「ケア」と「ジェンダー」の両概念の「定義」に正面からアプローチし、
福祉社会学を多様な視点と分析手法によって考察した意欲作。
本書は、編者である西下が名古屋市内にある金城学院大学に在職当時に指導した社会学専攻博士課程大学院生あるいは修士課程院生であったメンバー達と共同で執筆している。筆者は、30代前半から40代後半まで14年間在職しており、その間に指導した院生達である。ここ数年にわたる活発な議論を通じて本書は完成している。
本書は、幾つかの特色をもつ。まず第1に、本書のタイトルに入る「ケア」と「ジェンダー」の両概念についてそれぞれの「定義」に正面からアプローチしている点が挙げられる。具体的には、序章でケアとジェンダーに関する先行研究の定義を参照し、批判的に検討した上で筆者の暫定的な定義を提示している。第2に、これも本書のタイトルに入る「福祉社会学」の概念が、その定義において重層的であることを明らかにした点が挙げられる。つまり、福祉社会学は、第1に社会学の一分野である連字符社会学であり、第2にあるべき福祉社会を模索する学際的な科学であるという2層から構成される概念であると理解する。その考え方は、前職の大学で「福祉社会学科」を新設する際の基本的な枠組みとなった。第3に、具体的なトピックスとして各執筆者の研究キャリア上で選ばれた介護制度、子供の共同監護、女性労働、単身高齢者、路上生活者に焦点が当てられ実証的な分析が行われている。その際、国際比較の視点あるいは国内比較の視点、共時的視点、通時的視点といった様々な視点から多様な分析が展開された。第4に、本書は大学の学部、大学院の教科書として使われることを意識して執筆された。具体的には、多くの章で、章の最初に理論的な考察や理論的な背景の説明がなされ、その考察や説明を踏まえた「人々の語り」(質的データ)が多様な方法で事例分析されている。教科書としての分かりやすさが、十分に発揮されていると考える。意欲に満ちた本書が広く長く読まれることを期待したい。
日本社会のアクチュアルな分析、人間的な価値、総合的な視野、21世紀のグローバル・スタンダードへ、社会形成へのオルタナティブな視角。
本書は、ポスト高度成長期、とりわけ1980年代を主たる対象に、女性の就労に関わる政策を、フレキシビリゼーション・平等・再生産という三つの大きな政策課題に整理し、政治学の視角から分析したものである。
ジェンダー視点で見る新しい世界史通史
歴史を形成してきた「ひと」とは何か。「近代市民」モデルを問い直す!
この世界に生きる「ひと」は年齢・身体的特徴・性自認・性的指向等、多様な属性を持つ存在であるが、国家や社会はしばしば「ひと」を単純化し、望ましい役割や振る舞いを割り当てる。とりわけジェンダーは「ひと」の定義の根幹にかかわる存在である。本巻では「ひと」の生にジェンダーがいかに作用しているのかを、「身体・ひと」「生殖・生命」「セクシュアリティ・性愛」「身体管理・身体表現」「性暴力・性売買」の各領域について歴史的視座から検討し、その構造を考察する。
第1章では、各文化における身体・生命観を問い、社会的規範としての「らしさ」がいかに構築されるのか、「ひと」がいかに分類され、差異化されたのかを比較史的に明らかにする。
第2章では、産む身体としての女性身体、産まれる子の生命、人口政策・人口動態を論じる。
第3章では、歴史上の多様な性愛・結婚の在り方を確認し、LGBTQの人びとの在り方をめぐる比較史に焦点をあてる。
第4章では、「健康」の文化性、身体描写や身体表現のジェンダーバイアスを検討する。
第5章では、性暴力の歴史と買売春の比較文化を叙述する。
■本シリーズの特徴
世界史通史としての本シリーズの特徴は、「国家や政治・外交・経済」といった「大きな物語」を中心に記述するのではなく、等身大の「ひと」を中心に据え、それを取り巻く家族や共同体、グローバル経済や植民地主義といったテーマに段階的に踏み込んでいくという構成にある。
近代歴史学の根底にある近代市民社会モデルは、暗黙の裡に「健康で自律的な成年男性」をその主たる担い手と見なしていたが、それは一方で女性や社会的弱者を歴史から排除することにもつながっている。本シリーズでは、単に歴史の各トピックについて、ジェンダー史の知見を紹介するのみにとどまらず、「ひと」はそもそも「ケアしケアされる存在」である、という認識に立って、世界史の叙述そのものを刷新することを目指している。
働く女性が増えた、女性の活躍の場が広がったというのは本当か?90年代以降の女性のキャリアの何が変わり、何が変わらなかったのかを実証データから解明する。
共働きが多数を占めるようになってきた現在、夫婦関係はどう変わるのか。結婚、離婚、家計、働き方、政治参加から、これからの夫婦が直面する課題を提示する。
女性を保護するか、男性と平等に扱うか。戦後日本の女性労働を決定づけた「ねじれ」の原点を、日米ジェンダー観の出会いの場・占領改革に探る。
暴力をどのように引き受け、その連鎖を断ち切るのか。「暴力の表象/表象の暴力」から過去の暴力の痕跡をたどり、対抗暴力の限界を受け止めて、ジェンダーやフェミニズムの視点から暴力の循環を断つための実践的可能性を展望する。
日本初の育児休業制度はいかにして誕生したのか。1965年、全電通(全国電気通信労働組合)と電電公社との間で取り交わされた協約の成立過程を実証分析しつつ、組織内部のジェンダー構造と再生産を重層的に解明。両立支援の原点を問い直す。
なぜ人間の活動領域は公私に区分され、男女に異なる役割が振り分けられてきたのか。「個人の尊重」という人権理念のもとでもなお、こうした思考が私たちを縛り続けている。ジェンダーの視点からこの束縛を解き明かし、個人・家族・国家の関係を問い直す、法学、社会学、政治学、教育学の挑戦。