「隠修女」-それは独房でひたすら神に祈り、生涯を送る修道女。中世英国に実在した隠修女にとりつかれた、田舎町の司祭デュヴァルは、歴史を掘り起こし、彼女の伝記執筆に異常な執念を燃やす。やがて彼は若い女性に牙をむく。女を拘束し、隠修女に仕立てあげるのだ!密室で、人間としての尊厳をすべて奪われながら、彼女は必死の抵抗を試みる。だがデュヴァルにとっては、隠修女を自分のものにし、神の道を明らかにする聖なる行為だった…監禁の恐怖、狡猾な狂信者と無力な女性の心理戦!英米騒然の歴史サイコ・サスペンス。
昔は繁盛した町の菓子屋。すっかり没落し、売り物の饅頭を作る粉も無くなった。切迫した家計に絶望する「お婆さん」の苦悩は報われるのか(小林多喜二『駄菓子屋』)。髭ばかり立派だが安月給で洋服も買ってくれない父親。医者の子、軍人の子、様々な境遇の級友の間で肩身が狭い「私」(十和田操『判任官の子』)。工場勤めのサイは、集団就職で上京する弟の勇吉が心配でならず、上野駅へ向かう(宮本百合子『三月の第四日曜』)。誰もが皆、労働に明日を託して必死に生き抜いた時代の三篇。
唐沢家に嫁いだ三人の嫁ー縁もゆかりもなかった私たちが親友同士のようになったのは、天衣無縫で洒落者の義父のおかげであると言ってよかった。義父は私たち三人の嫁と、足の不自由な娘・有沙を平等に愛した。平穏な日々のぬくもりーだが、雪に閉ざされた別荘で義父を待つ四人に届いた一通の速達が幸福な家族生活を壊した。恐怖に怯えながらも義父の身を案じる四人を、驚愕の結末が待ち受ける…。
14世紀後半の英国。宗教改革の先駆者ウィクリフの手で初めて庶民の言葉、英語に翻訳された聖書。迫害を耐え忍びつつ新しい聖書に美しい挿絵を描く流浪の絵師フィンは、美貌の女領主キャスリンの元に身を寄せ、彼女と恋に落ちたがゆえに、神父殺害の嫌疑をかけられる。英国小説伝統の語りの面白さをゆたかに継承し、スリリングな場面の連続で、読み出したらやめられない歴史ロマン。
結婚披露宴で、アラナは夫リースの友人とダンスを踊っていた。すると驚いたことに、リースが嫉妬に満ちた視線を向けてきた。変ね、彼が嫉妬なんてするはずがないのに。結婚紹介所“求む、妻”を通じて愛情抜きの結婚をしたアラナは、リースにとって、飾り物の妻でしかなかった。二人が喜びとするのは、ベッドのなかでの行為だけ。だがその夜交わした愛は、今までとは何かが違っていた。もしかしたら、私たちの関係が変化し始めているの?それを確かめることはできなかった。翌日アラナは交通事故に遭い、全ての記憶を失ってしまったからだ。
今、彼女は殺されようとしている。まだたった14歳なのに。悪夢のような人生でも希望だけは捨てないできたのにー。重傷を負ったコークが避難した小さな町で身元不明の少女の水死体があがった。さらに明らかになる20年前の少女殺害事件。前作『闇の記憶』に続いて、ハードボイルドの新境地を切り拓く傑作。