近世の後半、町人の哲学として生まれた“心学”は、儒教・仏教・神道・道教の説を取り入れ、庶民の日常生活の中に道徳の実践を説いて発展したが、それは日本が近代化に成功した要因の中でも重要なものの一つであろう。本書は、その開祖石田梅岩の生涯と根本思想について、最も信憑性の高い史料を駆使しながら、平易・簡潔に述べた詳伝である。
日本最初の武家法、御成敗武目の制定者として、また鎌倉時代における稀代の名執権として古来その誉れが高い。北条氏歴代の中で、なぜに泰時ひとりがかくも異数な称讃をかち得たのか。広く関係史料を渉猟し、承久の乱の動揺と武家政権の確立をはかるその時代を背景に、人間泰時の誠実と苦悩の生涯を描き、事績を浮彫りにした好著。
この本は、人間のまったく新しい機能「中心感覚」を解明する本である。といっても、その機能自体は人間というものが“設計”されたときに、すでに組み込まれていたものだ。そして人間は、この機能があったからこそ、今日まで生存を続けてきたのである。しかし、この機能は今まで十分に知られることがなかった。人間はよく知らないままに、この機能を部分的にのみ使ってきたのである。この機能の名を「中心感覚」という。人間は、この中心感覚を具体的に知ることによって、大きな変換をとげることができる。それは、それまで人生の重荷であったものから、いとも簡単に人々を解放してしまう。
豊臣秀吉の天下統一を授けたものに僧侶安国寺恵瓊があることを知る人は少ない。東福寺の住持で一方位予六万石の大名になった幅の広い人生を持ち、毛利氏の外交僧として敏腕を揮い、転換期を泳ぎながら、ついに関ケ原の役に石田三成・小西行長らとともに西軍の主謀者として処刑される波瀾の一生を、確実な史料によりその全貌を描く。
わが国で最初に人体を解剖したのは山脇東洋であり、その学風を受けついで蘭学を京都にひろめ、解剖の技両において匹敵するものとなしといわれたのが小石元俊であった。小石家に伝わる厖大な史料を精査し、元俊の開業医としての姿と、蘭学者間の文化交流の実体を見事に描出して、蘭学草創期における知られざる人物の発掘を行った好伝記。
貧しい人々の葬儀に自らその棺をかついだ大名。利休七哲の1人として、また茶人としても令名のあった大名。強要されても改宗を肯んぜず、封地を擲って殉教を望み、ついに家族もろとも国外に追放されたキリシタン大名の崇高にして聖なる生涯の伝記。
童謡に一時代を画した作詩家の生涯の書。
学問の神「天神様」に対する信仰は、伊勢や八幡信仰などとともに脈々と日本人の心に波打っている。しかしながら、天神様が菅原道真であることや、道真その人については、どれだけ知られているであろうか。本書は、のちのいわゆる天神伝説を取除き、真実の道真像を丹念に叙述した史学界の碩学による道真伝の定本をなす名著である。
世に“萩原治皇”とも弥せられ、『花園院宸記』をはじめ、多くの文筆を遺された花園天皇は、歴代きっての文化人であった。持明院統の出身で早く位を大覚寺統の後醍醐天皇に譲られたが、南朝側に対する理解もまた深かった。本書は宮廷史・官制史に独自の学風をもつ著者が当時の宮廷の中にいきいきと天皇の生涯を描き出した。
日記・記録は古文書と共に、日本史学の研究にとり極めて重要である。本書は難解な日記について、その特質や研究上の問題点などを平易に解説、古代から近世に及ぶ日記の概要を簡潔に説く。また、各時代の記録の箇条を例に引いて読下し文を掲げ、特殊な用語等には注解を付した。古記録学を提唱した著者にして初めて可能な好著。
庭の松にしかハーケン(登攀具)を打ったことがない悪友に誘われて岩壁に挑み、みごとズリ落ちた帰り道、ふとみつけた夏みかんに静かに感動する表題作。以来、地球凸凹状況探険家となったシーナがニッポンを歩く。あるときは雪山に天幕を張って酒盛り。またあるときは山のいで湯で温泉正常化を考える。はたまた、カヌーで秘境の沢をくだる。焚火と自然と人間をこよなく愛す、アウト・ドアエッセイ。
市民がつくる開かれた博物館を提唱しその豊かな可能性を模索しながら志なかばで逝った著者の遺稿。
本書は古文書とはから、読み方、用語・用字・文体の用例を通してその解読法を分りやすく解説し、研究・利用法により、古文書が歴史研究の史料となるまでを具体例で示す。独学で古文書の解説が習得できるよう工夫された最新の入門書。
佐々木導誉(高氏)は佐々木氏の庶流京極家の出で、近江に本拠を据え、初め北条高時に仕えたが、南北朝動乱期に活躍し、足利尊氏を補佐して幕府の基礎固めに尽力した。多くの国の守護を兼ね、旧来の権威を軽視する「ばさら大名」の典型とされた反面、芸能・文芸に堪能な風流の武将であった。文武両道に秀でた魅力的な風雲児の生涯を描く。
現代の韓国・朝鮮問題の出発点「日韓併合」を、日韓両国の歴史事業の検討の中から浮び上らせる。原因を日本の侵略過程からだけでなく、「併合」当時の両国を取り巻く国際環境からも検討し、広い視野から事実を究明する。
さまざまな特徴をもつ日本民族はどこからきて、どのように形成されてきたか。その謎を、人類進化の壮大なドラマの中で、ごく普通の集団として生れたことを追求。人種偏見や差別がいかに根拠のないものかを浮彫りにする。
犬公方・綱吉は名君か暗君か、それとも単なる偏執狂だったのか。在世中以来、綱吉は政策と個人の嗜好とが同一視されてきた。取締と処罰の厳しさで怖れられた生類憐みの令、側用人柳沢吉保の寵用、儒学尊重などは、徳川政権のどんな矛盾を打開しようとした結果だったのか。毀誉褒貶の雑説にまみれた、日本史上、最も評価の分れる将軍の生涯を描く。