生きることそのものであるような芸術的活動、すなわち〈生(せい)の芸術〉は、出会う者の生をいかに変容させ、制度化された既存の芸術界に何を問いかけるだろうか。
重度の自閉スペクトラム症者たちの表現活動、ハンセン病国立療養所の絵画クラブ、インドネシアのアート・コレクティヴが芸術監督を務めたドイツの国際芸術祭、ナイジェリアの現代アーティストによる工房での共同制作……。多様な現場で織りなされてきた、他者とともに生き、つくる営み。「生(き)の芸術」と呼ばれてきたアール・ブリュット、近現代の美術史も参照しながら、自明化された芸術と社会の枠組を揺り動かす論考集。
【執筆者紹介】
青木惠理子 担当:まえがき・序論・第三章・第2部コラム・あとがき
文化人類学研究に従事。日本への移民の子どもたち、日本の旧産炭地社会、在日インドネシア人介護福祉士・看護師、アートの文化人類学的フィールドワークに基づく研究に従事している。
高岡智子 担当:第一章
ドイツ語圏のユダヤ人作曲家研究をきっかけに、現在は東ドイツのポピュラー文化研究に取り組む。専門は音楽社会学。龍谷大学社会学部准教授。
羽鳥悠樹 担当:第二章
九州産業大学芸術学部非常勤講師。専門はインドネシア近現代美術史。
川口幸也 担当:第1部コラム
専門はアフリカ同時代美術、展示表象論。世田谷美術館学芸員、国立民族学博物館・総合研究大学院大学准教授を経て2020年まで立教大学教授を務める。
山田 創 担当:第四章
ボーダレス・アートミュージアムNO-MA学芸員、滋賀県立美術館学芸員。
松本 拓 担当:第五章
専門は社会学。龍谷大学非常勤講師、ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター研究員。
藏座江美 担当:第六章
学芸員、司書。熊本市現代美術館の立ち上げに従事。
藤澤三佳 担当:第七章
京都芸術大学名誉教授。社会人間学のなかの自己アイデンティティ論、自己意識論が専門。
服部 正 担当:第八章
美術史・芸術学。兵庫県立美術館学芸員、2013年より甲南大学。
村澤真保呂 担当:第九章
専門は精神分析、社会学、社会思想史。龍谷大学教員。
胡桃澤伸 担当:第3部コラム
劇作家、精神科医。精神科医として兵庫、大阪、東京、千葉で勤務。専門は統合失調症、外傷性精神障害。
ミューズ=画家と恋愛関係にあった美女、ではない。ポーズをとるだけの従属的な存在でもない。作品の製作にたずさわり、作家の方向性を決定づけ、美術史に残る名作を生み出す力となったミューズの真相と功績を解き明かす。
あなたは剣道の大黒柱をどこに置いてやっていますか。芸術か、競技性か。その価値観の違いで不老の剣になるかどうかが決まる。
著者は「剣道は芸術」と断言し、「芸術性がある」と表現しない。剣道は芸術の分野にあって、競技性も備えているという考え方だが、ここのところが最も誤解を生みやすいところであり、おのずと剣道の質も違ってくる。一般人が剣道を芸術として捉えてくれるようになれば、剣道の評価が高まる。一般人にもぜひ読んでもらいたい。
はじめに
第一章 五島の剣
第二章 剣道家の迷走
第三章 相和する
第四章 戦いの手順
第五章 優雅
第六章 稽古の本源を探る
第七章 原点からの出発
第八章 危機一髪の臨機応変
第九章 有効打突の研究
第十章 大道透長安(私の眼に映じた第38回京都大会)
第十一章 点を線で突く ”突き技” の極意
第十二章 氣を錬る
第十三章 感性を育てる
第十四章 目の付けどころ
第十五章 三殺法
第十六章 全日本剣道選手権大会再検証
第十七章 上段
第十八章 母について
第十九章 剣道は芸術である
日本文化の影響を受けて描き始めたとされる、画に言葉をのせて1コマで見せる「子凱漫画」は、今なお中国で広く親しまれている。庶民の日常生活で育まれる、人の心にある多種多様な「趣」を描き続け、翻訳家としても功績を残した彼の軌跡を、絵画と文章(日本語・中国語対訳)を織り交ぜて紹介。
ルネサンス美術史上、万能の天才という赫々たる評価をほしいままにしたアルベルティ芸術の『彫刻論』『都市ローマ記』『画家における点と線』『絵画の初程』等の貴重文献の翻訳・研究解題。参考文献として『建築の五つのオーダー』を付して完璧を期した。
スクウォット、それは空き家や土地を占拠するという行為を通じて、人間が必要とするあらゆる空間を再分配する運動だ。世界各地のスクウォットの歴史に触れ、韓国におけるスクウォット運動の地平を開いてきたアーティスト・金江による体系的なスクウォット研究書。
1929年、『ローマ帽子の謎』でデビュー、「読者への挑戦」を掲げた本格ミステリ〈国名シリーズ〉で人気を博したエラリー・クイーンは、フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーという従兄弟同士の合作作家だった。二人はバーナビー・ロスの別名義で『Xの悲劇』以下の四部作を発表、さらにミステリ専門誌《EQMM》を創刊、ラジオ・TVにも進出し、40年以上にわたって数々の名作を送り出し、「アメリカの探偵小説そのもの」と評された。
本書はクイーン研究の第一人者が資料や関係者証言を収集し、偉大なミステリ作家のデビューから晩年までの軌跡をたどったエラリー・クイーン伝の決定版である。前著『エラリイ・クイーンの世界』を大幅改訂増補、激しい応酬が展開された合作の内幕をはじめ、代作者問題、60年代に量産されたペイパーバック・オリジナル等、初めて明らかとなる新情報を盛り込んだファン必読の評伝。詳細な書誌・邦訳リストなど付録も充実。図版多数。
序
第1章 ブルックリン従兄弟の謎
第2章 エラリー一号登場
第3章 豊穣の年
第4章 長篇、短篇、そして雑誌
第5章 エラリー一号退場
第6章 新生EQ
第7章 どのようにして彼らはやってのけたのか?
第8章 エラリー電波を支配する
第9章 ソフトカバーとセルロイド
第10章 実り豊かな収穫の年
第11章 電波に還る
第12章 スミスという男
第13章 タイプライターの上の新しい血
第14章 最後の三十分
第15章 神は死に、猫が来るとき
第16章 カレンダーとキングたち
第17章 黄金と緋色とガラス
第18章 第三期の黄昏
第19章 アト・ランダム
第20章 幽霊(ゴースト)が忍び込む
第21章 幽霊(ゴースト)が増えていく
第22章 従兄弟たちに別れが訪れる
第23章 エラリーの時代の終わり
付録1 《EQMM》--ダネイの歳月
付録2 フレッド・ダネイと働いて遊んで
エラリー・クイーン書誌
志望校攻略に欠かせない大学入試過去問題集「赤本」
玉手箱から煙が漏れ出す
茶碗が人形を運んで走る
皿から幽体離脱
壺が手招きしてくる
どこまでも使えない、人を食った陶器たちの全貌が明らかに!
本書に登場する陶器は、あたかも普通の陶器のように見えるだろう。
繊細な絵付け、高度な技術や色づかいは名高い産地のものを彷彿とさせ、複雑な装飾は美しい……
が、邪魔なことこの上ない。つまるところどれもまったく実用に適さないのである。
にもかかわらず、フクモ陶器は我々の心をとらえて離さない。
特別附録「袋とじ秘仏」
巻頭グラビア
わたしとフクモ陶器の出会い
入門編
無用性の分類/通過系/主体系/束縛系/邂逅系/離脱系/時空系/増殖系/ニュー骨董/謎の物体
応用編
各地の風習と結びつくフクモ陶器
◉奇妙な芸事 フューチャー茶道/フューチャー盆栽/幻の書道・書かず道/ニュー神楽
◉甦る伝統陶器 十谷焼/奇妙な織部
◉幻の祭 六甲借景祭壇/六本祭/パイン開きの儀
◉伝説の土産物 龍宮/冥土/各処土産
コラム 絵付け解放運動/食卓を彩るフクモ陶器の世界/フィギュア大集合
寸法比較表
あとがき
特別附録 袋とじ秘仏
喜怒哀楽を操り、共同体を再生させ、時に神や亡霊をも呼び出す舞台芸術の魅力は如何に生み出されるのか。ギリシア悲劇を範とし、オペラやバレエへと拡散していく西洋演劇史を踏まえつつ、能、文楽、狂言、歌舞伎といった日本の伝統芸能や中国の京劇、バリ島の舞踏も取り上げ、その真髄を鮮やかに描き出す。自らも演出家として活躍した演劇研究の泰斗が、歴史・理論・実作を一本の線で結ぶ入門書の決定版。
解説・平田オリザ
*本書は、1996年に放送大学教育振興会より刊行された『舞台芸術論』を再編集し、改題のうえ文庫化したものです。
【目次】
はじめに
第1章 演劇 この多様なるもの
第2章 劇場の系譜
第3章 劇場とその機構ーーシステムとしての劇場
第4章 演じる者の系譜
第5章 稽古という作業
第6章 劇作の仕組み
第7章 悲劇と運命
第8章 喜劇と道化
第9章 近代劇とその対部ーー前衛の出現
第10章 東洋演劇の幻惑(一)
第11章 東洋演劇の幻惑(二)
第12章 前衛劇の地平
第13章 理論と実践ーー世阿弥の思考
第14章 オペラとバレエーー新しいキマイラ
第15章 舞台芸術論の現在
おわりに
解説
参考文献
近年よく耳にする“インフォグラフィック”とは、どのようなものなのか?その機能や効果だけでなく、何をどう表現をしたら“インフォグラフィック”とみなされるのかという点に切り込むべく、誕生の歴史的背景から今後の活用展望について、芸術や科学の様々な分野を交えながら、その輪郭を浮き彫りにする。
美術史の再構築に向けて
芸術作品に内在する解釈への誘いに耳を傾け、作品を生成するさまざまな力の緊張関係を描き出すことで、美術史の知のあり方をダイナミックに再編する。シャピロ、レヴィ゠ストロース、バクサンドール、そしてクロウ自身の実践を通じて、芸術作品の知的探究が秘める可能性を解き明かす、もう一つの美術史への招待。
謝辞
第1章 芸術の知性
第2章 戦時下ニューヨークの象徴の森
第3章 星割れ、あるいは、終わりの感覚
第4章 犠牲と変形
註
索引
訳者あとがき
「線」を愛し、「線」ですべてを感じ、理解し、表現する世界を代表する25人のアーティスト。その作品とは?その奥義とは?
富士山は2013年に世界文化遺産に登録された。その構成資産は、山域の遺構・神社、富士五湖、三保松原など25にのぼり、多くは自然環境と一体となっている。現在、富士山頂には毎年30万人近くが登り、ふもとを周遊する来訪者を入れるとじつに2千万人が訪れており、保存管理が最大の課題となってきた。本書は、登録5周年を記念して、信仰の対象、芸術の源泉として世界に価値を認めたれた富士山の魅力を再確認し、次世代に伝えていくためのロードマップ「富士山ヴィジョン」を紹介する。
目次
2 巻頭言 世界遺産 富士山の魅力を生かすために 西村幸夫
第1章 世界遺産富士山の概要(歴史・信仰・芸術)
10 信仰の対象としての富士山 秋道智彌
33 芸術の源泉としての富士山 遠山敦子
47 世界遺産「富士山──信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産 富士山世界文化遺産協議会
第2章 座談会
66 信仰の山としての富士山を見つめ直して 清雲俊元、松浦晃一郎、岩槻邦男、五十嵐敬喜、西村幸夫
第3章 富士山の自然と文化的景観
82 富士山の文化的景観とその背景としての自然 岩槻邦男
100 富士山の文化的景観とは何か 五十嵐敬喜
114 世界遺産 富士山の自然保護問題 吉田正人
第4章 富士山の魅力を生かす視点
126 富士山ヴィジョンへの取り組み 富士山世界文化遺産協議会
136 未来を担う子供たちへ 富士の国づくりキッズ・スタディ・プログラム 青柳正規
146 自然遺産から複合遺産へ マオリの聖地、「信仰の対象」としてのトンガリロ山 岡橋純子
158 富士山ヴィジョンを通していかに「顕著で普遍的な価値」を高めるか 西村幸夫
桑原武夫といえば、俳句に関わる人なら、すぐに「第二芸術」を思い浮かべる。彼の評論「第二芸術」を、同時代の俳人たちは真正面に受け止めた。この評論をめぐる論争が一つの結節点となり、俳句は新たに出発した。もし、『第二芸術』が書かれなかったとすれば、その後の俳人たちはどのような試みをしただろうか。
桑原武夫の没後30年以上が過ぎ、「第二芸術」の発表からは70年以上経った。今や「俳句用語」として整理されているかに見える「第二芸術」は、どのような文脈で書かれたのだろうか。
1946年発表の桑原武夫「第二芸術」を、もう一度書かれた時代と場所に置きなおし読み直す。