近年のレキシコン研究は、単に語彙の分析にとどまらず、意味と語用のインターフェイス、構文や語形成との関係を視野に入れた新たな探求が展開されている。本書は、レキシコン理論における「語彙の情報とは何か」という究極の問いに答えるべく、概念意味論、生成語彙論、分散形態論、形式意味論などの理論的枠組みや、実験、定量的分析といった研究手法に基づく論考を収録し、レキシコン研究に新たな視点をもたらす意欲的な論文集である。
執筆者(五十音順):青柳宏、岸本秀樹、木戸康人、工藤和也、佐野まさき(真樹)、澤田淳、澁谷みどり、田中秀治、富岡諭、中谷健太郎、日高俊夫、森山倭成、山田彬尭、依田悠介
第I部 語の意味と文の構造
第1章 意味合成の領域とレキシコンからシンタクスへの写像
工藤和也
第2章 「場所格交替」再訪 -多義性と強制に基づく項交替ー
岸本秀樹
第3章 韓国語における受動文の派生と二重使役の衰退について
青柳 宏
第4章 「ではないか」構文における節構造と上方再分析
森山倭成
第5章 とりたて詞の焦点拡張と多重生起 -複文における対比のハを中心にー
佐野まさき(真樹)
第II部 語用論的意味をめぐって
第6章 日本語の指示詞の意味と語用論 -ソ系指示詞の直示用法を中心にー
澤田 淳
第7章 「普通に」における語用論的意味 -客観化・対人化ー
日高俊夫
第8章 「Vすることを始める」の持つ「習慣性」-統計モデリングを用いた容認度判断の検証ー
山田彬尭
第9章 テシマウは本当に完了のアスペクト形式なのか
中谷健太郎
第III部 語や形態素の意味・構造・機能
第10章 ダケの語彙的意味 -度数の意味から排他性へー
富岡 諭
第11章 動詞「掘る」の多義性について
澁谷みどり
第12章 5種類の接辞「っこ」の意味と機能
木戸康人
第13章 分散形態論と語彙的V-V複合語の意味構成
田中秀治
第14章 日本語数表現に見る異形態
依田悠介
本書の目的は既存の通説を打破して、新しい上田万年像を打ち立てることである。上田万年は称賛するにせよ、批判するにせよ、西洋言語学を日本に導入した人という評価は変わらない。その評価はどこまで正しいのか。そこが本書の出発点である。新村出筆録・柴田武校訂(1975) 『シリーズ名講義ノート・上田万年 言語学』をネット上にある上田が参照したと思われる原書文献と照らし合わせ、上田の西洋言語学理解を検証する。
マイノリティとしてのろう児が抱える不利益構造を新たな角度から抽出し、「ことば」=「日本語(国語)」という言語観と多言語社会への不寛容を批判する中から、誰もが「ことば」や「情報」から疎外または排除されない社会の形を展望しようとする、障害学的社会言語学の成果!
ことばへの権利とはなにか
ことばや障害が原因となって社会的に排除される現象や、社会言語学として提示されているさまざまな記述を再検証し、さらに問題として認知すらされていない、ことばやコミュニケーションにかかわる諸問題を発見し、少数者/情報弱者にひらかれた新しい言語観を提示する。
本書は、中国の中に、日本語のような言語を話す民族がかなりおり、その言語を観察しながら、日本語・日本人が通って来たかもしれない道を探っていきます。モンゴル語、満州語、シベ語、延辺語、ウイグル語、ウズベク語、カザフ語、チベット語、土家語、ナシ語、プイ語、しまいには、北米のナバホ語にも触れます。読み終えた後、ご友人やご家族に、物知り顔で話していただければ、さいわいです。「ねえねえ、こんなの知ってる?」
1章 日本語・中国語・英語 日本語・中国語・英語の違いは、助詞・語順・一致。
2章 中国少数民族とその言語 日本語のそっくりさん、そんなに?
3章 ウルドゥ語 インド・ヨーロッパ語なのに、日本語の風情。
4章 ベンガル語 インド・ヨーロッパ語なのに、日本語の情緒。
5章 モンゴル語 ほぼ日本語。
6章 満州語 ほぼ日本語。
7章 シベ語 ほぼ日本語。
8章 延辺語 ほぼ日本語。
9章 ウイグル語 かなり日本語。
10章 ウズベク語 まあまあ日本語。
11章 カザフ語 まあまあ日本語。
12章 チベット語 かなり日本語。
13章 土家語 かなり日本語。
14章 ナシ語 まあまあ日本語。
15章 プイ語 ちょっと日本語。
16章 ナバホ語 日本語の古語か!
17章 中国語 語順のわけ。
18章 おわりに 日本語が通って来たかもしれない道。
本書は、科学哲学の観点から、言語学における新たな言語理論の展開のメカニズムの諸相を明らかにしていく。特に、生成意味論を母体として出現した認知言語学の科学的探求の方法を、科学哲学のパラダイム変換の観点から考察する。また、認知言語学の研究が、言葉の探求だけでなく、修辞学、哲学、認知心理学、脳科学、等の関連分野の研究にどのような重要な知見を提供するかを考察していく。言葉と知のメカニズムの研究への新たな指針となる一冊。
まえがき
第1章 序
第2章 科学哲学からみた言語理論
1. 言語研究と科学哲学的視点
2. 言語研究における方法論
3. 言語研究の科学観とパラダイム
4. 理論言語学の批判的検討
5. 言語研究の理論負荷性と検証・反証の問題
6. 理論言語学における検証と反証可能性の問題点
7. 科学としての言語学の理想と現実
8. 理論言語学の科学性と妥当性の問題点
9. 言語研究の展望
第3章 理論言語学における意味研究の歴史と展望
1. 言語学における意味研究
2. 理論言語学における意味論ー歴史的展望
3. 自然論理と生成意味論
4. 生成意味論から認知言語学への展開
5. 認知言語学の意味研究ーー認知意味論への展開
6. 認知意味論と認知言語学の文法観
7. 意味研究の科学哲学的検討
8. 言語学のパラダイムと意味研究の(非)生産性
9. 認知意味論のパースペクティヴ
10. 意味研究の展望
第4章 認知言語学の出現の背景ー生成意味論のレガシー
1. 認知言語学の歴史的背景
2. 認知言語学の母体ー生成意味論
3. 生成意味論の研究拠点
4. 認知言語学と言語研究の新展開
5. 認知言語学の最近の動向
6. 言語学と大学の研究体制
7. 理論言語学の批判的展望
第5章 認知言語学の哲学的背景と隣接科学との関連性
1. 認知言語学の哲学的背景
2. 認知言語学と言語過程説の言語観
3. 認知言語学と現象学の関連性
4. パースペクティヴ性とメルロ=ポンティの身体論
5. 認知言語学のパラダイムと西田哲学
6. 認知言語学と科学革命のメカニズム
7. 理論言語学のパラダイム変換と言語理論の包括性
8. 環境世界とアフォーダンスの視点
9. 「環世界(Umwelt)」と生物の知覚世界
10. 共通感覚と身体性からみた学問研究
11. 認知言語学と現象学の科学批判
第6章 言語科学の新たな展望
1. 言語研究の開放性と閉鎖性
2. 認知言語学と知の探求の開放性
3. 認知言語学の関連領域への適用性
4. 科学における収斂的証拠と実証性
5. 経験科学としての言語科学の展望
参考文献(言語学と関連分野)
参考文献(生成意味論)
索引
新型コロナウイルス感染拡大により、私たちの「ことば」はどのように変化したのか。アフター・コロナ時代の新しいコミュニケーションのかたちとはーー。F・クルマスほか、現状とこれからを見すえる諸論考。また、小特集「世界の日本語教師に聞く」では、世界各地の日本語教育現場におけるパンデミック下の課題と展望を報告する。
■巻頭コラム:「開会式にみるオリンピックとことば」藤井久美子
■特集:パンデミックの社会言語学
[序論]「パンデミックの社会言語学ーー現在の課題とこれからの展望」パトリック・ハインリッヒ 山下仁
[ドキュメント]「孤独感、助けを差し伸べる手、〈真実〉」フロリアン・クルマス(訳:柳田亮吾)
[論文]「コロナ禍のタンザニアの「異端」化を読み解く」沓掛沙弥香
[課題研究]「クライシスコミュニケーションからみるコロナ初動期の政治家記者会見の特徴ーー国・地方政府の首長に焦点をあてて」石原凌河 村田和代
[研究ノート]「中華人民共和国における新型コロナウイルス感染症対策の応急言語サービスについて」小田格
[事例報告]「コロナ禍を「観る」--東京メトロにおける行動変容を呼びかける啓発ポスターを対象として」杉浦黎
[事例報告]「コロナ禍のオンライン国際協働学習ーー複言語・マルチモーダルなリソースを用いてつながる経験がもたらすもの」村田晶子
[事例報告]「ディスレクシア(読字障害)の生徒に、英語の対面授業を続けて」成田あゆみ
[あとがき]「パンデミックと〈ことば〉--触媒か断絶か」佐野直子
■小特集:世界の日本語教師に聞くーーパンデミック後の言語教育のために
佐藤慎司/西田翔子/アルン・シャム/フィリア/ハナーン・ ラフィーク・モハマッド/尾辻恵美/福井なぎさ/中根育子/キャロル・ヘイズ/井口祐子/永見昌紀/ウォーカー泉/松永稔也/沓掛沙弥香/原口望友紀/松山里美/ハリナ・ザヴィショヴァー/毋育新/杉田優子/布尾勝一郎/荻野雅由/大原由美子/リーッカ・ランシサルミ/藤原団/ウー ワイ シェン/トゥ トゥ ヌェ エー/ヴォロビョヴァ・ラリーサ
■書評
Florian Coulmas, An Introduction to Multilingualism: Language in a Changing World[評者]平野恵実
小林隆(編)『感性の方言学』、『コミュニケーションの方言学』[評者]椎名渉子
Patrick Heinrich and Yumiko Ohara (eds.) Routledge Handbook of Japanese Sociolinguistics[評者]岩崎典子
■連載報告 多言語社会ニッポン
アイヌ語 :「an=kor itak ani an=kor puri an=eisoytak〔私たちのことばで私たちの文化を語る〕」深澤美香 naakay(中井貴規)
琉球弧の言語:「物事を見えるようにするどぅなんむぬいーー与那国民謡の記録保存と翻訳」ジュリア・ヴァルセッキ
移民の言語:「セーフティーネットとしての言語」
その1「大阪ミナミ コロナ禍が浮き彫りにする「ことばの壁」」原めぐみ
その2「聞き取り活動による社会・文化的仲介ーーカトリック・コミュニティのベトナム人技能実習生支援から」巣内尚子
手話:「手話の法制化は聾者の言語権を保障するのか〈前編〉」金澤貴之
■近刊短評
最先端の知見をも含めた認知言語学の多種多様な基礎概念を、正確に且つわかりやすく読者に伝達するとともに、「認知日本語学講座」第2巻から第7巻で展開される「認知言語学的観点からの日本語分析」への橋渡しを行う。
認知言語学の研究領域で議論されてきた英語の現象を中心に、その基礎概念を丁寧に紹介する。シリーズの各巻への橋渡しとなる一冊。
■「まえがき」より
本書は,全7巻で構成される「認知日本語学講座」の第1巻であり,そのタイトルは『認知言語学の基礎』となっている。「認知日本語学講座」の企画意図としては,本書冒頭の「刊行にあたって」で説明されるように,「認知言語学の方法論と研究法を,主に日本語の具体的な分析に適用した研究書のシリーズ」であるという点に凝縮される。しかしながら,これを行っていくためには,認知言語学の研究領域においてこれまでに提起されてきた諸々の基礎概念を正確に理解した上でなければ,この種の適用はそもそも難しいものと一般に考えられる。したがって,「認知日本語学講座」の第1巻が果たすべき役割としては,最先端の知見をも含めた認知言語学の多種多様な基礎概念を,正確に且つわかりやすく読者に伝達するとともに,第2巻から第7巻で展開される「認知言語学的観点からの日本語分析」への橋渡しをすることにあると言える。この意味において,本書では,認知言語学の現状をできる限り正確に伝える目的で,認知言語学の研究領域で議論されてきた英語の現象を中心にして,認知言語学の基礎概念を紹介していく。
本書は、没政治的な多言語主義者や危機言語擁護派の対極にたち、言語問題への徹底して政治的な視点を提示する。
一般に「慣用句」と認められるものは、構成語・文法・意味の面で「固定的表現」である。しかし、日本語と英語両言語の慣用句の中には、固定度が高い「典型的なもの」から、固定度が低い「周辺的なもの」までがある。また、日本語とその他の言語の慣用句の対応関係を明らかにするために、個々の構成語の「比喩性」を比較する従来の手法のほかに、それぞれの言語において共通の意味を持つ句の使い分けを手掛かりに、個々の慣用句間の共通点・相違点を明確にする手法が有効である。