日本の現状に強い危機感を抱く司馬遼太郎が、土地問題、国際化、精神風土、文明と自然、異国などをテーマに6人の論客と語り合う。独自の史観をあますところなく披瀝、過去から未来への示唆に満ちた貴重な発言録。死去直前に行われた田中直毅氏、ロナルド・トビ氏との対談を含む。
観音様へお参りするとパノラマや凌雲閣や花屋敷を見て、と谷崎が幼いときから親しんだ浅草、東京の大衆娯楽地として活況を呈した浅草。浅草公園に集う画家や歌唄いたちが、民衆芸術の可能性を追究して芸術論をたたかわせる。「襤褸の光」「鮫人」、随筆「浅草公園」の三篇を収める。
夫婦と、息子ひとりの3人家族。どこにでもある、新興住宅地の平穏で幸福な一家だった。妻が妊娠したことで、新たなる喜びに一家は包まれる…はずだった。しかし、ある朝、夫が巻き込まれた小さな事件が思いもよらぬ展開を見せ、彼らの運命を大きく狂わせていくー。次第に追い詰められ、崩壊に向かう家族に、果して救いはあるのか?現代の不安を鋭くえぐった心理サスペンス。
今夜、桐江は恋人だった。が、明日からは愛人になる。家庭的な真純と性に奔放な桐江ー大手商社に勤める敏腕社員の依田は二人の女性とつき合っている。人生の伴侶には真純を選ぶが、桐江との関係も続けたい。結婚前夜、依田は密かに桐江の部屋で過ごした。が、その夜の甘い会話には、艶麗な罠が潜んでいた…(「二人の思い出」より)。男女の愛憎を描く傑作心理サスペンス。
あかちゃんがどうやって大きくなるか、そしておかあさんはどのように変わっていくのか、誰もがみんな体験したミラクルストーリー。親子で楽しむしかけ絵本。
アメリカのケンブリッジに住んだ’93年から’95年にかけての滞在記。ボストン・マラソンに向けて昴揚していく街の表情、「猫の喜ぶビデオ」の驚くべき効果、年末に車が盗まれて困り果てた話、等々なごやか(?)なエピソードの中に、追悼特集で報じられたニクソン元大統領の意外な一面や、帰国後訪れた震災後の神戸の光景がキラリと光る。水丸画伯と陽子夫人が絵と写真で参加した絵日記風エッセイ集。
歴史的には、材料力学のなかに材料強度学の分野が包括されていたが、材料強度に関する事項は独立した学問分野として発展しており、本書では概説程度に止めた。代わりに、最近のカリキュラムの変化に対応して大学1年次からの授業が可能なように、静力学について簡単に触れた。また、高校における数学を基礎にして理解できるように、座標系を右手系に統一して記述した。このため、はりの曲げにおけるせん断力の符号が、便宜的にわが国で用いられている符号とは異なるが、一般的なせん断応力の符号と矛盾せず、はりのたわみの極大極小の評価も容易である。さらに、フリーボディ図を利用した平衡条件式の記述を強調し、数値計算における数値の記述を指数表示とし、単位の接頭字G(ギガ)、M(メガ)、m(ミリ)の取り扱いを簡単にした。
1967年に提案された統一ゲージ理論は非常な成功をおさめ、われわれの知りうるすべての素粒子現象を少なくとも原理的には説明できる。その根幹をなす基礎概念は素粒子論を越えて、宇宙論、原子核理論や物性理論にまで広がりつつある。本書は、素粒子標準理論の概要と実験的基礎についての解説書である。ゲージ理論の重要なテーマについての実験的検証に力点を置いたが、各テーマについて重要な概念や式は第1原理(ラグランジアン)から導いてあり、教科書として使えるよう配慮した。
本書は、大学学部での基礎的な有機化学、無機化学、物理化学の知識を基盤として書かれており、学部高学年または大学院での教科書として利用できる。内容としては、有機金属化学の最近の発展も十分取り入れられていて、難しいところもあるが、各々の分野の将来のいっそうの発展を念頭に置いて、教育に反映させようと執筆されている。典型金属と遷移金属の両方に合成、反応、構造にわたって重要なポイントが述べられているほか、理論的解析、触媒反応など有機金属化合物に特徴的な研究分野について述べてある点が本書の特徴である。さらに、ごく最近進歩し始めている生体関連の有機金属についてつけ加えられている。
本書は、電気回路はもとより、電気回路を通して線形システムや線形現象を理解したり取り扱ったりできるように、また、計測工学、制御工学、信号処理・画像処理工学、波動工学など、多くの工学分野の基礎としての普遍的な交流理論・電気回路学を学べるように、できるだけわかりやすく説いたつもりである。そこでは、電気・電子工学の専門家しか使わないような概念や用語はできるだけ除外し、工学としての普遍的な概念を抽出してそれを深く理解してもらうように心掛けた。
本書は、機械加工に関する基本的な事項を体系的にできるだけわかりやすく、また幅広く記述し、大学、工業高専の機械系学生、またこれから機械加工法を勉強しようとする人、あるいは機械加工に従事しようとする人に対する教科書または参考書として使用されることを目指した。
小さな田舎町の小さな家に、編み物名人のおばあさんがいました。春がきて頼まれ仕事がなくなって、何を編もうか考えているときでした。大きな黒っぽい蝶が窓から入ってきて、ひざにとまりました。見たところただ黒っぽい羽が、よく見ると美しいこまかい模様が浮き出ています。名人のおばあさんは、この蝶の羽模様で肩かけを編むことに決めました。ところが、編みはじめるとむずかしい。何度も何度もやり直して十日もかかってやっと五センチ巾の細い編み物ができたときです。編み物はびくんびくんと動き出し、さらに編み進むと浮きあがり出し、編み巾が増すと、押さえたおばあさんまでがいっしょに浮きあがったのです。-そこでおばあさんは、空とぶ飛行機を作ってみようと考えましたー。小学中級以上から。
本書は力学(工業力学)の中心部分である動力学に焦点を置き、ニュートンの運動法則に基づいて質点や剛体の運動方程式を導き、これらを解くことに習熟するための演習書。質点および質点系の並進運動、剛体の並進運動と回転運動を通じて、並進運動の運動方程式m¨x=Fおよび回転運動の運動方程式I¨θ=Mの意味および問題への適用方法を学べるよう構成されている。運動方程式に十分習熟したのち、エネルギ保存則や運動量保存則を利用した力学問題の解法について学ぶ。
「根源」へのまなざしが、「ドイツ・バロック悲劇」という天窓を通して見る、存在と歴史の「星座(コンステラツイオーン)」-『ドイツ悲劇の根源』は、この「星座」のきわめて精緻な叙述である。バロックの言語形式との格闘のなかで、言語哲学と歴史哲学が、理念と現象が、ギリシア悲劇と近代悲劇が、英雄の神話的生と被造物の歴史的生が、メランコリカーとハムレットが、象徴とアレゴリーが、音声と文字が、神と悪魔(サタン)が、さまざまに火花を散らしながら出会う。哲学的批評の方法論、悲劇論、メランコリー論、アレゴリー論から成る1920年代のこの名著に、「運命と性格」、「暴力批判論」、「カルデロン・ヘッベル論」ほかの関連論考・資料を加えた、文庫版新訳。