タンザニアは中央アフリカ東部に位置する国である。北部にはアフリカ最高峰のキリマンジャロ山があり、そのふもとでは一九七〇年代から、日本の支援で灌漑稲作の普及が進められてきた。貧困、干ばつ、生活向上のための支援である。その結果、タンザニア全土に灌漑稲作が広がり、トウモロコシの粉を煉った主食のウガリだけでなく、最近では調理の簡単なコメも地元の人々に広く受け入れられるようになっている。
コメの生産に従事しているのは男性ばかりではない。手間暇のかかる苗床、田植え、除草、収穫などは女性の仕事とされている。しかし、女性の役割はなかなか正当に評価されていない。
タンザニアでは多くの女性が農業に従事し、トウモロコシ、コメ、ヒエ、野菜などの栽培をしているが、ほとんどが零細で天水に依存した伝統的農業を営んでおり生活は厳しい。女性には資産と呼べるものはほとんどない。女性が所有する土地は全農地の約一三%だが、女性は労働力や労働時間などに見合うだけの土地に関する権限を保障されていない。
タンザニア政府は、財産権の私有化、土地制度の確立(地権・地籍の確定や登記)など、土地権の近代化を促進してきたが、女性の土地所有、相続に関する取組は全国的には進んでいない。だが、筆者が調査したキリマンジャロ州の灌漑稲作地区はこの点に関して目覚ましい成果を上げていた。
本書は、慣習的土地所有権の弊害を乗り超えながら、農村の土地権の近代化を先取りしてきたキリマンジャロ州の灌漑稲作地区に焦点を当て、一九七〇年代から現在に至るこの地区の土地権(耕作権、所有権、相続権など)の意味をジェンダーの視点に立って、個別面接調査手法などを駆使しながら明らかにした希少な研究書である。
調査結果として、女性の土地権が経時的に増加していること、その要因として、女性が土地の所有や相続を「価値あること」として認識していること、それに基づく共同的な取組が地域社会の変容とともに社会的に認知されるようになったこと、などが判明した。
入手しにくい土地権をめぐる実証的データに基づき、アフリカ農村女性の価値観や社会的地位に関する新たな側面を浮き彫りにしたのが本書である。内外を問わず、男女の社会的関係性の変革を重視する「ジェンダー視点の協力活動」がいっそう求められている今日、本書による「国際協力ジェンダー研究」の試みが、少しでもその発展に寄与しうるならば幸いである。(たなか・ゆみこ)
鈴木杜幾子明治学院大学名誉教授の退任を記念して開かれたラウンドテーブル企画・美術とジェンダーをめぐって。
トマス・ハーディと妻たちの栄光と苦悩と確執の歳月をたどり、文学と歴史が交錯するハーディ文学生成の「真実」に迫る。「帝国」「階級」「ジェンダー」「宗教」を問い、多数の貴重な図版を配した著者渾身のハーディ文学論。
人種やジェンダーの観点からアメリカ文学を読みなおし、アメリカに潜む排除と抑圧のメカニズムを明らかにする。
序章 アメリカ/文学を読みなおす
1 アメリカを読みなおす
第1章 女としての〈アメリカ〉-アメリカの「発見」とポカホンタス物語
第2章 男たちの妄想ー魔女幻想とセクシュアリティ
第3章 反復と回帰ー『ウィーランド』とアメリカン・ゴシック
2 アメリカ文学を読みなおす
第4章 ジャンルとジェンダーー越境するポー
第5章 詩とジェンダーーホイットマンとディキンスン
第6章 アレゴリーの毒ー『ラパチーニの娘』あるいは読みのポリティックス
3 ジェンダー・アレゴリー
第7章 ヘスターの「沈黙」-『緋文字』のジェンダー・ポリティックス
第8章 失敗としてのジェンダーーヘミングウェイの男性性構築
第9章 幻想としてのジェンダーー『M・バタフライ』の越境する身体
4 ゴシック・アレゴリー
第10章 フランケンシュタインのアメリカージェイムズ・ホエールのゴシック・アレゴリー
第11章 〈まなざし〉の異性愛ー『めまい』の危険な反復
第12章 皮膚に宿るアレゴリーー『羊たちの沈黙』のゴシック・ホラー
日本社会学理論学会の機関誌。第14号。
「差異と共生」というテーマをめぐって多様な視点からアプローチを試みる。
特集序文
ポスト多文化主義時代における差異と共生
イスラーム、シティズンシップ、ジェンダー
岡崎宏樹
イスラームを人間化する
多文化主義社会イギリスにおけるムスリム女性とヒジャブ
安達智史
「ポスト多文化主義時代」とフランスのマイノリティ
セクシュアル・デモクラシー、「ノン・ミクシテ」と カラー・ブレイヴな普遍主義
森千香子
リベラル多文化主義と先住民の再起
「理論」の独白から思想の対話へ
鈴木赳生
【論 文】
「社会的なもの」としての再生産労働
介護保険制度を中心に
兪羅珠
フェミニズムの主体と権利
中絶をめぐる女性の自己決定権の再考
松浦由美子
見田宗介の社会学理論における近代価値空間の反転と裂開
70年代の理論構想の意義
徳宮俊貴
ホーリズムとしての知識社会学
知識社会学の根本問題の解決に向けて
小田和正
【書 評】
対立を乗り越えるための社会理論
馬渡玲欧
(書評対象書:井口暁著『ポスト3・11のリスク社会学̶原発事故と
放射線リスクはどのように語られたのか』)
〈他者〉の変奏̶インヴェンションとシンフォニア
油井清光
(書評対象書:奥村隆著『反転と残余̶〈社会の他者〉としての 社会学者』)
〈消費社会論〉というジレンマ
石川洋行
(書評対象書:間々田孝夫著『21世紀の消費̶無謀、絶望、そして希望』)
理論はいかにして自由な空間を切り拓くのか
出口剛司
(書評対象書:樫村愛子著『この社会で働くのはなぜ苦しいのか』)
多民族国家エチオピアは若年層の都市流出や高齢化の進展の中たくましく人々が生きている。本書は女性個人の土地保有権を保証する特徴的な土地政策を考察し、1990年代から現在に至るまでの農村社会の変容と人々のエスノグラフィからアフリカ農村の来し方と行く末を考える。
はじめに
序章 農村に変化をもたらすものーー課題の設定
第I部 エチオピア概観
第1章 エチオピアの政治体制の変遷
第2章 EPRDF政権期の経済・社会構造の変化
第3章 調査地/調査方法について
第2部 土地獲得のための戦略と限界
第4章 EPRDF以前の土地制度の変遷
第5章 土地再分配と女性の土地保有権
第6章 土地管理制度の整備ーー国家による農村のとりこみ
第7章 農村における土地制度の実践ーー土地不足のなかで創られる新しい慣習
第3部 「町」の役割ーー受け皿と中継点
第8章 「町」における経済活動
第9章 「町」から変わる若い女性のライフコース
終章 農村変容と若者の選択
おわりに
マルクス主義とフェミニズムの理論的統合をめざす。性差別を不断に生み出している日本型企業社会その克服の展望をさぐる気鋭の野心作。
資本主義の成立と発展のなかで、過去の経済学者たちは女性や家族をどのように描いてきたのか。本書では、18世紀末から20世紀初頭の経済学者たちの思想をたどり、家事やケア労働の価値にも光をあてながら、これまで見過ごされてきたジェンダーの視点で経済思想を問い直す。
序章 経済学者の女性論に見るジェンダー思想史
ーー近代社会と「ジェンダー秩序」 柳田芳伸、原伸子
第1部 産業革命期における女性解放の主導者たち
第1章 商業社会と女性
ーーヒュームからトンプソンまで 山尾忠弘
第2章 イギリス産業革命期の結婚と女性
ーーマルサスの所論 柳田芳伸
第3章 ベンサムにおける性的快楽主義と女性
ーー同性愛行為・宗教批判・結婚制度 板井広明
第4章 J. S.ミルの『経済学原理』における女性
ーー男女の平等から労働者の境遇改善へ 小沢佳史
第5章 ハリエット・マーティノゥの経済学
ーーヴィクトリア時代の異端派エコノミスト 船木恵子
第2部 福祉国家黎明期におけるフェミニズム運動の展開
第6章 ミリセント・フォーセットの賃金論
ーー賃金基金説から同一労働同一賃金の提唱へ 松山直樹
第7章 「性の貴族制」から条件付き競争へ
ーーエッジワースにおける女性労働論の思想的変容 上宮智之
第8章 母性手当から家族手当へ
ーーエレノア・ラスボーンによる貧困調査とその解釈を中心に 赤木 誠
第9章 「革新主義時代」のフェミニズムと家政学
ーー無償労働の「発見」とジェンダー平等 原 伸子
第3部 20世紀初頭の日本における女性平等思想
第10章 河田嗣郎の家族崩壊論の特徴
ーー高田保馬による批評を手がかりに 吉野浩司
第11章 永井享の婦人論
ーー社会が求める女性像をめぐって 杉田菜穂
第12章 石橋湛山の消費論と女性
ーー婦人経済会との関係を中心に 牧野邦昭
肉体の性別とは違う性認識を持つことが尊重されるようになってきた。先進的に見えるが、じつは日本の古典文学には、男女の境があいまいな話が数多く存在する。
男同士が恋愛仕立ての歌を詠み合ったり、経済力のある姫が一族を養う。武士は泣き、女将軍が敵に向かい、トランスジェンダーきょうだいは男女入れ替わってすくすく成長ーー。太古の神話から平安文学、軍記もの、江戸川柳まで古典作品を通して伝統的な男らしさ・女らしさのウソを驚きをもって解き明かす。昔の日本の「性意識」がいかにあいまいだったか、それゆえに文芸が発展したかも見えてくる。年表作りを愛する著者による「ジェンダーレス年表」は弥生時代から現代までを網羅。
日本社会のアクチュアルな分析、人間的な価値、総合的な視野、21世紀のグローバル・スタンダードへ、社会形成へのオルタナティブな視角。
戦前期の女性教化とその関係雑誌について、真宗を事例にその実態に迫った論考6篇と、当時を代表する真宗系仏教婦人雑誌である『婦人雑誌』の総目次を収録。
20世紀初頭に真宗本願寺派が他宗に先駆けて取り組みながらも、これまで論じられてこなかった女性教化者(教誨師・教士・僧侶)養成・登用事業の実態と女性教化者自身の意識の変化、同派の仏教婦人会中心に開始された女子大学創立事業がやがて教団関係者へとその主導権が移行していくさまや、戦前期に多数発行されていた真宗系仏教婦人雑誌の創刊から廃刊までの経緯と背景などを展望する。
【主な内容】
第一部 論文
第一章 女性教誨師の任用とその実情
第二章 女性教化者「女教士」の任用と養成機関の変遷
第三章 女性僧侶の登場とその背景
第四章 本願寺派仏教婦人会「女子大学設立運動」再考
第五章 近代真宗「女性教化雑誌」興亡史
第六章 『婦人雑誌』と関連事業の展開
第二部 雑誌総目次
『婦人雑誌』(『婦人教会雑誌』改題)総目次
はしがき
第一部 論文
第一章 女性教誨師の任用とその実情
はじめに
一 女教誨師登用をめぐる事情
二 講習所設置と卒業生の動静
三 第二回・第三回講習所の開設
四 女教誨師の低迷
おわりに
第二章 女性教化者「女教士」の任用と養成機関の変遷
はじめに
一 教士制度の創設とその背景
二 教士制度への批判
三 教士の任用状況
四 女教誨講習所と専修学院
五 女教士養成のひろがり
おわりに
付録 教士・女教士名簿
第三章 女性僧侶の登場とその背景
はじめに
一 第一次世界大戦後の女性論の動向
二 女教士の活動と意識
三 女教士・婦人会の活性化
四 女性公民権の獲得運動
五 本願寺派の女性公民権運動への対応
六 女性僧侶創成に至る経緯
おわりに
第四章 本願寺派仏教婦人会「女子大学設立運動」再考
はじめに
一 大谷籌子の生涯と事蹟
二 大谷籌子の女子大学設立理念
三 二つの女子大学設立趣意書
四 女子大学設立運動の実態
五 設立運動の挫折とその後
六 本願寺派による女子大学設立事情の継承
七 女子大学設立不認可の事情
おわりに
第五章 近代真宗「女性教化雑誌」興亡史
はじめに
一 欧化全盛期創刊の雑誌
二 日清戦争後創刊の雑誌
三 全国婦人会の組織化と機関誌
四 大正デモクラシー期創刊の雑誌
おわりに
第六章 『婦人雑誌』と関連事業の展開
はじめに
一 『婦人教会雑誌』の創刊
二 『婦人雑誌』への改題
三 連合婦人会の変遷
四 雑誌の特色と関連事業
五 廃刊に至った事情
おわりに
第二部 雑誌総目次
『婦人雑誌』(『婦人教会雑誌』改題)総目次
あとがき
主人公の影は「紫」。この世界では「男の子=青の影」「女の子=ピンクの影」という価値観が普通。ピンクとブルーが混ざった色で、男らしさ・女らしさのどちらにも当てはまらない存在。周囲からは「紫はおかしい」と言われるが、次第に「影は人それぞれでよい」と理解が広がっていく。テーマ:ノンバイナリーやジェンダー・フルイドを象徴。「男か女か」という二元的な枠を超えたアイデンティティを肯定する絵本。
「ジェンダー平等と公平についてのおはなし」シリーズは、影の色という比喩を通じて「自分らしさ」「多様性」「性別固定観念の更新」をやさしく描き出す絵本シリーズです。“影の色” というユニークな比喩を通して、性別や固定観念にとらわれない「自分らしさ」と「多様性」 をやさしく描き出します。幼い読者から、保護者・教育者にまで届く、子どもだけでなく、大人の心にも響くメッセージを持った作品です。読み聞かせの時間はもちろん、親子の対話や学校・図書館での教材としても最適!
世界が急速に変化を遂げる激動の20世紀、女性と社会のあるべき姿を模索して、人生を懸けた女たちがいた。公正な社会を求め格闘する彼女たちの百年の歩みと、装いに映し出される社会のありようから、中東・イスラーム地域と現代世界の歴史と現在を炙り出す。
「イスラーム・ジェンダー・スタディーズ」シリーズ刊行にあたってーー5『記憶と記録にみる女性たちと百年』
はじめに[岡真理]
第1部 女性たちと百年
第1章 家族計画とチュニジア初の女医[鷹木恵子]
歴史のプリズム1 日本で最初の女性医師[鷹木恵子]
歴史のプリズム2 近代トルコ女性の「リベルテ」を求めて[松尾有里子]
歴史のプリズム3 個としての信念を貫いた女性[服部美奈]
第2章 ジェンダー平等を求めてーー1920年代のレバノンにおける宗教改革運動[後藤絵美]
歴史のプリズム4 革命後は忘れられた?フェミニスト[山崎和美]
第3章 人々の痛みの根源を探るーーイラン・ソーシャルワーカーの母[藤元優子]
第4章 自由と真の男女平等のために闘い続けた女性詩人[鈴木珠里]
第5章 『若者の証言』をめぐる百年ーー「すべてをもつ」ことを夢みる女たち[松永典子]
歴史のプリズム5 異教徒への伝道を夢みて[山口みどり]
歴史のプリズム6 植民地主義・性差別と闘ったエジプトの女性教師[千代崎未央]
第6章 農民運動女性指導者の愛と闘争の人生[長沢栄治]
第7章 大学モスクの女性活動家の先駆者[野中葉]
第2部 変身する女性と社会ーー装いに映るジェンダー
装いとアイデンティティ
第8章 イラク◇路上で抗議するムスリム女性たち[酒井啓子]
現代のプリズム1 西サハラ◇メルフファと解放闘争[新郷啓子]
現代のプリズム2 日本◇ネヴロス クルド人の装いと思い[中島由佳利]
第9章 ウズベキスタン◇ヴェールを捨てたその後に[帯谷知可]
現代のプリズム3 アメリカ◇信仰とお洒落だけではないーームスリムファッション最前線[高橋圭]
装いと国家
第10章 中国◇回族女性のヴェールの意味[松本ますみ]
現代のプリズム4 パキスタン◇罪深き女たちの詩[須永恵美子]
第11章 イラン◇帽子とヘジャーブーー服装の国家規制が導いたもの[藤元優子]
装いと信仰
第12章 エジプト◇女優たちの神学ーーヒジャーブ、フェミニズム、イスラーム[後藤絵美]
現代のプリズム5 ベルギー◇モランベーク地区に生きるムスリムの女性たちーー子育てと装いをめぐるフィールドノーツから[見原礼子]
第13章 インドネシア◇変身する女性と社会ーー近年のチャダル着用現象を事例に[野中葉]
世界化する「装い」
現代のプリズム6 世界◇ベリーダンスの衣装と百年[木原悠]
現代のプリズム7 日本◇共鳴するモデストファッション[岡井宏文]
編者あとがき
参考文献・参考資料
デパート、スーパーで働く女性たち。女性労働の特殊性を過度に強調したり、不利を告発したりする「ジェンダー・ステレオタイプ」の分析を斥け、今日的状況にふさわしい労働組織変革の方途を探る。
青は男の子の色? 女の子は見た目のことばっかり言われる!? 女の子って陰湿でコワイ?
若い世代にも根強く残る「らしさ」をマンガで紹介し、自分らしく自由に生きるために大切なことを伝えます。
本書では、性別職域分離をめぐる問題について、ブルーカラー男性職種への女性の参入を事例として取りあげつつ検討している。労働現場に足を運び、労働者の生の声を拾いあげながら、各職場のルールが何を要因としてどう変わり、女性労働者や男性労働者、そして労働組合や経営者が、それをどのように捉え、いかに対応しているのかを具体的に解明した。性別職域分離の縮小の内実を分析し、今後の展望を明らかにしている。