「そろそろ、ぼくも結婚して家庭を持ってもいいころだと思ってね」ランドの思いがけない申し出に、サラはからだをこわばらせた。「家庭ですって?まるで重役会議でもするように椅子に腰かけたまま、あなたは結婚のことを話すつもりなの?」父のとつぜんの死で、サラはひとり取り残され、多額の借金を背負いこんでいた。しかし、父の長年の友人で、実業界の帝王であるこのランド・エモリーにだけは頼りたくなかった。「わたしの面倒をみると父と約束したことを理由に、一方的に結婚を迫る男なんて…」
すさまじい爆音-耳をつんざく機関銃の音。アリサは懸命に走った。彼を助けなければ。「早く逃げて、早く!」だが、飛行機の爆音でその男に声は届かない。アリサが男に思いきり体あたりする。2人は抱きあったまま真っさかさまに用水路にころげ落ちた…。ミシシッピ川の下流に広がる豊かなデルタ地帯で考古学者アリサとペースの出会いは衝撃的だった。この瞬間から燃えあがる恋の炎。だが野性的な農場主ペースの表情がときおり暗く陰る。ふと彼の口を突いて出る“あの女”とは、いったいだれなのだろう?ポバティ・ポイント遺跡の祭壇で2人が愛を誓うのはいつか…。
マンディはこの西部の町、レッドポイントに戻ってきた。この町を出たのは…いや、逃げ出したのは、もう二十年以上も前になる。そのころ彼女は、教育の理想に燃える新米の小学校教師だった。昔と変わらぬ観光用SL鉄道に立ち寄った彼女は、オーナーだというさわやかな男性とふと言葉をかわし、親しみを感じた。向こうもマンディのことをよく知っている気がするという。やがて思い出したふたりは、気まずい顔でにらみ合った。わたしが初めて担任を受け持った六年生の、クラス一の問題児。わたしにここからしっぽを巻いて逃げ出させた、あのジョーイ。
アビゲイルは突然、夫のオーランドを事故で亡くし、十九歳という若さで未亡人になってしまった。母も継父もすでに亡い今、私は独りぼっち…。夫の葬儀の日、孤独感に沈んでいたアビゲイルは、一人の男の登場によって救われた。継父が目をかけていた料理人の息子、ニックだ。母と継父の結婚式のあと、継父の豪邸に連れていかれたアビゲイルを冷たく出迎えたのが彼だった。それまで継父の愛情を受けてきた彼にとって、アビゲイルは敵だった。以来、二人はなにかにつけて反目し合ってきた。アビゲイルとオーランドの結婚に反対したのもニックだ。そして今、彼は衝撃的な事実をアビゲイルに伝えた。彼女が継父から相続した莫大な財産はすべて亡夫が使ってしまった、と。途方にくれるアビゲイルに、ニックは手助けを申し出た。しかし、その条件とは…。
ジョーは米空軍に籍を置く優秀なパイロットだ。戦闘機開発プロジェクトの責任者でもある。先ごろ、メンバーのひとりが病に倒れ、その代わりにキャロラインがチームに加わった。男にひけをとらないキャリアを持ち、美人でもある。しかし、同僚の間では、彼女の評判はすこぶる悪い。確かに彼女の態度の横柄さは普通じゃないが…。だがそれは男たちへの過剰な警戒心の裏返しでは?ジョーはおおいに興味を引かれ、提案した。「ぼくとつきあっているふりをしないか。そうすれば、基地の男たちにわずらわされることもなくなるはずだ。ここでは、ぼくに文句を言えるやつはだれもいない」。
レイチェルは二ヵ月後に結婚式をひかえている。それなのに、式の手順をめぐって相手のロジャーと意見が合わない。今夜も言い争った末、彼女はパーティを抜け出してきた。帰途につこうとして、ふと広場の中の男性に気づく。男はハンドルに身を伏せ、身じろぎもしない。病気かしら?ほうっておくわけにもゆかず、レイチェルは男に具合を尋ねたが、直感的に、この男がトラブルのもとになるような気がして、急いでアパートに逃げ帰った。果たして翌日、レイチェルが名前も住所も告げなかったのに、その男はノックもなしに彼女のオフィスに姿を現した。
うなるような風と土砂降りの雨…。こんな天気だからといって一時間も待たされるいわれはない。こっちはNYタイムズの紙面を飾ったベストセラー作家なんだ。マーカスはいらいらと部屋を歩きまわりながら、実力派といわれる女性シナリオライターを待っていた。彼の作品を映画化するため二人で脚本を書くことになったのだ。まもなく元気な声とともに現れたアニーの姿は、マーカスの予想を裏切った。まるで子供じゃないか。小柄な体にケープをまとい、笑うとえくぼさえのぞく。一方アニーのほうは、彼の人となりを聞いていたので、挨拶がわりに浴びせられた皮肉も毒舌も意に介さなかった。手ごわそうな相手だけど、そのほうが刺激的だし、原作よりいい作品ができるかもしれないわ。マーカスは、一週間だけ試しに共同作業を提案する。始まりの一週間になるか、終わりの一週間になるか…。仕事始めは明日の朝9時。