トラウマ的な出来事を経験した人びとにとって、文学や文化は生きのびるための表現となりうるのかーー
多和田葉子、李琴峰、古谷田奈月、森井良、林京子、大江健三郎、岩城けい、小野正嗣といった現代作家の作品を丁寧に読み解き、物語を受けとるという営みとは何か、小説と読者が出会うとはどういうことか、それにクィア・フェミニズム批評はどうかかわるのか、自身の経験とときに重ね合わせながら文学や文化の力を見出していく。気鋭の研究者による、トラウマという語ることがむずかしい経験を語るために物語があるのだということを、そして何より新たな対話の可能性を信じるすべての人におくる、画期的な文学論。
「女/母」の身体性から、いまフェミニンの臨床哲学を拓く。マイノリティ諸当事者の問題に対峙し、フェミニズムのポスト構造主義ジェンダー論からクィア理論の問題意識へと踏み込み、新たな倫理的価値軸と主体像を模索する。
黒人女性が受けた人種差別と性差別という二重の抑圧を告発し、中産階級の白人女性を偏重してきたフェミニズムに一石を投じる。「女性」が一枚岩でないこと、階級と人種をも考察すべきであることを指摘し、フェミニズムのその後の方向性に影響を与えた古典的名著。
謝辞
凡例
序章
第一章 性差別と黒人女性奴隷の経験
第二章 奴隷制廃止後もおとしめられつづけた黒人女性像
第三章 家父長制という帝国主義
第四章 人種差別とフェミニズムーー責任の問題
第五章 黒人女性とフェミニズム
訳注
監訳者あとがき
参考書目録
事項索引
人名索引
フェミニズムの賞味期限はすぎたのだろうか?血となり肉となったことばたち。
さまざまな場で起動する「男子基準」、性別(間の/内に)ステレオタイプな分化を促すシステム、知に潜むジェンダー・バイアス、機会と選択の壁ー教育と研究の場はいかに変わりうるか。性や家族を問い直す知への逆風や、制度化と格差のジレンマに地道に向き合う実践と省察。
「もうフェミニズムに頼らなくても、女性だって活躍できる」
「女性差別がなくなった現代において、フェミニズムの時代はもう終わった」
と彼女は言った。
では、私やあなたの心のどこかに張りついている「女であることの不安」はいったいどこからくるのだろうか。
ーー「女らしさからの自由」と「女らしさへの自由」、どちらも実現できる世界をともに目指すために。
「ポストフェミニズム」という視点から、若い世代の性別役割分業や性行動の意識調査のデータを分析。さらにSNSにおけるハッシュタグ・ムーブメントや、雑誌『Can Cam』による「めちゃモテ」ブーム、「添い寝フレンド(ソフレ)」経験者などへの調査を通じて、現代社会における「女らしさ」のゆくえを追う。
日本におけるフェミニズム運動のパイオニア世代の三人が、個人史の軌跡を時代の中に位置づけて語る。草創期の女性史・女性学の熱気、学生運動や「慰安婦」問題との関わり、異性愛者としての立ち位置、そして老いつつある自らの経験と死について。後に続く世代に残す、貴重な歴史的証言。
客観性,合理性,価値中立性,真理など科学の中心的概念から科学と権力の共謀関係を問う。グローバルなレベルで社会正義と民主主義に反するプロジェクトを推し進める近代西洋科学への論争の書。フェミニズム,ポストコロニアリズムの立場から現代社会と科学の関係を批判的に考察してきた科学哲学者,ハーディングの本邦初訳。
日本語版への序文
はじめに
謝辞
序章 科学と不平等ーー論争を呼ぶ問題
論争となっている問題
専門用語についての挑戦
第1部 科学的研究の社会
1章 人種と科学について考える
科学は人種差別主義なのか
人種差別的な科学実践の擁護
科学の世界ーー人種、文化、帝国
結論ーー人種差別への抵抗が担うラディカルな役割
2章 他人が我々を見ているように、自分自身を見つめる
--ポストコロニアル科学論
「妖精ジニーが我々に与えてくれる贈り物は……」
自然科学は多文化的なものなのか
近代科学は他にもあるのか
3章 両目を開けてーー科学の世界
1つの地球、多くの科学?
南側諸国を出発点とするプロジェクト
北側を出発点とするプロジェクト
4章 北側のフェミニスト科学論ーー新たな挑戦と機会
北側におけるフェミニスト科学技術論
5章 差別的な科学認識論と科学哲学
スタンドポイント研究ーーその方法論的性質
科学実践はどのようにして文化化された自然をつくり出すのか
事物がいかに科学を悩ませるかーー行為遂行的な科学実践
実践に焦点を当てたフェミニスト科学哲学の重要性
6章 啓蒙思想の周縁に位置するフェミニスト科学技術論
フェミニズムと南側のポストコロニアル科学技術論
GESDにおけるフェミニスト固有のテーマ
結論
第2部 真理、相対主義、そして、科学の政治的無意識
7章 西洋科学の政治的無意識
外在的対内在的な民主主義の問題
科学にとっての民主的な理想
科学の統合というテーマーー1つの世界、1つの真理、1つの科学?
統合という理想のコスト
反民主的理想と民主的理想
近代西洋科学の政治的無意識を再考する
8章 科学において真理の主張は意味をなさないのか
初期の懐疑的立場ーークワイン、デュエム、ポパー、クーン、ファイヤアーベント
最近の分析
なぜすべての科学が「民族科学」でなければならないのか
知者はひとり?
意味をなさない真理の理想
9章 相対主義の脅威はパニックに値するのか
単一の基準に対する挑戦への3つの反応
誤った2つの仮定
近代主義者の夢を過去のものにするーーポスト実証主義のアプローチの1つ
絶対主義と相対主義を捨てる
訳者あとがき
注
文献
索引
貞淑という悪徳、“不真面目な”ヒロインたち、
不条理にキラキラのポストモダン、
結婚というタフなビジネス……
「男らしさ」「女らしさ」の檻を解き放て!
注目の批評家が贈る〈新しい視界がひらける〉本
・ジュリエットがロミオにスピード婚を迫った訳とは?
・フェミニズムと優生思想が接近した危うい過去に学ぶ
・パク・チャヌク映画『お嬢さん』の一発逆転!〈翻案の効用〉とは
・『マッドマックス』の主人公がもつケアの力と癒やし
・「マンスプレイニング」という言葉はなぜ激烈な反応を引き起こすのか……etc.
閉塞する現代社会を解きほぐす、鮮烈な最新批評集!
女性の生と性への縛りに抗し、果敢にたたかってきた近代のフェミニストたち。明治・大正から戦後までのジェンダーと家族・国家の歴史に分け入り、異性愛や血縁に拠らない新たな家族のつながり、社会との関係性を探る。女性天皇・男女共同参画をめぐるジェンダーバッシングにも正面からこたえる。
文化的・社会的に構築されたセクシュアリティは、現在どこまで揺らいだか。排他的で抑圧的な異性愛規範を踏み破り、自らのセクシュアリティを選択する人、性暴力被害の当事者、性産業で働く人の声が制度や法を動かし始めた。これまで聞かれることのなかった多様な声を収録。
中絶の権利と胎児の生命に対する配慮は両立できるのか。フェミニズム思想の深化をめざして、リベラリズムとの差異を明らかにする。
フェミニストが主張する「私の身体は私のもの」と、リベラリズムの身体の自己所有の概念とは同じものか。それぞれの特徴を探る。フェミニズムは「女の身体は女のもの」という中絶の自由の主張を、リベラリズムの権利の概念を用いて正当化してきた。しかし胎児の生命のとらえ方をめぐって、リベラリズムに対していらだちや違和感をかかえこんでいる。女性の権利と胎児の権利の衝突をどう調停すればよいのかを考え、二つの思想の特徴を明らかにする。リベラリズムを批判的に相対化しようとする試み。
はしがき
序章 産む産まない権利とリプロダクティブ・フリーダム
1 中絶の権利の諸問題
2 リプロダクティブ・フリーダムと中絶の「権利」
1 フェミニズムとリベラリズムの相克
第一章 井上達夫・加藤秀一の論争
1 中絶は権利葛藤問題か
2 論争のすれ違いが意味するもの
2 身体を所有する権利をめぐって
第二章 所有権としての中絶の「権利」
1 身体の自己所有の原則
2 所有権による中絶の正当化1--パーソン論における中絶の「権利」
3 所有権による中絶の正当化2--ジュディス・トムソン「人工妊娠中絶の擁護」
4 所有権に対するフェミニストの異議ーー「胎児の両義性」の主張
第三章 身体的統合の平等としての中絶権ーードゥルシラ・コーネルの試み
1 身体的統合の権利と中絶
2 コーネルは所有権を乗り越えたか
第四章 「身体」の再編
1 <対象としての身体>から<私が存在する身体>へ
2 胎児と「私の身体」の境界
3 <私の身体は私のもの>再考
3 プライバシー権をめぐって
第五章 公私の分離原則とプライバシー権
1 正の善に対する優位
2 中立性の原則
3 個人の独立性
4 プライバシー権としての中絶の位置づけ
5 フェミニストのプライバシー権批判
第六章 「ケアの倫理」とリベラリズム批判ーーキャロル・ギリガンの『もうひとつの声』
1 もうひとつの声
2 ケアと正義(リベラリズム)をめぐる論争
3 ケアの倫理と再生産責任
第七章 宗教的自由としての中絶の「権利」--ドゥオーキンの『ライフズ・ドミニオン』をめぐって
1 「価値」問題としての中絶
2 「宗教的自由」論はプライバシー権批判をのりこえたか
終章 リプロダクティブ・フリーダムに向けての課題
1 リベラリズムとの決別
2 フェミニズムと「孕む」ことーー「生命倫理学」を超えて
3 リプロダクティブ・フリーダムに向けての課題
4 リベラリズムとフェミニズムの今後
あとがき
参考文献
索引
多くのセクハラは、恋愛とのグレーゾーンで発生する。なぜ女性はノーと言わないのか。訴えられたらどうすればいいのか。豊富な具体例を紹介しつつ、男が嵌りやすい勘違いの構図をあぶりだす。
今、この人の話していること、聞かないとだめじゃないかな。
耳を傾けるだけじゃなくて。体ごと傾けて。
ーー斎藤真理子(翻訳者)推薦
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あなたに死なないでほしい。
家父長制、資本主義、天皇制に抗して、あらゆる生存のためになにができるのか、なにが言えるのか。金子文子やデヴィッド・グレーバーを参照軸に、アナーカ・フェミニストの立場からこのくにの歪みを抉り出す、ライター高島鈴の初エッセイ集。脈打つ言葉は、きっと誰かの心臓と共鳴する。
「どうせ生まれてしまったんだから、他人のために、少しでもこの世をマシな方向に動かそう。自分のために殺意を使うな。首にかかった手を外して、ゆっくりと社会に向かって拳を握り直そうではないか。いろいろなものに追い詰められて、布団の上に横たわったまま動けずにいる身体は、あなたの意志ひとつで蜂起に参画できる。私はあなたと、そういう戦いをしたいのである」(本文より)
◎目次
序章
第1章 アナーカ・フェミニズムの革命
第2章 蜂起せよ、〈姉妹〉たち
第3章 ルッキズムを否定する
第4章 布団の中から蜂起せよーー新自由主義と通俗道徳
第5章 動けない夜のためにーーメンタルヘルスと優生学
第6章 秩序を穿つーーナショナリズム/天皇制に抗する
第7章 儀礼から遠く離れて
第8章 死者たちについて
終わりに
初出一覧
序章
第1章 アナーカ・フェミニズムの革命
第2章 蜂起せよ、〈姉妹〉たち
第3章 ルッキズムを否定する
第4章 布団の中から蜂起せよーー新自由主義と通俗道徳
第5章 動けない夜のためにーーメンタルヘルスと優生学
第6章 秩序を穿つーーナショナリズム/天皇制に抗する
第7章 儀礼から遠く離れて
第8章 死者たちについて
終わりに
初出一覧
ラディカル・フェミニズムの成果を享受する一方で、そのイデオロギーには違和感を覚える女性たち。フェミニズムはもはや存在意義を失ったのか?「政治的なもの」から「ポップなもの」へ、「社会的なもの」から「個人的なもの」へと重心を移しながら、多様な声を包みこむ第三波フェミニズムと、女性たちの文化実践を結ぶ、今日的フェミニスト・カルチュラル・スタディーズ。
『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者による表題作を収録!
「ヒョンナムオッパへ」の主人公は、ヒョンナムに恋をし、精神的に支配されながら、それが暴力であるということにも気づいていない。あとからそれに気づくという小説を書きたかった。
ーーチョ・ナムジュ
嫁だからという理由で、妻だからという理由で、母だからという理由で、娘だからという理由で受けてよい苦痛はない。ただ女だからという理由だけで苦しめられてよい理由などない。
流さなくていい涙を流さなくてすむ世の中を夢見ている。
ーーチェ・ウニョン
#Me Too運動の火付け役ともなった『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)が韓国で100万部以上の売り上げを突破し、大きな話題を呼んでいる。本書は韓国でその人気を受けて刊行された、若手実力派女性作家たちによる、初の書き下ろしフェミニズム小説集の邦訳である。
チョ・ナムジュによる表題作「ヒョンナムオッパへ」の主人公は、地方出身の女子。ソウルの大学に進学して、先輩のヒョンナムに恋をし、彼に守られて10年以上青春期を過ごすが、実際には何もかも彼に操作されていたと気づき……。『82年生まれ、キム・ジヨン』では、女性として生きる上で直面する様々な困難や疑問が提示されたが、本作では実際に行動を起こすところまで踏み込んでいる。
ほかに、母親との葛藤を抱えた女性の主人公が、弟の結婚を契機に母との関係、女性としての生き方に思いを巡らす「あなたの平和」、受験を控えた中学生の息子と小学生の娘の問題に悩む専業主婦の複雑な感情に光を当てた「更年」など、各篇に描かれている事例は、日本の各世代の女性たちの共感を呼ぶ。
また、韓国の男性社会の暴力性への違和感を、都市空間への違和感として象徴的に描いた「すべてを元の位置へ」や、ハードボイルドの男女の役割を入れ替えたサスペンス仕立ての「異邦人」、宇宙空間での出産をテーマに、女性のクローン人間と雌犬とロボットの心温まる交流を描いた「火星の子」など、フェミニズムへの多彩なアプローチを楽しめる。
「ヒョンナムオッパへ」チョ・ナムジュ
「あなたの平和」チェ・ウニョン
「更年」キム・イソル
「すべてを元の位置へ」チェ・ジョンファ
「異邦人」ソン・ボミ
「ハルピュイアと祭りの夜」ク・ビョンモ
「火星の子」キム・ソンジュン
解説:斎藤真理子
低賃金労働力、セックスワーカー、家事労働者、嫁・妻・母として、そして国際社会に繋がる1人として、女たちは越境し続けるー自らの解放の糸を手探りで紡ぎながら。1970年代の経済大国化した日本からアジアへ向けた視線、そして21世紀、格差と貧困化が新たな分断を生む世界で、身を切るような挑戦から切り拓いてきた連帯の回路を読みなおす。