既成の戦後論/民主論/占領論は何を語らないのか──。いま・ここの構造的暴力に抗うために、敗戦後という時空間、ジェンダーというまなざし、東アジアという問題領域を照射し「戦後」を歴史化して、戦後思想の政治性を射抜くフェミニズム文化批評。
「戦後・暴力・ジェンダー」全三巻の刊行にあたって 大越愛子/井桁 碧
はじめに──ジェンダーから読む「戦後」 大越愛子
第1部 戦後とは何か
第1章 戦後思想のパラドックス 大越愛子
1 敗戦後から戦後へ
2 「家父長制」デモクラシー
3 大日本帝国の崩壊、民族差別・人種差別の隠蔽
4 象徴天皇制という欺瞞
5 ジェンダーの「戦後」
6 パラドックスは超えられるか
第2章 敗戦/占領とジェンダーのポリティクス 井桁 碧
1 「大きなアメリカ人」
2 挑発する〈ジェンダー〉
3 〈性〉の未来に
4 占領軍兵士の「慰安」
5 書くことの/読むことの〈位置〉
6 占領と「性的比喩」
7 GIの日本と「日本の女」
8 従属の象徴としての「パンパン」
9 戦後思想の特徴としての「男性的」
10 敗戦/占領と〈性〉の修辞/ポリティクス
第3章 沖縄から広がる戦後思想の可能性──戦場における女性の体験を通じて 洪★王偏に允★伸
1 人種化された体──「朝鮮人従軍慰安婦」と「辻遊郭の女性」
2 住民の統治手段となった女性の体と「強かん恐怖」
3 「慰安婦」たちの戦後と拠点としての沖縄──結論に代えて
第4章 リブの可能性と限界──主婦と娼婦の分断 菊地夏野
1 女性と国家
2 抵抗の「場」をずらす
3 主婦的状況の意識化
4 娼婦と主婦の分断
5 主体化を超えるエロス
6 臨界点
第5章 女性学の戦後──よりよく〈わたし〉を生きるために 大橋 稔
1 男性と女性学
2 ブラック・フェミニズムと日本の女性学
3 女性学の現在
第2部 戦後思想を外部の視点で捉える
第6章 リドレス不可能性について──サイゴン、広島、フランツ・ファノン 米山リサ
1 解放とリハビリの米国神話──フィリピン、日本人女性、ヴェトナム難民
2 戦争犯罪を銘記することの意味
3 リドレス不可能性の意味と可能性
第7章 大虐殺の後で──済州島における女性の痛みと生存の連帯 金成禮[藤枝 真 訳]
1 アンティゴネーと悲嘆する権利
2 歴史の廃墟のなかの女性の地位
3 国家暴力という統治体の「アカ」大量虐殺
4 反共産主義という見せ物における性化された身体
5 家父長的言語に対する沈黙の身体
6 連帯と痛み──夢、哀しみ、霊魂憑依
7 生き残るための連帯──「寡婦」ネットワーク
8 トラウマの消えない記憶と女性の人権
第8章 東アジアの戦後の歴史を考える──日韓を横断する視点は可能か 権憲益/金成禮/大越愛子/井桁 碧
おわりに 井桁 碧
まえがき
序章 フェミニズム国際法学の視座
はじめに
1 国際組織の動きとジェンダー
2 フェミニズム国際法学の視座
3 女性差別撤廃条約の実施措置とNGOの参画
4 女性差別撤廃条約と国内法
1
第1章 国際人権保障における女性の人権
はじめに
1 「女性の権利は人権である」--フェミニズム国際法学誕生の契機
2 男女平等概念の変遷ーー国際人権保障における女性の人権の展開
3 女性に対する暴力ーーフェミニズム国際法学の背景
4 国連世界女性会議文書にみる女性差別撤廃条約
第2章 女性差別撤廃条約ーーフェミニズム国際法学の基盤
はじめに
1 女性差別撤廃条約の法理
2 女性差別撤廃条約締約国の差別撤廃義務
3 女性差別撤廃条約の現状と課題
第3章 女性差別撤廃条約選択議定書の概要
1 選択議定書制定の経緯
2 選択議定書の概要
3 日本の選択議定書批准に向けて
第4章 女性差別撤廃委員会における日本レポートの審議とNGO
はじめに
1 日本レポート審議とNGO
2 JNNCのアプローチ
3 「最終コメント」とJNNCの見解
4 JNNCの委員会審議後のコミットメント
5 国内への影響
2
第5章 政策としての男女平等
1 日本の女性政策の変遷
2 日本国憲法制定の男女平等
3 女性差別撤廃条約国会承認審議における男女平等
4 21世紀日本の男女共同参画政策ーーNGOの参画と地方分権の進捗
第6章 女性差別撤廃条約と男女共同参画社会基本法
1 国連の動きと21世紀の日本
2 女性差別撤廃条約と男女共同参画社会基本法
おわりに
第7章 日本の女性NGOと国連
はじめに
1 日本女性の国連への窓ーー国連NGO国内婦人委員会
2 女性差別撤廃条約の署名・批准の実現ーー国際女性年連絡会
3 国連女性2000年会議に向けた日本NGOレポートの策定ーーNGOレポートをつくる会から日本女性監視機構へ
4 女性差別撤廃条約日本レポートの審議ーー国際女性の地位協会と日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク
おわりに
補論
第1章 衆議院における女性差別撤廃条約承認審議
はじめに
1 会議の日程と構成
2 条約と国際社会とのかかわり
3 条約に対する日本政府の見解
4 他の人権条約との関係
5 関連して触れられたトピック
6 その他の事項
第2章 参議院における女性差別撤廃条約承認審議
はじめに
1 第102回国会参議院外務委員会:会議の日程と構成
2 条約制定過程における日本政府の態度
3 条約締結の意義
4 条約各条文と国内法制の関係
資料
1 女性差別撤廃条約
2 女性差別撤廃条約選択議定書
3 女性差別撤廃条約・選択議定書締約国ーーレポート提出・審議状況一覧
4-1 第2次・第3次日本政府レポート審議に対する女性差別撤廃委員会による「最終コメント」
4-2 第4次・第5次日本政府レポート審議に対する女性差別撤廃委員会による「最終コメント」
あとがき
索引
初出一覧
主人公の影は「紫」。この世界では「男の子=青の影」「女の子=ピンクの影」という価値観が普通。ピンクとブルーが混ざった色で、男らしさ・女らしさのどちらにも当てはまらない存在。周囲からは「紫はおかしい」と言われるが、次第に「影は人それぞれでよい」と理解が広がっていく。テーマ:ノンバイナリーやジェンダー・フルイドを象徴。「男か女か」という二元的な枠を超えたアイデンティティを肯定する絵本。
「ジェンダー平等と公平についてのおはなし」シリーズは、影の色という比喩を通じて「自分らしさ」「多様性」「性別固定観念の更新」をやさしく描き出す絵本シリーズです。“影の色” というユニークな比喩を通して、性別や固定観念にとらわれない「自分らしさ」と「多様性」 をやさしく描き出します。幼い読者から、保護者・教育者にまで届く、子どもだけでなく、大人の心にも響くメッセージを持った作品です。読み聞かせの時間はもちろん、親子の対話や学校・図書館での教材としても最適!
本書は、ポスト高度成長期、とりわけ1980年代を主たる対象に、女性の就労に関わる政策を、フレキシビリゼーション・平等・再生産という三つの大きな政策課題に整理し、政治学の視角から分析したものである。
日本には国籍や母語、敬虔さなどからみて、多様で多彩なムスリム(イスラーム教徒)が暮らす。彼ら/彼女らの個々に異なる経験を鮮やかに描き出し、日本のムスリムを取り巻く歴史的・社会的状況を詳らかにした上で、受け入れや共生への課題や方向性を示す。
「イスラーム・ジェンダー・スタディーズ」シリーズ刊行にあたってーー7『日本に暮らすムスリム』
はじめに
第1部 日本でムスリマ/ムスリムとして生きる
第1章 ムスリム理解を考えるーームスリム“も”食べられるインクルーシブ給食と日本人ムスリマのヒジャーブの事例から[佐藤兼永]
コラム1 日本の大学で「イスラーム」を教える[小野仁美]
第2章 「ムスリムであること」とどう向き合うかーー第二世代の語りから[クレシサラ好美]
コラム2 SYM名古屋モスクーー日本中のみんなに伝えたい、一人じゃないよ[カン夢咲/パイン・ゼイイエトゥン/クレシ明留]
第3章 若いムスリム女性のアイデンティティ形成ーー日本とパキスタンにルーツをもつ女性たちの事例から[工藤正子]
コラム3 日本の化粧品市場におけるハラール認証の実効性ーーインドネシア出身ムスリム住民への調査から見えたもの[武田沙南/石川真作]
第4章 日本でムスリムとして子どもを育てる[アズミ・ムクリサフ]
第5章 ヴェールの可視性から考える在日外国人ムスリム女性の葛藤[沈雨香/アキバリ・フーリエ]
コラム4 中古車・中古部品貿易業と千葉のスリランカ人コミュニティ[福田友子]
第2部 歴史と社会制度
第6章 見えにくいものを見るということーー日本のイスラーム社会の概要と実態把握上の課題[岡井宏文]
コラム5 日本のイスラーム建築[大場卓/深見奈緒子]
第7章 日本の入国管理制度とグローバリゼーションーーとくにムスリムの定住の観点から[伊藤弘子]
コラム6 あるクルド人家族との出会いから[温井立央]
第8章 在日ムスリム定住化までの様相ーーイラン人とトルコ人を比較して[森田豊子]
コラム7 インドネシア人技能実習生と考える地域の未来[西川慧]
第9章 インドネシア人女性の生きる闘いーーエンターテイナーたちのライフヒストリー[佐伯奈津子]
コラム8 日本ートルコ交流略史[三沢伸生]
第10章 「日本を懐かしむトルコ人」との邂逅ーー日本人特派員が描いたイスタンブルのタタール移民[沼田彩誉子]
コラム9 1920〜40年代の神戸のテュルク系ムスリムと教育活動[磯貝真澄]
第3部 受け入れと共生
第11章 保健医療分野におけるムスリム対応とモスクによる取り組み[細谷幸子]
コラム10 鹿児島マスジドーー地方の外国人散在地域におけるムスリムの居場所[森田豊子]
第12章 ヨーロッパの「移民問題」から何を学ぶか[石川真作]
コラム11 日本のムスリムと埋葬[岡井宏文/森田豊子]
第13章 日本とカナダの難民認定ーーアフマディーヤ・ムスリムのある一家を事例として[嶺崎寛子]
特論 アフガニスタン女性からのSOSを読み解く[小川玲子]
参考文献
イスラーム世界では労働は経済的報酬を伴うだけでなく、時に神への奉仕ともなる。歴史と思想からその労働観を紐解きつつ現実生活における男女の多様な働き方を多角的に考察する。性別によらず誰もが人間らしく働ける社会に向け「労働」の意味を問い直す一冊。
「イスラーム・ジェンダー・スタディーズ」シリーズ刊行にあたってーー8『労働の理念と現実』
はじめに[岩崎えり奈]
統計にみるムスリム諸国の女性の労働
第1部 歴史と思想のなかの労働とイスラーム・ジェンダー
第1章 イスラームの聖典に読む「労働」とジェンダーーークルアーンとその解釈の可能性[大川玲子]
第2章 前近代イスラーム社会における奴隷と労働[清水和裕]
第3章 イスラーム法と前近代ムスリム社会の「性別役割分業」[小野仁美]
コラム1 カースィム・アミーンにおける女性の労働観[岡崎弘樹]
第4章 「真の労働者」とその母ーー近代エジプト労働の社会史の一断面[長沢栄治]
コラム2 初期のムスリム同胞団における労働ーーエジプトの労働問題への取り組み[福永浩一]
第5章 イスラーム銀行の実践からみた労働理念と女性[長岡慎介]
第6章 イランの保健医療・福祉分野におけるボランティア活動と労働[細谷幸子]
コラム3 循環する利他と利己ーーギュレン運動における信仰と奉仕[幸加木文]
第2部 ムスリム社会の労働の現実とジェンダー
第7章 イランの開発計画と女性の経済的エンパワーメントーー女性起業家支援策の意義[村上明子]
第8章 ヨルダンにおける失業問題とジェンダー[臼杵悠]
コラム4 STEM専攻ムスリム大卒女子の高い割合と就労の現状[鷹木恵子]
第9章 「トルコの工場女性労働とジェンダー規範」再訪[村上薫]
第10章 家内と戸外をつなぐ手仕事ーーアルジェリア女性の家内労働という働き方[山本沙希]
第11章 ケア労働と性別役割分業ーーエジプトとパキスタンの家族を事例に[嶺崎寛子]
コラム5 時間利用調査によるエジプトの無償労働の評価[松尾和彦]
第12章 インドネシアの「母系社会」における男の働き方・女の働き方[西川慧]
第13章 エジプト人出稼ぎ労働者の働き方から考えるジェンダー役割ーー湾岸諸国の事例から[岡戸真幸]
第14章 湾岸諸国のフィリピン人家事労働者ーーなぜ見知らぬ他人の助けに頼るのか[石井正子]
第15章 モロッコの地方村落に生きる女性にとっての労働、移動、都市ーー「セーフティーネット」としての家族・親族ネットワーク[齋藤剛]
コラム6 映画『ハウス・イン・ザ・フィールズ』にみるモロッコ山村の性別分業[鷹木恵子]
第16章 ジェンダー政策を再考するーーガーナ農村部の女性の地位向上と労働・家計負担の増加[友松夕香]
編者あとがき[岡戸真幸]
参考文献
イスラームの実態は、人々が生きる現実の中にある。それは具体的な行為の中に生きられる「生」の一部だ。本書はそうした現場とのかかわりで経験する混乱や気まずさ、小さな喜びを扱う。雑多な感情の交感の中で生まれる何かを知識として提示する、稀有なる書。
「イスラーム・ジェンダー・スタディーズ」シリーズ刊行にあたってーー4『フィールド経験からの語り』
はじめに
序章 なぜいま「フィールド経験」から語るのかーー一人の人間としてイスラーム・ジェンダーを生きるために[鳥山純子]
第1部 関係に学ぶ/を築く
第1章 生と性の間でーー保健師としてのパレスチナ人女性への聞き取りから[藤屋リカ]
第2章 つながりを構築するーー紐帯のビルディング、あるいは社会関係の科学[ダリラ・ゴドバン/翻訳・志田夏美]
第3章 「聞こえないトランスジェンダー」だった私のフィールド体験[伊東聰]
第4章 現地を知る、相手を知るーーパレスチナのフィールドに入る[南部真喜子]
第5章 パレスチナ人ゲイAとの出会い[保井啓志]
第6章 近しさへの奮闘ーー時に不安定なカイロの友人グループ[エイモン・クレイル/翻訳・原陸郎]
第2部 関係がゆらぐ/に悩む
第7章 気まずい、と感じることーーパキスタンでの経験から[賀川恵理香]
第8章 二つの海の出会うところーー香港でさわる、さわられる[小栗宏太]
第9章 「私は何者か」という問いとともに[小川杏子]
第10章 中立性の功罪[村上薫]
第11章 偏見を笑う[細谷幸子]
第12章 感情の荒波を乗り越えるーー調査日誌の読み直しから[岡戸真幸]
第3部 関係が続く/を終える
第13章 フィールドとの往来のなかで時間を重ねること[植村清加]
第14章 モロッコにおける友情と文書収集[レオン・ブスケンス/翻訳・中西萌]
第15章 フィールドワークの終わりーーあるいは、私がバドル郡に行く理由[竹村和朗]
執筆者による関連論文
ジェンダー視点で見る新しい世界史通史
歴史を形成してきた「ひと」とは何か。「近代市民」モデルを問い直す!
この世界に生きる「ひと」は年齢・身体的特徴・性自認・性的指向等、多様な属性を持つ存在であるが、国家や社会はしばしば「ひと」を単純化し、望ましい役割や振る舞いを割り当てる。とりわけジェンダーは「ひと」の定義の根幹にかかわる存在である。本巻では「ひと」の生にジェンダーがいかに作用しているのかを、「身体・ひと」「生殖・生命」「セクシュアリティ・性愛」「身体管理・身体表現」「性暴力・性売買」の各領域について歴史的視座から検討し、その構造を考察する。
第1章では、各文化における身体・生命観を問い、社会的規範としての「らしさ」がいかに構築されるのか、「ひと」がいかに分類され、差異化されたのかを比較史的に明らかにする。
第2章では、産む身体としての女性身体、産まれる子の生命、人口政策・人口動態を論じる。
第3章では、歴史上の多様な性愛・結婚の在り方を確認し、LGBTQの人びとの在り方をめぐる比較史に焦点をあてる。
第4章では、「健康」の文化性、身体描写や身体表現のジェンダーバイアスを検討する。
第5章では、性暴力の歴史と買売春の比較文化を叙述する。
■本シリーズの特徴
世界史通史としての本シリーズの特徴は、「国家や政治・外交・経済」といった「大きな物語」を中心に記述するのではなく、等身大の「ひと」を中心に据え、それを取り巻く家族や共同体、グローバル経済や植民地主義といったテーマに段階的に踏み込んでいくという構成にある。
近代歴史学の根底にある近代市民社会モデルは、暗黙の裡に「健康で自律的な成年男性」をその主たる担い手と見なしていたが、それは一方で女性や社会的弱者を歴史から排除することにもつながっている。本シリーズでは、単に歴史の各トピックについて、ジェンダー史の知見を紹介するのみにとどまらず、「ひと」はそもそも「ケアしケアされる存在」である、という認識に立って、世界史の叙述そのものを刷新することを目指している。