成る緻密な文体で追う。最終章はロシアからの帰途の船上で客死する記述に終り、著者「あとがき」に、「これは彼の生活と時代を再現することを必ずしも目的としたのでなく、伝記の形をとった文学批評だ」とある。評伝文学の古典的名著。読売文学賞受賞。
墓地に行き、山田さんの墓をさがしておまいりをする。ばれないように、1匹の蟻のあとをずっと追いかけてみる。むかし住んでいた場所の思い出地図を描く。こうやってひまをつぶそう。123の方法。
故国ドイツを離れて半世紀、単身南米ペルーの熱砂漠で、『ナスカの地上絵』の解明に挑み続けるマリア・ライヘ。その情熱は、何に由来するものなのか。未知の遺跡に半生を賭けた女性数学者の生涯を追って、ペルー、そして統一前夜の激動する東ドイツ・ドレスデンへ…。完成まで五年を費やした著者渾身のノンフィクション。
記憶の中から鮮やかによみがえるかけがえのない人間の物語。名エッセイ12編。
反時代的とは何か。時代に背を向けているだけの冷淡な反対的態度ではなく、積極果敢な時代批判を通して未来を指向する精神。これがニーチェにおける最も美しい〈反時代的〉という意味である。ショーペンハウアーとヴァーグナーに反時代的人物の典型をみる若き日のニーチェの、厳しい自己追求のうちに展開される徹底的な近代文明批判の書。すべての青年たちに捧げられた青年の哲学。