中世写本画の傑作“ユトレヒト詩篇”の表現主義的線描はどのようにして生み出されたのか。
能動ー受動、主体ー客体という図式に収まらない体験のあり方を、中動態という別種の範疇を用いて、いわば別の枠組みで浮かび上がらせて考察。前著『芸術の中動態ーー受容/制作の基層ーー』で問題にした芸術体験は、受容であれ制作であれ、(事後的に見れば)作品との関わりであるが,本書では、残る問題として、芸術という領域において他者と関わる体験、そこからさらに芸術制度の社会的成り立ちについて分析。そこにおいても、中動態という範疇で捉えうる事態が基礎的場面に見出される。
1 二つの場面の中動態
第一章 「感じられる」の中動態
1 自己受容(固有)感覚、体性感覚
2 触覚の「両極性」
3 非措定的自己意識(サルトル)と作動志向性(メルロ=ポンティ)
4 外部知覚にはたらく体性感覚
第二章 相互状況の中動態と社会システム
1 相互状況reciprocal situationの中動態
2 各個を超えた別次元の出来事と中動態
3 ルーマンのコミュニケーション・システムと二重の偶有性
4 自他関係と「行為の意味の不定さ」
5 偶有性と不定性
2 作品を介する自他関係
第三章 共感と「構え」
1 共感という基層
2 身体の「構えprise」
3 姿勢と情動
4 自己受容ー自己塑型の中動態と共通感覚
5 体性感覚と「自分事」
第四章 「作品」との関わり、他者との関わり
1 意図的行為としての作品の制作と受容
2 作品評価と他者
3 三項関係の第三項としての作品
4 共在と芸術
第五章 二項関係の他者、三項関係の他者
1 二項関係の他者
2 三項関係の他者
3 第三項としての作品
第六章 作品の「実在」と他者
1 実在、パースペクティヴ性、他者
2 知覚の仕方と中動態
3 作品と知覚の仕方
4 作品の呈示と他者
3 客観的事物としての作品と社会
第七章 アーレントの「公共」と作品
1 三項関係と第三項
2 労働laborと制作work
3 制作と手段性、イデア説
4 物の独立と芸術作品
第八章 ルーマンの「芸術システム」と作品
1 コミュニケーション連鎖
2 相互依拠とシステム
3 知覚を用いるコミュニケーションとしての芸術
4 形式と観察
5 システムにとっての作品
第九章 ブルデューの「ディスタンクシオン」と作品
1 趣味と等級づけ
2 ハビトゥス
3 作品と卓越化
第十章 「見せる」ということ
1 共同注意と「見せる」
2 「同じ」と「違う」の間で
3 「見せる」の類型とさまざまな意図
第十一章 作品をめぐる相互行為と「枠」
1 ワースト・コンタクトと「共在の枠」
2 ハビトゥスの「だいたい」とリソース
3 見せる者(呈示者)、見せられるもの(作品)、共在の枠
起立工商会社は、明治時代初期、主として日本の美術工芸品を世界へ輸出した、日本の貿易会社。
明治6年のウィーン万国博覧会を契機に現地で結社され、明治7年に銀座で創業。
会社経営を通じた支援・育成により日本近代美術史、日本近代史に名を残す画家、工芸家、美術商を輩出したが、明治24 年に解散。
「われらに要るものは銀河を包む透明な意志 巨きな力と熱である」
ーー新たな時代を生きるすべての人に捧げる、宮沢賢治至高の芸術詩編
土に触れる自らの手と宇宙の胎動が直結する壮大なスケールで描かれた宮沢賢治による至高の芸術論「農民芸術概論綱要」。本書では本論に加え、「農民芸術」の名を冠する他二編を収録。また、「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」で知られる通称「雨ニモマケズ手帖」に収められた詩編や、賢治の最晩年、病床に伏しながら書かれたと言われる「疾中」を採録。そして生前未発表の詩作集「詩ノート」より撰集した数編のほか、学生に向けた鼓舞激励のメッセージ「生徒諸君に寄せる」を収めた。計約70詩編採録。装画は奄美大島在住の人気絵本作家、ミロコマチコ。
「詩ノート」より
農民芸術概論
「雨ニモマケズ手帖」より
疾中
「詩ノート」より
農民芸術概論
「雨ニモマケズ手帖」より
疾中
巻頭特集「新版画」のすべて
「新版画」とは、江戸時代の浮世絵版画と同じように絵を描く絵師・版を彫る彫師・その版を摺る摺師の三者の共同作業によって制作された版画のことをいいます。
明治末期、日本には文明開化によって銅版画や石版画などの新しい印刷技術が輸入され、それまでの浮世絵版画はすっかり衰退してしまい、消滅の危機にありました。
それを惜しんだ浮世絵商・渡邊庄三郎は、自らが版元となり「浮世絵を継承し、現代の画家による現代の浮世絵」として新版画の制作に取り組み始めます。
渡邊は、洋画家や日本画家、さらには日本を訪れた外国人画家にまで声をかけ、今までにないない新しい時代の版画を生み出すことに尽力しました。
そのおかげで、新版画にはスティーブ・ジョブズも作品を求めたという橋口五葉の美人画にはじまり、吉田博、川瀬巴水や伊東深水、小原祥邨(古邨)、山村耕花や名取春仙など多くの画家たちによる名品が残されています。
何十版と版を摺り重ね、透明感を保ちつつも重厚な色彩で描かれるノスタルジックな日本の原風景。世相を反映した美人の姿。人相の特徴をリアリティある筆致で描いた役者絵。細部まで精緻に描かれた花鳥画。
本特集はこれら新版画の傑作を紹介しつつ、これまであまり知られていなかった新版画家や、外国人画家の作品も掲載しています。
タイトル通り、新版画の「すべて」を余すところなく紹介した決定版です。
原著『Understanding the value of arts & culture 』 The AHRC cultural value project
「なぜ芸術文化は必要なのか」「芸術文化がもたらす効果はどのように捉えられるのか」という問いに取り組んだイギリスの政府機関AHRC(芸術・人文学研究会議)〈文化的価値プロジェクト〉報告書(2018)の邦訳である。この研究は、実証的・科学的研究を扱っていながら、歴史的・哲学的に深い洞察に満ちており、国際的な反響を呼んだ。本書はブラジル、チェコ版に続く邦訳。
本書の試みの主要目標の第一は「文化的価値を形づくるさまざまな構成要素を明らかにすること」。そして第二にはこれらの「要素を評価するために用いる方法論とそのエビデンスを検討し、新たな方法論を開発する」というもの。特に「個人の内省」(自分自身や自分の人生についての理解を深めること、他者に対する共感を高めること、人間の経験や文化の多様性を理解すること等)と「変化の状況の生成」(コミュニティ・社会・経済レベルへの波及)に焦点があてられ、「体験」「生態系」「方法論」の3点をつないで、芸術文化の価値を包括的に論じる。
経済的インパクト、客観的エビデンス、学際的な戦略的研究を網羅、日本の旧来の研究と一線を画す研究者必読の成果である。
第1章 文化的価値論争の用語の再考
従来の文化の価値の議論は、参加者の体験やその効果を十分に考慮せず、いくつかの重要な有用性を見過ごしていた。
第2章 横断的テーマ
ポピュラー文化と高尚文化の区別がますます曖昧になり、場所や方法が多様化している。
第3章 個人の内省
文化的価値において鍵となるのは、芸術文化体験が個人に内省を促す力である。
第4章 市民的関与ー市民的主体性と市民活動への関与
芸術文化活動への参加が積極的な市民活動の促進につながるという主張について考える。
第5章 コミュニティ、再生、空間
創造産業、文化消費、クリエイティブ・クラス、コミュニティの間にある緊張関係を明らかにする。
第6章 経済ーインパクト、イノベーション、生態系
経済的インパクトは、芸術文化の推進者がその経済的重要性を主張する主要な手段となっている。
第7章 健康、老化、幸福感
長期の芸術文化活動への関与は、健康に実証可能な効果をもたらすのだろうか。
第8章 教育の中での芸術ー覚え書き
芸術教育が認知や行動の領域において、通常の教育より有意な効果を生むことが示されている。
第9章 方法論ー評価のエビデンス、データ、多様性
本書が参照する研究の多くに見られる高い研究水準は、 研究と評価の双方において規範とされなければならない。
おわりに
芸術文化の活動や関与は、経済や社会に多くの直接的、時には即時的な便益を生み出す。個人・社会・経済レベルでの実験やリスクをとる、個人・コミュニティ・社会の課題を安全で非直接的な方法で内省するなどの数多くの波及効果ももたらす。
レンブラント、フェルメール、ウォーホル、フリーダ……実証主義を超え、真実らしさを求めた映像が挑んだ、新たな芸術家の詩的真実に迫るスリリングな映画論。
志望校攻略に欠かせない大学入試過去問題集「赤本」
フランス人画家ドニが旅した百年前のイタリアーー。
昔日と変わらない歴史的遺構を残しながらも再開発の波が街を少しずつ変化させ、ファシズム運動が不穏な高まりをみせていた百年前のイタリア。フランス人画家ドニはシチリア、ローマ、シエナ、フィレンツェ、ヴェネツィア、パドヴァ各地をめぐり、その旅を記録する中で、みずからの生きる時代の美術のゆくえを見定めていった。
刊行によせて 小佐野重利 5
シチリア島 一九二一年 19
ローマ 一九二一年 43
シエナとフィレンツエ 一九二一年 61
ヴェネツィアとパドヴァ 一九二二年 85
ローマ 一九二八〜一九三一年 111
フィレンツェ 一九三一年 147
芸術の中に生きる聖フランチェスコの精神 181
宗教美術における主題の重要性について 《エマオの晩餐》をめぐる論争 215
訳者あとがき 福島勲 255
人名索引 I
事項索引 V
図版一覧 VIII
音楽や舞踊、演劇に代表される舞台芸術は、アーティスト(演奏家)と聴衆が「その時間」「その場」を共有するという点で、他の芸術とは異なる運営上の特色や難しさを有している。本書は、舞台芸術の中でも特に音楽に焦点をあて、「芸術」(art)概念が変化した現代において、その魅力を、より多くの(かつ多様な)聴衆といかに共有できるかという観点から、人的体制のあり方や、運営を担うマネジメント人材の育成のしくみ作りについて、具体例をもとに論じる。コンサート(音楽祭、プロジェクトなど)の効果的な運営のあり方や、望ましいマネジメントの方向性についての新しい可能性を提示する。
本書の著者は、ライト、ル・コルビュジエ、アスプルンドなど近代建築を造型した俊英たちの著作を、永年にわたり良質かつ純度の高い芸術的筆致で我が邦語にもたらした業績で知られる。
「地中海精神の幾何学的造型」から「生活の場の芸術としての建築」や「自然と人間の調和的対応」など、多彩な創造性の真意を現代に知らしめてきた心意が、著者自身の心優しく叡智溢れる言葉で語られる。
猫の足跡のついた弥生土器が発見された。現存最古の猫自慢は宇多天皇の日記。平安時代は猫の鳴き声を「ねうねう」と書いた。妖怪「火車」の正体は猫? 鹿児島県には猫を祀った猫神神社がある。などなど、古今東西の猫を愛した人たちの話から、怖い猫のお話し、猫にまつわる神社のはなしまで。日本の歴史に詳しい日本宗教史研究家にして愛猫家の著者による、古代から現代までの猫にまつわるエピソード集。
めくるめく8つのイメージの技法。
言語と文学に対する構造主義的アプローチが生まれ展開していく中で主導的役割を果たし、20世紀の「人文科学」を形成した独創的思想家の一人として、また革新的な言語科学の探求者・文学研究者・記号学者としての多様な側面を示す論考を集成。
名画・美術品をめぐる意外な裁判ドラマ!
これはアートといえるのか? 絵画の誘拐事件!? ダ・ヴィンチ「美しきフェロニエーレ」は二枚あった?
アートをめぐる裁判、犯罪、贋作事件の真相とは。
アートマーケットが盛況のいま、比例して美術品に関する裁判事件も増加している。ダ・ヴィンチ、エゴン・シーレ作品といった著名な絵画の真贋や盗品に関する事件など数々の裁判事件を紹介する。
美術品にまつわる事件の「面白さ」に加え、アート法の世界を楽しむことのできる1冊。
※電子版には口絵が掲載されておりません。ご購入の際はご注意ください。
[収録事件]
●ホイッスラー「黒と金色のノクターン・落下する花火」事件/ ●ブランクーシ「空間の鳥」事件/ ●ビル・ヴィオラ、ダン・フレイヴィンのインスタレーション事件/ ●スターウォーズ、ストームトルーパー・ヘルメット事件/ ●フェルメール贋作事件/ ●ゴヤ「ウェリントン公爵」事件/ ●「アメンホテプ3世頭部像」事件/ ●エゴン・シーレ「ヴァリーの肖像」事件/ ●クロード・モネ「ヴェトゥイユの小麦畑」事件/ ●シャガール「家畜商人」事件/ ●エゴン・シーレ「トルソ」事件/ ●ウテワール「聖家族、聖エリザベスと聖ジョン」事件/ ●ダ・ヴィンチ「美しきフェロニエーレ」事件/ ●佐伯祐三未発表作品群事件/ ●エゴン・シーレ「父なる神の前に跪く若者」事件/ ●クストーディエフ「オダリスク」事件/ ●コンスタブル「ソールズベリー大聖堂」事件/ ●アングル「トルコ風呂のための習作」事件/ ●ガブリエレ・ミュンター作品事件/ ●ヴァン・ダイク「レノックス公ジェイムス・スチュアート」事件/ ●ギュスターヴ・モロー「ガニメデスの略奪」事件
親密な眼差しがとらえた芸術家たちの素顔。黄金時代のモンパルナスで制作する芸術家たちに注がれたドアノーならではの眼差し。創作の優れた証人であり、時代へのノスタルジーをも内包するドアノー写真の魅力を、機知に富む撮影メモとともにあまさず伝える。決定版ドアノー写真集第2弾。
「家」が「人生」を語ってくれる…『週刊文春』の人気連載「家の履歴書」(現「新・家の履歴書」)において、著者・斎藤明美(『高峰秀子との仕事』)が「週刊文春」記者時代から今日まで、のべ1200人にわたって取材して来た中からセレクトし、3巻に収録。著者の巧みな聞き書きによって、著名人たちが語る「家」と「わが人生」の物語=数々の感動的なエピソードがあらためて甦る。