医師の男と旅をともにすることになった、浪人・平馬。最上川近くの森の中、男に襲われていた女・おちかを二人は救うのだが、その直後、首なし死体が川から流れてくる…。森にひそむ恐ろしきものは、妖しか、人か…。怪異と活劇、そして感動あふれる、ファンタジック時代小説。
食べなければ生きてゆけぬというあたりまえの条理をやや苦みを帯びた虚無とともに噛みしめて生きているということ自体、虚無なのかもしれない。そんなことを考えながら、蜘蛛は目を閉じた。葭切の鳴く蘆の茂る水辺で食うか食われるか、卑小な昆虫や小動物たちが蠢くもうひとつの世界というトポス。
悪政を敷く御国家老に父を謀殺された有馬喬四郎は、江戸の長屋に身を潜めて復讐を誓う。が、まずはその日の暮らしが大事。怪しい仕事で日銭を稼ぎ、女人に妻の面影を求め、返す刀で刺客を倒す。ままならぬ日々を懸命に生きる喬四郎と、ひと癖もふた癖もある悪党どもが繰り広げる珍騒動。時代小説の愉しみを満載した新シリーズ。書き下ろし時代小説。
黒澤とシェークスピア、時代を超えた邂逅!
「歪んでしまった日本の時代劇映画を正しい形に戻す」。
「羅生門」「生きる」「七人の侍」他の作品を次々と送り出し、世界のクロサワの声価を不動のものとした黒澤明。真摯な使命感のもとに彼は壮大な計画に取り組んだ。それが「蜘蛛巣城」「どん底」「隠し砦の三悪人」と続く時代劇三部作による、冒頭の宣言である。
その劈頭を飾る本作品で、黒澤は、シェークスピアの原作「マクベス」を戦国時代の物語に翻案し能の形式で表現するという、野心的な構想に挑戦した。富士山二合目に御殿場の町からも遠望できたという巨大な城のセットを築き、森を動かし、グランプリ俳優・三船敏郎に矢の雨を降らす。当時としては空前の製作費と人員を動員し、妥協なき演出姿勢から生まれた「蜘蛛巣城」は国内外で高い評価を受け、狙い通り日本映画を根底から覆す傑作となった。
シェークスピアの本国・英国ロンドン国立劇場の落しにも招待上映され、名優ロード・ローレンス・オリビエをインスパイアしたと言われる世界的傑作。その創造の深き森にこの1冊をお手元に分け入ってください。
【編集担当からのおすすめ情報】
生命の危険も顧みず、矢の雨の中に立って壮絶なラストシーンを演じた三船敏郎。幅70m、奥行90mという巨大な蜘蛛巣城のセット。2000人のエキストラと550頭の馬を動員したという合戦シーン。森の木を切られねぐらを失った鳥が場内の三船の肩に止まるという象徴的シーン。特撮もスタントもましてやCGも使わずに、どうしてこんなシーンが撮影できたのか。撮影の記録係野上照代氏の貴重な証言は必読です。「歪んでしまった日本の時代劇映画を正しい形に戻す」という黒澤の言葉は、むしろ今の日本映画界に向けられた言葉なのかもしれません。
1920年代、ロスト・ジェネレーション。ドイツでは秘密結社とホモセクシュアルの妖しい匂い、そしてユダヤ人の迫害。『聖なる酔っぱらいの伝説』の著者が放つ危険な物語。物語作家ロート、幻の処女作。
惚れた男を庇って、明後日に火炙りとなるおりくは、勘兵衛が十三年前に捕まえ、改心させたはずの元掏摸だった。妊婦がゆえ牢屋敷で赤子を産んだが、囚人は不浄なため抱かせてもらえぬ身。憐れんだ勘兵衛は伝を頼っておりくに会い、名付けはさせてやれたものの、父親の素姓は聞けず終いだったー。救えぬ口惜しさに満ちる勘兵衛は、刑が済んだ小塚原で、深編笠の怪しげな侍を目にし…。
芥川龍之介が若い人のために書いた名作から8編を厳選。
『真実を語る』という言葉を人は言うが、この世の中にどれだけの真実が露わになっているといえようか。時は江戸時代、神職である「嗣朗」のもとに美しき遊女「雲糸」が現われる。やがて愛欲貪る関係に陥った二人に突きつけられた恐るべき『真実』とは…。美しくも禍禍しい『毒蜘蛛』が紡ぎ上げる、儚く哀しい『人間の真実』の物語。第4回碧天文芸大賞出版化奨励作。
備後三次に生まれた京嵐寺平太郎は、故郷から連れて来た妖怪仲間と江戸青山の広島藩下屋敷でのんびり暮らしている。ある日、将軍家重側近の屋敷に巨大な蜘蛛の妖怪が忍び込む怪事件が発生。背後には幕府滅亡を企む謎の僧侶!?天下無敵の妖刀茶丸、三つ目入道、白孤のおきんも大奮闘。本格派もののけ時代小説、大好評シリーズ第二弾。
芥川(一八九二ー一九二七)が小説、随筆、童話、戯曲と、その才気にまかせて様々のジャンルで試みた作品の中から、広い意味で「子どもむき」と考えられる作品を収録した。この作品群から機智や逆説や諷刺、そしてまた、理智の鎧で固められた奥に潜んでいる作者の、少年のような単純で素直な魂を感じとることができる。
愛妻アイリスが母親に付き添ってジャマイカへ発った日、ピーター・ダルースはナニー・オードウェイと知り合った。パーティーで所在なげにしていた二十歳の娘は作家修業中だという。ピーターは父親めいた親切心を発揮して執筆の便宜を図ってやる。やがて待ちに待ったアイリスの帰国、喜び勇んで迎えに行くピーターは、とてつもない災難に見舞われることを知る由もないのだった…。