近代医学の柱である西洋医学の伝統を,心身の健康という観点から明らかにする。著者は西洋中世の医学と医療を,疾病を取り巻く自然環境や社会環境に加え,医師・看護士が行う臨床ケアや病院・施療院などの医療インフラ,さらに健康観や身体観を社会的・文化的に考える身体医文化論の方法によって豊富な資料や図版を用いて考察する。
ヒポクラテスやガレノスにより確立した古代医学は宇宙の中に人間を位置づけ,自然との調和に基づく身体観・人間観をとおして,身体と魂のバランスを体液生理学を軸に展開,これが西欧に伝わり魂の健康と死後の救済を結びつけるキリスト教に受容され,身体と魂の全体をケアするホリスティックな医療となった。
ギリシア医学はイスラム圏に継承され,さらに12世紀に誕生した西欧の大学が医学部教育にイスラム医学と占星術を導入して,中世医学の基盤を形成した。
14世紀に黒死病が発生すると身体と魂の健康への不安が募り養生訓が流行した。女性たちは看護や介護を支えてきたが正当に評価されず,さらに月経や母乳,妊娠と出産など女性の身体を男性に従属する存在と見なす偏見についてジェンダーの視点から解明する。
中世の医学と医療の全体像を示す貴重な業績である。
はじめに
第一章 魂の治療
一 魂の健康
「医師キリスト」(Christusmedicus)
二 身体の治癒と魂の癒し
第四回ラテラノ公会議ーー告解と悔悛の義務
三 巡礼と病の癒し
中世の巡礼
聖人崇拝と聖遺物
身体の治癒
第二章 世俗の医学
一 ギリシャ・イスラム医学の継承
二 古代ギリシャの体液説
三 解剖学と人体の仕組み
四 医学と占星術
五 健康規範(Regimensanitatis)
養生訓
『健康全書』と食餌療法
六 環境
大気・水・土地
臭気と芳香
第三章 医療に従事した人びと
一 内科医
二 外科医
三 薬剤師と薬草医
第四章 女性の身体
一 古代医学の生殖観
男女の違い
月経と母乳
二 男性(vir)と女性(mulier)
男女の相違の文化的構造
キリスト教会と女性蔑視
三 女性の仕事
妊娠・出産
女性と医療活動
第五章 中世の病院(施療院)
一 聖なる空間
二 慈善事業
最後の審判
煉獄思想と魂のケア
三 身体のケア
結び
あとがき
注/参考文献/図版一覧/索引
秀逸な着眼と方法で障害者差別の具体的な姿と日本社会の構造的問題を浮彫りにする瞠目すべき社会学研究の達成。綿密な聞き取りと、ジェンダー論から福祉国家論にまで及ぶ理論的考察は、差別研究に新地平を拓く必読の労作である。
ノーベル文学賞(1991年)受賞の白人女性作家として著名なナディン・ゴーディマが生涯を通じて追求し描き続けた、人種差別と男女差別と異文化交雑する南アフリカ社会の中に生きる女と男の姿を通して見えてくるものがある。
序章 ゴーディマの作品世界と南アフリカ社会:人種、ジェンダー、セクシュアリティが交差する国家と家族のポリティクス
第一章 『偽りの日々』における植民地支配者の娘の抵抗
第二章 『愛する機会』と『自然の変種』におけるアパルトヘイト政策と異人種間の愛と性
第三章 『バーガーの娘』における場所のポリティクスと主体性の問題
第四章 『マイ・サンズ・ストーリー』におけるカラードアイデンティティと南アフリカの文化変容の模索
第五章 新生南アフリカ国家と家族、女性、権力:ゴーディマのポストアパルトヘイト文学
終章 ゴーディマの作品世界と南アフリカ社会、国家、家族
参考文献
私たちは知らず知らず“国家”がつくる枠の中で生きている。“国家”が規定する境界を超えるとはどういうことか、多様な立場から真摯に論ずる。
序章 戦後日本の政治地理学・行政地理学
第1部 グローバル化をめぐる大都市圏郊外の議会と行政
第1章 グローバル化がもたらした郊外の都市合併ーー東京都旧田無市・保谷市
第2章 東京大都市圏郊外周辺部における最後の「開発型合併」--東京都あきる野市
第2部 米軍基地をめぐる大都市圏郊外の議会と行政
第3章 郊外の在日米軍基地所在都市における文化と政治ーー東京都福生市
第4章 騒音と補助金ーー郊外の「基地公害」をめぐる政治
第3部 大都市圏郊外の政治・行政をめぐる新しい論点ーー環境・ジェンダー
第5章 郊外の新ごみ処理場建設場所をめぐる「環境正義」--東京都小金井市
第6章 地下水をめぐる「ポリティカル・エコロジー」--山梨県北杜市白州町
第7章 40年にわたる郊外の女性運動からみえる市政と「ジェンダー」--旧田無市・保谷市の「どんぐり会」
一橋大学リレー講義「ジェンダーから世界を読む」
書籍化第4弾!
私的領域と切り捨てられてきたものを、
公的な議論の場に引きあげた第二派フェミニズム。
その意義を原点に立ち返って考える。
キャロル・ハニシュのエッセイタイトルにして、
第二派フェミニズム(1960-70年代)の運動を象徴する
スローガンとなった「個人的なことは政治的なこと」。
当時、そして現在の私たちに、
この言葉が意味するものとは何なのか?
ジェンダー、社会、そして個人の生き方との関わりを、
さまざまな角度から13人の研究者が検討する。
巻末には、
キャロル・ハニシュ「個人的なことは政治的なこと」
(ハニシュ本人による序文、訳者解題を付す)を収録。
グリム童話、民話、伝説、神話、演劇、映画、現代小説、都市伝説…。
巷間に伝わる「物語」には、なにが描き出されてきたのか。
民話の受容の歴史や様相、モティーフとその類型、さらにはそこに内包されるジェンダー観念やステレオタイプなど、「物語」の諸相とその連続性を、比較民話学や文献学・民俗学・社会学の手法から考察する。多彩なジャンルの「物語」を題材にして研究手法の新境地を探る。
はじめに 大野寿子
プロローグ
古い菩提樹の下ーグリム兄弟『子どもと家庭のメルヒェン集』の最初の数文について ハインツ・レレケ(横道誠 訳)
1 グリム童話を考える
神話と現実のはざまの「メルヒェンおばさん」像 ベルンハルト・ラウアー(橋木郁子 訳)
「白雪姫」と近親相姦 浜本隆志
巖谷小波とグリム童話ー「小雪姫」をめぐって 前田陽子
朝倉めぐみと中里研の世界ーグリム兄弟協会主催による日本人初のグリム童話展 沖島博美
2 グリム兄弟を考える
幕末にヤーコプ・グリムを訪問した日本人について 野口芳子
歴史を伝える〈もう一つの真実〉のメディアー近代批判としてのグリム兄弟の〈叙事ポエジー〉概念 村山功光
ロマニストとしてのヤーコプ・グリムー古スペイン語ロマンセへの関心 横道誠
3 モティーフの変遷と展開を考える
グリム兄弟、ゲーテ、コサン・ド・ペルスヴァルーアラビアンナイトと異文化理論 ルース・B・ボッティックハイマー(稲毛理津子/野口芳子 訳)
殺された子どもの行方ー昔話「継子と鳥」とATU720類話にみる〈あわい〉存在としての子ども 鵜野祐介
ジョージ・ピールの『老婆の昔話』におけるふたつのモチーフー死者の恩返しと井戸の中の頭 前原澄子
4 社会的役割と家族のかたちを考える
おとぎ話とフェミニズム童話 谷口秀子
「新しい女」とイギリス世紀末文学 玉井ショウ
女性のキャリアと金融リテラシーースミス・カレッジの金融教育からの示唆 西尾亜希子
父親像からみた『花木蘭』-叙事詩から演劇へ 中山文
ドイツの現代伝説における父親像と母親像 金城ハウプトマン朱美
5 表象文化とその連続性を考える
テレビ映画『ニーベルングの指環』-ニーベルンゲン伝説の現在の姿 齊藤公輔
怪物のうごめく海でー古代〜中世ヨーロッパにおける「ひとと水族の関係史」 溝井裕一
花と妖精のヨーロッパー挿絵が誘う「もうひとつの世界」 大野寿子
6 グリム研究者野口芳子について
ふたりのグリム研究者、ハインツ・レレケと野口芳子ー訳者解題 横道誠
「学び」がもたらす「笑顔」について 島田芽実
野口先生との思い出 中村早希
論評『グリム童話と魔女』に寄せて 下程息
エピローグ
野口芳子先生のご活躍を祈念して 竹原威滋
おわりに 大野寿子
「基盤の解体」を鍵語にしてフォークナー創設の架空の土地、
ヨクナパトーファを舞台にした
複雑かつ難解な代表作『響きと怒り』『八月の光』
『アブサロム、アブサロム!』『行け、モーセ』を読み解く!
南北戦争での敗北によってアメリカ南部で
劇的に引き起こされた〈人種・階級・ジェンダーの境界のゆらぎ〉
= 〈貴族階級の白人男性層という旧南部社会の基盤の解体〉を、
〈ストーリー〉の時間と空間の基盤を解体する技法により、それが
いかに強化されているのか、とスリリングな文学読解に本書は誘う。
第二部では、南部作家コーマック・マッカーシーや
映画作家クエンティン・タランティーノ、イニャリトゥ、アリアガ
へのフォークナーの影響、そして、横溝正史の小説を比較。
さらに、大橋健三郎がなぜフォークナー研究に至ったのかを
考察して、日本人がフォークナーを研究することの意味を探る!
序
第1部 ヨクナパトーファ小説における旧南部解体
第1章 虚飾からの覚醒ーー『響きと怒り』
第2章 旧南部への直視ーー『八月の光』
第3章 南部貴族の起源
ーー『アブサロム、アブサロム!』
第4章 南部貴族の重罪ーー『行け、モーセ』
第2部 フォークナー文学と現在/日本
第5章 フォークナーと現代アメリカ南部作家
ーーコーマック・マッカーシー
第6章 フォークナーと現代映画作家
ーークエンティン・タランティーノ、
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、
ギジェルモ・アリアガ
第7章 アメリカ南部と日本のジレンマ
ーー横溝正史
第8章 日本におけるアメリカ文学研究の確立
ーー大橋健三郎
女性解放を中心としたクラーラ・ツエトキーンの伝記であるだけではなく、クラーラが生きた時代の「歴史」における「個人」の役割を追求した。著者55年間にわたる研究の集大成である。
明治女性の書きことばから日本の性差を切り出す!
明治十八年『女学雑誌』が創刊され、多くの女性が論説文を執筆した。
漢字平仮名交じり文で書かれ、文体としては基本的に男性の論説文と同様な漢文訓読的要素を多く含んでいる。
本書では、読者の寄稿文のほか、
跡見花磎 荻野吟子 中島俊子 佐々木豊寿
清水紫琴 若松賤子 樋口一葉
の書きことばを初めて解析。
誰も他人と同じようには働けない。国家による生活統制を機に、主体化の作用が民衆に及ぶ状況を、戦時下、産業報国運動の展開過程に見る。また、人間を部品と化す規律化。それに抗する戦後社会運動の可能性を、生活協同組合と胎児性水俣病患者たちに着目し探る。
序 章 規律化の二面性と「普遍主義」
第1章 近代社会と公私の分離
──規律化・ジェンダー・「普遍主義」
第2章 戦時下の生活統制と産業報国運動の展開
──国家社会主義と規律化
第3章 1950年代における横浜生協の生活文化活動
──規律化に抗する「主婦」の運動
第4章 1970年代における胎児性水俣病患者の運動
──規律化されない身体と新しい共同性
終 章 主体性の回復と新しい共同性
冷戦体制下、人と自然のありようをテクノロジーが根底から変化させ、食と農の営みが土から遊離した。機械化・化学化と複雑に絡み合う各国の農業政策によって失われた農村の姿と翻弄される人々の経験は、戦後日本の変貌を映す鏡である。工業化ばかりが語られがちな戦後史に、農民の近代科学受容の経験と農村女性が担った役割の変化をグローバルな視点から描く。