グリム童話、民話、伝説、神話、演劇、映画、現代小説、都市伝説…。
巷間に伝わる「物語」には、なにが描き出されてきたのか。
民話の受容の歴史や様相、モティーフとその類型、さらにはそこに内包されるジェンダー観念やステレオタイプなど、「物語」の諸相とその連続性を、比較民話学や文献学・民俗学・社会学の手法から考察する。多彩なジャンルの「物語」を題材にして研究手法の新境地を探る。
はじめに 大野寿子
プロローグ
古い菩提樹の下ーグリム兄弟『子どもと家庭のメルヒェン集』の最初の数文について ハインツ・レレケ(横道誠 訳)
1 グリム童話を考える
神話と現実のはざまの「メルヒェンおばさん」像 ベルンハルト・ラウアー(橋木郁子 訳)
「白雪姫」と近親相姦 浜本隆志
巖谷小波とグリム童話ー「小雪姫」をめぐって 前田陽子
朝倉めぐみと中里研の世界ーグリム兄弟協会主催による日本人初のグリム童話展 沖島博美
2 グリム兄弟を考える
幕末にヤーコプ・グリムを訪問した日本人について 野口芳子
歴史を伝える〈もう一つの真実〉のメディアー近代批判としてのグリム兄弟の〈叙事ポエジー〉概念 村山功光
ロマニストとしてのヤーコプ・グリムー古スペイン語ロマンセへの関心 横道誠
3 モティーフの変遷と展開を考える
グリム兄弟、ゲーテ、コサン・ド・ペルスヴァルーアラビアンナイトと異文化理論 ルース・B・ボッティックハイマー(稲毛理津子/野口芳子 訳)
殺された子どもの行方ー昔話「継子と鳥」とATU720類話にみる〈あわい〉存在としての子ども 鵜野祐介
ジョージ・ピールの『老婆の昔話』におけるふたつのモチーフー死者の恩返しと井戸の中の頭 前原澄子
4 社会的役割と家族のかたちを考える
おとぎ話とフェミニズム童話 谷口秀子
「新しい女」とイギリス世紀末文学 玉井ショウ
女性のキャリアと金融リテラシーースミス・カレッジの金融教育からの示唆 西尾亜希子
父親像からみた『花木蘭』-叙事詩から演劇へ 中山文
ドイツの現代伝説における父親像と母親像 金城ハウプトマン朱美
5 表象文化とその連続性を考える
テレビ映画『ニーベルングの指環』-ニーベルンゲン伝説の現在の姿 齊藤公輔
怪物のうごめく海でー古代〜中世ヨーロッパにおける「ひとと水族の関係史」 溝井裕一
花と妖精のヨーロッパー挿絵が誘う「もうひとつの世界」 大野寿子
6 グリム研究者野口芳子について
ふたりのグリム研究者、ハインツ・レレケと野口芳子ー訳者解題 横道誠
「学び」がもたらす「笑顔」について 島田芽実
野口先生との思い出 中村早希
論評『グリム童話と魔女』に寄せて 下程息
エピローグ
野口芳子先生のご活躍を祈念して 竹原威滋
おわりに 大野寿子
「基盤の解体」を鍵語にしてフォークナー創設の架空の土地、
ヨクナパトーファを舞台にした
複雑かつ難解な代表作『響きと怒り』『八月の光』
『アブサロム、アブサロム!』『行け、モーセ』を読み解く!
南北戦争での敗北によってアメリカ南部で
劇的に引き起こされた〈人種・階級・ジェンダーの境界のゆらぎ〉
= 〈貴族階級の白人男性層という旧南部社会の基盤の解体〉を、
〈ストーリー〉の時間と空間の基盤を解体する技法により、それが
いかに強化されているのか、とスリリングな文学読解に本書は誘う。
第二部では、南部作家コーマック・マッカーシーや
映画作家クエンティン・タランティーノ、イニャリトゥ、アリアガ
へのフォークナーの影響、そして、横溝正史の小説を比較。
さらに、大橋健三郎がなぜフォークナー研究に至ったのかを
考察して、日本人がフォークナーを研究することの意味を探る!
序
第1部 ヨクナパトーファ小説における旧南部解体
第1章 虚飾からの覚醒ーー『響きと怒り』
第2章 旧南部への直視ーー『八月の光』
第3章 南部貴族の起源
ーー『アブサロム、アブサロム!』
第4章 南部貴族の重罪ーー『行け、モーセ』
第2部 フォークナー文学と現在/日本
第5章 フォークナーと現代アメリカ南部作家
ーーコーマック・マッカーシー
第6章 フォークナーと現代映画作家
ーークエンティン・タランティーノ、
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、
ギジェルモ・アリアガ
第7章 アメリカ南部と日本のジレンマ
ーー横溝正史
第8章 日本におけるアメリカ文学研究の確立
ーー大橋健三郎
女性解放を中心としたクラーラ・ツエトキーンの伝記であるだけではなく、クラーラが生きた時代の「歴史」における「個人」の役割を追求した。著者55年間にわたる研究の集大成である。
明治女性の書きことばから日本の性差を切り出す!
明治十八年『女学雑誌』が創刊され、多くの女性が論説文を執筆した。
漢字平仮名交じり文で書かれ、文体としては基本的に男性の論説文と同様な漢文訓読的要素を多く含んでいる。
本書では、読者の寄稿文のほか、
跡見花磎 荻野吟子 中島俊子 佐々木豊寿
清水紫琴 若松賤子 樋口一葉
の書きことばを初めて解析。
女性解放の先達とされながら、性役割容認という批判もある平塚らいてうの知られざる姿を解明。「ジェンダー・アイデンティティ」の確立を求めた思想と行動を、彼女の生きた時代と個性の葛藤のなかから描き出す。
はじめに/「父の近代」との葛藤(「近代日本」批判の論理/青春の彷徨ー「性としての自己」の模索)/デモクラシーとジェンダーの葛藤(『青鞜』と「社会」の接点ー平塚らいてうと生田長江を中心に/『青鞜』にみる「性の自己決定」)/「産む性」の社会構想と現実(平塚らいてうの国家観ー「母性保護論争」を中心に/平塚らいてうと新婦人協会ー「花柳病男子結婚制限法」運動を中心に)/「協同自治社会」の実践と挫折(平塚らいてうにおける「母性主義」の歴史的意義/平塚らいてうと宮沢賢治の「協同」思想)/「清算されるべき過去」とその克服(「個」と「国体」の間/平塚らいてうの「戦争責任」論をめぐって)/終章 平塚らいてうにおける「自然」と「社会」-その世界構想
中学入試の社会科は、現実社会を映す鏡である。2022年の実際の入試問題の中から、中学受験のプロが9問を厳選。外国人労働者、環境、格差、ジェンダーなど多岐にわたる分野はSDGsにも通じており、大人の学びにとっても格好の教科書となる。掲載校は麻布、田園調布、武蔵、頌栄、浅野、鴎友、駒場東邦、東京純心、市川。圧倒的本気度の9問は、子どもにとってはペーパーテストでも、大人にとっては解決すべきリアルな課題だ。SDGsの第一人者による監修とワンポイント解説、巻末資料付き。
キリスト教において、教会一致運動と訳されるエキュメニズム。その中心的な課題とは何か。
女性の按手の是非やセクシュアリティに関わる問題群は90年代以降の「エキュメニカルの冬」をもたらしたとされるが、そこではいかなる論争と実践が展開されてきたのか。多くの取り組みと議論を一次資料を通して丹念に辿る。
ジェンダー正義の視点から綴られた、これまでにない新たなエキュメニズムの歴史!
「コラム」ではエキュメニカル運動を理解するための基本概念を丁寧に解説する。
序 論
第1章 エキュメニカルの冬
第2章 信徒の参加
第3章 女性の参加
第4章 女性の按手
第5章 ヒューマンセクシュアリティ
第6章 ジェンダー正義
結 論
[コラム]
1 世界宣教会議(WMC)
2 国際宣教協議会(IMC)
3 生活と実践(Life and Work)
4 信仰と職制(Faith and Order)
5 世界教会協議会(WCC)の成立
6 ミッシオ・デイ(missio Dei)
誰も他人と同じようには働けない。国家による生活統制を機に、主体化の作用が民衆に及ぶ状況を、戦時下、産業報国運動の展開過程に見る。また、人間を部品と化す規律化。それに抗する戦後社会運動の可能性を、生活協同組合と胎児性水俣病患者たちに着目し探る。
序 章 規律化の二面性と「普遍主義」
第1章 近代社会と公私の分離
──規律化・ジェンダー・「普遍主義」
第2章 戦時下の生活統制と産業報国運動の展開
──国家社会主義と規律化
第3章 1950年代における横浜生協の生活文化活動
──規律化に抗する「主婦」の運動
第4章 1970年代における胎児性水俣病患者の運動
──規律化されない身体と新しい共同性
終 章 主体性の回復と新しい共同性
性別移行し生きる道を模索し続ける人々の生活史
女(らしさ)/男(らしさ)という二元的かつ固定的な性のあり様にもとづく社会の様相に変革をもたらす当事者たちの可能性とは
日本における性同一性障害にもとづく社会問題化の様相およびその背景について明らかにし、また、ジェンダー形成の観点から、当事者たちが直面している困難が生じるプロセスや、その背後にある社会構造の問題を明らかにする。
はしがき
第1章 トランスジェンダーの社会問題化
第1節 用語ーートランスジェンダー・LGBT(Q+)・SOGI(ESC)
第2節 ラベリング理論と構築主義アプローチ
第3節 一九九〇年代後半から二〇一〇年代までの様相
第4節 社会問題化と〈中心ー周縁〉化
コラム1 りりぃの生活史ーー生い立ち
第2章
トランスジェンダーの生活史調査
第1節 トランスジェンダーの病理/脱病理化
第2節 調査の概要
第3節 3名の事例分析
第4節 当事者たちのリアリティ
コラム2 りりぃの生活史ーー性別越境と性風俗
第3章 トランスジェンダーの教育支援
第1節 教育支援とジェンダー形成
第2節 4名の事例分析
第3節 ジェンダー/セクシュアリティに関する意識
コラム3 りりぃの生活史ーー学びと研究
第4章 トランスジェンダーの二重生活
第1節 女装者論と理論的枠組み
第2節 2名の事例分析
第3節 女装者たちが直面する困難
コラム4 りりぃの生活史ーー海外渡航
第5章 トランスジェンダーのジェンダー形成
第1節 まとめーー主流となった社会問題化と当事者たちの困難再考
第2節 今後の展望ーー差別の客体から変革の主体へ
第3節 本書の意義と限界
あとがき
冷戦体制下、人と自然のありようをテクノロジーが根底から変化させ、食と農の営みが土から遊離した。機械化・化学化と複雑に絡み合う各国の農業政策によって失われた農村の姿と翻弄される人々の経験は、戦後日本の変貌を映す鏡である。工業化ばかりが語られがちな戦後史に、農民の近代科学受容の経験と農村女性が担った役割の変化をグローバルな視点から描く。
「ケア」と「ジェンダー」の両概念の「定義」に正面からアプローチし、
福祉社会学を多様な視点と分析手法によって考察した意欲作。
本書は、編者である西下が名古屋市内にある金城学院大学に在職当時に指導した社会学専攻博士課程大学院生あるいは修士課程院生であったメンバー達と共同で執筆している。筆者は、30代前半から40代後半まで14年間在職しており、その間に指導した院生達である。ここ数年にわたる活発な議論を通じて本書は完成している。
本書は、幾つかの特色をもつ。まず第1に、本書のタイトルに入る「ケア」と「ジェンダー」の両概念についてそれぞれの「定義」に正面からアプローチしている点が挙げられる。具体的には、序章でケアとジェンダーに関する先行研究の定義を参照し、批判的に検討した上で筆者の暫定的な定義を提示している。第2に、これも本書のタイトルに入る「福祉社会学」の概念が、その定義において重層的であることを明らかにした点が挙げられる。つまり、福祉社会学は、第1に社会学の一分野である連字符社会学であり、第2にあるべき福祉社会を模索する学際的な科学であるという2層から構成される概念であると理解する。その考え方は、前職の大学で「福祉社会学科」を新設する際の基本的な枠組みとなった。第3に、具体的なトピックスとして各執筆者の研究キャリア上で選ばれた介護制度、子供の共同監護、女性労働、単身高齢者、路上生活者に焦点が当てられ実証的な分析が行われている。その際、国際比較の視点あるいは国内比較の視点、共時的視点、通時的視点といった様々な視点から多様な分析が展開された。第4に、本書は大学の学部、大学院の教科書として使われることを意識して執筆された。具体的には、多くの章で、章の最初に理論的な考察や理論的な背景の説明がなされ、その考察や説明を踏まえた「人々の語り」(質的データ)が多様な方法で事例分析されている。教科書としての分かりやすさが、十分に発揮されていると考える。意欲に満ちた本書が広く長く読まれることを期待したい。
第一次世界大戦、言葉も肌の色も異なる人々が世界中からヨーロッパに集まった。るつぼの中、語られることなく歴史から抜け落ちていった女性たち、黒人兵たち、「原住民」労働者たち、そして戦場に遺体がさらされたままの無名の人々。人種、ジェンダー認識の起源としての第一次世界大戦を描き、砲撃がかき消した人々の声に耳を澄ます、戦場の社会史。
はじめに
第1章 軍隊と人種
(1)「白人の名誉」
(2)「黒い戦力」
(3) アメリカ軍と人種
(4) 軍隊・階級・人種
(5) 兵士たちの社会
(6) ハーレム・ヘルファイターズーーあるアフリカ系アメリカ人連隊の経験
第2章 戦争と労働
(1) 戦場の労働ーー戦いを支える
(2) フランスにおける労働力ーー「外国人」・「原住民」
(3)「原住民」労働者の労働と生活
(4) 労働補給部隊
(5) 砲撃を受けて
(6) 労働者たちの声
(7) 中国から戦場へ
(8) 戦後に残る人種認識
第3章 人種とジェンダーの交差
(1) 戦場のジェンダー規範ーー「純潔」をめぐって
(2)「白人」女性と植民地兵及び「原住民」労働者との出会い
(3) アメリカ軍におけるジェンダーと人種の交差
(4) インドシナ植民地出身者とフランス人女性労働者
(5) 人権の境界を越えた親密な関係のもつ意味
第4章 越境する人種主義ーーセクシュアリティをめぐって
(1) ドイツ軍の侵攻占領と戦争プロパガンダ
(2) ドイツの情報戦と人種認識
(3) アメリカ流人種主義の輸出
(4)「黒い恥辱」--国際的な「恐怖」の共有
第5章 象徴としての平等性ーー戦死者を悼む
(1) 埋葬と追悼
(2) 象徴としての平等性
(3) 追悼と記憶
(4) 無名兵士の埋葬
(5) 追悼のジェンダー化と人種化ーーアメリカの場合
むすびにかえて
あとがき
索引
スタール夫人やバルザック、ゾラの文学に現われる、逸脱者としての女と男。ときに「宿命の女」「ヴィーナス」と呼ばれた彼女/彼らは何者なのか? ダヴィッドやドラクロワ、モローらの絵画・彫像のイメージから文学作品を読み解くことで、近代におけるジェンダー規範を照射する。
中小企業において、経営者家族の労働と報酬がどのような性質を持つものなのか。本書では、織物業の事例を通じて今まであまり論じられてこなかった中小企業経営者層の労働・生活を、制度と歴史、分業、報酬、主観的世界の側面から検討する。そのフレキシブルな労働の実像に着目し、ジェンダーの視点を取り入れた新たな社会理解のモデルを提起する。
序 章 経営者家族はどのように働いてきたのか
1 中小企業における経営者家族の労働への着目
2 小規模企業の重みと家族の比重
3 生きられた経験から中小工場制の成り立ちを探る
補 論 家族従業者の定義
第1章 織物業とその経営者世帯の構造
1 戦後の絹人絹織物業が抱えた経営環境
2 量産型織物業における分業
3 織物業を営む経営体の構造
4 労働力の構成からみる家族の比重
第2章 織物業を営む家族の働き方
1 経営者の家族は何をしていたのか
2 経営者家族が行う仕事の具体的な様相
3 多様な妻の働き方と役割ーー家族経営のなかの女性
4 家族の柔軟な労働と妻が果たす大きな役割
第3章 家族に対する報酬の配分とその行方
1 家族労働に対する金銭的報酬
2 戦後税制における家族労働の扱い
3 家族従業者に対する報酬付与の過程
4 支払われた報酬の行方ーー報酬の回収・指示・自己抑制
5 回収されていく報酬
補 論 事業を営む家族の老齢年金と高齢期の生活保障
第4章 男性経営者の世界とその帰結
1 男性たちにとっての関心事とその背景
2 男性経営者たちにとっての家族と責務ーー親・きょうだい・子ども
3 男性経営者たちにとっての事業ーーその思いと夢
4 家族的責任と一生をかけた仕事への思いの帰結
第5章 妻たちの労働観と再生産領域における役割
1 女性たちの労働の実像
2 妻たちの職歴と職業観
3 再生産領域に関わる労働の調整
4 彼女たちの労働・生活観
第6章 事業に対する妻の思いと責務
1 妻は事業をどう捉えていたのか
2 事業経営における妻の位置の違い
3 経営者家族の一員としての自負
4 どう捉えようと働かざるを得ないーー家族であることの社会的効果
5 工場を支えた妻たち
終 章 事業を営む人々の側に立って社会を見る
1 経営者家族が社会のなかで果した役割
2 経営者家族が稼ぎ出したものの行方
3 21世紀の労働分析に求められるもの
引用文献
あとがき
資 料 編 【東北・北陸調査地における聞き取り調査票】
人名・事項索引