ジェンダー視点で見る新しい世界史通史
歴史を形成してきた「ひと」とは何か。「近代市民」モデルを問い直す!
この世界に生きる「ひと」は年齢・身体的特徴・性自認・性的指向等、多様な属性を持つ存在であるが、国家や社会はしばしば「ひと」を単純化し、望ましい役割や振る舞いを割り当てる。とりわけジェンダーは「ひと」の定義の根幹にかかわる存在である。本巻では「ひと」の生にジェンダーがいかに作用しているのかを、「身体・ひと」「生殖・生命」「セクシュアリティ・性愛」「身体管理・身体表現」「性暴力・性売買」の各領域について歴史的視座から検討し、その構造を考察する。
第1章では、各文化における身体・生命観を問い、社会的規範としての「らしさ」がいかに構築されるのか、「ひと」がいかに分類され、差異化されたのかを比較史的に明らかにする。
第2章では、産む身体としての女性身体、産まれる子の生命、人口政策・人口動態を論じる。
第3章では、歴史上の多様な性愛・結婚の在り方を確認し、LGBTQの人びとの在り方をめぐる比較史に焦点をあてる。
第4章では、「健康」の文化性、身体描写や身体表現のジェンダーバイアスを検討する。
第5章では、性暴力の歴史と買売春の比較文化を叙述する。
■本シリーズの特徴
世界史通史としての本シリーズの特徴は、「国家や政治・外交・経済」といった「大きな物語」を中心に記述するのではなく、等身大の「ひと」を中心に据え、それを取り巻く家族や共同体、グローバル経済や植民地主義といったテーマに段階的に踏み込んでいくという構成にある。
近代歴史学の根底にある近代市民社会モデルは、暗黙の裡に「健康で自律的な成年男性」をその主たる担い手と見なしていたが、それは一方で女性や社会的弱者を歴史から排除することにもつながっている。本シリーズでは、単に歴史の各トピックについて、ジェンダー史の知見を紹介するのみにとどまらず、「ひと」はそもそも「ケアしケアされる存在」である、という認識に立って、世界史の叙述そのものを刷新することを目指している。
なんでもかなえる「ヴォルテックス」を説明しながら、「セクシュアリティ」「親子関係」「自分を高く評価する方法」についてもエイブラハム流に語る、最先端の人間関係論。
神話、宗教、芸術、国家、革命。あらゆる幻想にひそむ恐怖と性の関係をえぐり出し、大学闘争、ベトナム戦争、中東戦争など60年代から現在にいたる時代を戦いぬいた女の歴史を軸に、タナトスの政治からエロースの政治への道を提唱する。性と暴力の根源的関係を掘り下げるセクシュアリティの文明論。
性の装置としてのポルノグラフィと、美の表象としてのヌード・アート。女性の身体を引き裂く二つの眼差しに潜む文化的再生産の過程を、フェミニズム・アートの立場から解析する。
日常のそこここに遍在する性の姿をあぶり出し、欲望の社会編成を暴く。
ラブホテルとアダルトビデオ、恋愛至上主義の共犯関係が、日本のセクシュアリティを縛り付けている。私たちは、そこから自由になれるのか?「愛」という名の均質な空間が、行為の貧困化を加速する。
ヘミングウェイは「なぜ」ヘテロセクシュアルで男らしく「あらねばならない」のか?メディア、批評家、出版社、編集者、そして読者の、作者の構築をめぐる様々な欲望を「読む」。バルトやフーコーの反作者主義から「歴史を有する作者」を救出し、ポスト構造主義の視点から作者に接近を図る。セクシュアリティを中心に新たなヘミングウェイ像を提示。
ジェンダー理論の達成をふまえ、歴史的資料を縦横に駆使し、法と歴史学・社会学の学際的架橋をめざす。
第1部「ジェンダー秩序と法秩序」で方法論的・歴史的枠組を示し、第2部「近代的ジェンダー・バイアスの生成」でヨーロッパ近代秩序としての「公私二元構成」の問題点に、姦淫罪、嬰児殺、読書協会を例に鋭く切り込み、第3部「法秩序のなかの家族と生殖」で「親密圏」への国家と法の関与を指摘する。
はしがき
第1部 「ジェンダー秩序」と法秩序
第1章 「ジェンダー研究」の展開と「ジェンダー法学」の成立
第1節 「ジェンダー法史学」の意義と目的
第2節 「ジェンダー法学」の成立と「ジェンダー法史学」
第2章 「ジェンダー秩序」の2類型
第1節 「ジェンダー秩序」の類型化仮説
第2節 「キリスト教的=身分制社会型」ジェンダー秩序と「公私二元的=市民社会型」ジェンダー秩序
第2部 近代的ジェンダー・バイアスの生成
第3章 ヨーロッパ近代の公私二元構成
第1節 「公」と「私」--概念の変遷
第2節 「公/私」関係の歴史と展望
第4章 「法と道徳の分離」にみるジェンダー・バイアスーー姦淫罪とその廃止
第1節 「風俗犯罪」と姦淫罪
第2節 近世バイエルンの姦淫罪
第3節 姦淫罪の廃止と「性の二重基準」の確立
第5章 「人道主義」のジェンダー・バイアスーー嬰児殺論をめぐって
第1節 嬰児殺論の位相
第2節 啓蒙期の嬰児殺言説
第3節 「人道主義」の勝利とジェンダー
第6章 「公共圏」のジェンダー・バイアスーー啓蒙期の読書協会
第1節 「公共圏」としての啓蒙空間
第2節 男たちの「公共圏」
第3節 コミュニケーションのジェンダー・バイアス
第3部 法秩序のなかの家族と生殖
第7章 法秩序としての「近代家族」
第1節 近代家族法システム
第2節 「近代家族」論争と近代的家父長制
第8章 「逸脱者」としての「未婚の母」と「婚外子」
第1節 婚外子法制の現状
第2節 前近代ヨーロッパにおける婚外子法制の展開
第3節 「未婚の母」の変化ーー啓蒙期法典編纂
第4節 19世紀前半のプロイセン婚外子法改革とジェンダー
第9章 「家族の保護」と「子の保護」の競合ーーワイマール〜ナチス期の婚外子法改革論
第1節 ドイツ民法典婚外子法
第2節 ワイマール〜ナチス期の婚外子法改革論
第10章 生殖管理のジェンダー・バイアスーーナチス優生政策と断種法
第1節 ナチス優生学の歴史的位相
第2節 ナチス優生法制の背景と比較
第3節 ナチス断種法の手続と実態
主要文献目録
あとがき
索引
これ以上「女」や「男」を演じるのはイヤだ。自分の色のままでいたい。私のままで行こう。
“人間と性”教育研究協議会(性教協)設立20周年記念出版。わが国の「男」の歩みを徹底分析・検証。「男の性と生」の現状と展望をラジカルに読み解く。
村上春樹の摩訶不思議な長編小説『騎士団長殺し』を
「穴」を鍵語に、
物語に潜むセクシュアリティを読み解く本格評論!
『騎士団長殺し』を手にした読者は、作品中に張り巡らされた
「穴」を意識せざるを得ない。
数々の「穴」は何を意味するのか?
村上春樹の文体、そして、村上作品を特徴づける
セクシュアリティを徹底して読み解く。
「畢竟本書が指向するのは、
『騎士団長殺し』という「物語」を侵犯して
身体性をもつ運動体としての文体=エクリチュールが、
多様なセクシュアリティを横溢させて
読者との連続性を実現することである。」(「はじめに」より)
第一章 文体
身体性をもつ文体
「物語」分析
第二章 「免色」のセクシュアリティ
「穴」
「鈴」
象徴としての「クリトリス」
「私」、及び「騎士団長」にとっての「鈴」
「穴」に入る
「免色」の象徴的な「死」
「場に共有されるもの」
象徴としての「穴」
男性性の「均質な性」を共有する「穴」
「私」と「まりえ」とが共有したもの
「穴」のセクシュアリティ
フロイトの「肛門愛」
「クローゼット」
「免色」の告白
妊娠を前提にした普通の男女の性愛行為
「クローゼット」の外にいる「イシキ」
「複数の沈黙」をもつセクシュアリティ
「顔なが」
「メタファー通路」
閉じられている「免色」のセクシュアリティ
「私」の主体性の獲得
「穴」の中での通過儀礼
「私」が妻「ユズ」に会いにゆく
「免色」の欲望
ドーナッツ化した「神殿」
「タイヤの空気圧」を測る
「母親」殺し
「免色」の「穴」は閉じられてゆく
実際の「穴」のその後
「鈴」と「懐中電灯」
第三章 「騎士団長」の死
「騎士団長」は殺害されねばならない
「諸君」と「あらない」
「第四人称」
「読者」
「饗宴」のスタイル
エクリチュールの運動
「白いスバル・フォレスターの男」に見る自然死
第四章 暴力の個体性
「物語」の暴力
国家レベルの暴力、あるいは暴力性=悪
国家権力の暴力と個人の暴力の混在
『トレブリンカの反乱』に見られる暴力
「父親」殺し
個人の暴力、あるいは暴力性=悪
「騎士団長」殺し
暴力の個体性における「連続性の意識」
美と暴力と商品化の罠の中、「性に憑かれた時代」を突破するラディカルな問いかけ。