抽象彫刻の泰斗イサム・ノグチ。彫刻のみならず、マーサ・グラハムのための舞台美術でも名を馳せたアーティスト。日本人詩人・野口米次郎を父に、作家であるアメリカ人レオニー・ギルモアを母に、1904年ロサンゼルスで生まれた彼は、終生、自らの「居場所」を探して旅をした。若き日は、肖像彫刻で生活費を得ながら、早くも1933年に「プレイマウンテン(遊び山)」を構想。生涯をかけてノグチはこの構想を温めつづける。
1949年、45歳のノグチは奨学金を得るため、ボーリンゲン財団に「レジャー環境の研究についての申請」を提出する。「私は長く、彫刻と社会とのあいだに、新しい関係がつくりだされなければならないと考えてきた」と始まるこの趣意書には、彫刻の意義を問いつつ、レジャー(余暇)環境そのものの質を変えていくのは、美に関する課題であるとした。ノグチは彫刻を媒体として、人々のくつろぎの場、愉しみの場をつくり出そうと試みていた。
1950年に来日したノグチは、建築家・谷口吉郎のもとで、慶應義塾大学・新萬來舎の内装と庭を手がける。団欒の場の創出、日本との短い蜜月のはじまりだ。51年には広島平和公園の2つの橋の欄干の設計を依頼され、その途中に寄った岐阜で「あかり」のイメージとなる岐阜提灯に出会う。52年には、北鎌倉の北大路魯山人の土地の一隅に、新妻となった女優・山口淑子とともに移り住み、焼きものに没頭するノグチ。掌にのるような彫陶作品「私がつくったのではない世界」が生まれる。国籍も年齢も問わず、いつでも誰でも受け入れられる場としての「庭」。ノグチの魂の旅を鎮める「庭」であった。
日本、アメリカ、イタリア、各地で彫刻家としての仕事をしながら、1960年代には、イエール大学バイネッケ稀覯書・写本図書館、チェイス・マンハッタン銀行の沈床園、イスラエルのビリー・ローズ彫刻庭園などの名作を生む。その一方で、ルイス・カーンとの協同によるニューヨークのリヴァー・サイド・ドライヴの公園計画は、実現に至らなかった。ノグチの「公園」が初めて実現したのが65年、大谷幸夫との協同による横浜「こどもの国」であった。
日本では、庵治石で有名な香川県にアトリエを構える。移築された古い民家に手を加えて、ゆるやかな起伏を活かした庭をつくりつつ、「真夜中の太陽」「エナジー・ヴォイド」などの名作がここで生み出された。
札幌のモエレ沼公園マスター・プランを設計した1988年、この年の暮れにノグチは永遠の旅に出る。起伏だけでつくられた庭園。そこは人々のつどう場であり、風であり、身体である。渺々と風をまとうプレイマウンテンがモエレ沼公園に完成したのは、1996年であった。
作品図版55点とともに、インドに始まり、21世紀の庭の芸術を求める旅。
ミューズ=画家と恋愛関係にあった美女、ではない。ポーズをとるだけの従属的な存在でもない。作品の製作にたずさわり、作家の方向性を決定づけ、美術史に残る名作を生み出す力となったミューズの真相と功績を解き明かす。
芸術と生活の境界に位置する広大な領域、専門的芸術家によるのでなく、非専門的芸術家によって作られ大衆によって享受される芸術、それが「限界芸術」である。五千年前のアルタミラの壁画以来、落書き、民謡、盆栽、花火、都々逸にいたるまで、暮らしを舞台に人々の心にわき上がり、ほとばしり、形を変えてきた限界芸術とは何か。その先達である柳宗悦、宮沢賢治、柳田国男らの仕事をたどり、実践例として黒岩涙香の生涯や三遊亭円朝の身振りなどを論じた、戦後日本を代表する文化論。表題作『限界芸術』に加え、芸術の領域での著者の業績がこの一冊に。
ルネサンス美術史上、万能の天才という赫々たる評価をほしいままにしたアルベルティ芸術の『彫刻論』『都市ローマ記』『画家における点と線』『絵画の初程』等の貴重文献の翻訳・研究解題。参考文献として『建築の五つのオーダー』を付して完璧を期した。
先の見えない時代、列島にアートプロジェクトが満ちる。民衆は祝祭芸術を求めるが、アートプロジェクトの多くは祝祭芸術であり、芸術活動は、祝祭芸術が豊かなところに開花する。
本書の第一の試みは、祝祭と地域社会が持つエネルギー、ダイナミズムを解き明かすことである。
第二に、地域社会と芸術アートとの関係性を解き明かそう。登場するのは、棚田、郷土芸能、奇祭、山野草、潟湖沼、過疎や離島、野草採集、川遊び、里山、沼沢、町工場、農業、川砂利採掘、回船など一見“アート” とは遠い日本人の原風景である。
第三に、芸術は個人のものであるとともに、共同体の表現でもあると喝破する。芸術活動は人々の思いを協働で表現する。
祝祭とアートプロジェクトに込められるのは、豊かな自然と情の満ちる地域社会を再生しようとする人々の願いの根源。日本人の原風景を遡りたどって行き着いた、アートプロジェクトがもたらす再生と創造の新たな地域社会像を提示する。
シェイクスピアを凌駕するほどの技法を披露し、17世紀のバロック演劇に華をそえたカルデロン。広大無辺な想像のキャンヴァスに、聖と俗の劇世界を洗練された筆致で描出し、バロック演劇に特有の鮮やかなコントラストが織りなす百花繚乱の劇空間を創出した、カルデロン独特の劇芸術の神髄に迫る!
序章
1 十七世紀のスペイン演劇
1-1 ロペ・デ・ベーガ以前の演劇
1-2 ロペ・デ・ベーガの大衆演劇
1-3 マドリードの芝居事情
1-4 宮廷芝居
1-4-1 旧王宮
1-4-2 ブエン・レティーロ宮
2 カルデロンの劇芸術
2-1 カルデロンの技法
2-2 文学と絵画
2-3 カルデロンとベラスケス
2-4 劇空間に見る絵画的技法
2-5 詩的世界──イメージ、シンボル、メタファー
3 名誉劇──名誉・嫉妬・復讐
3-1 悲劇のかたち
3-2 名誉の悲劇三部作
3-3 名誉のかたち
3-4 セルバンテスの小説空間に見る名誉の扱い
3-5 カルデロンの冷酷非道な名誉療法──名誉は命よりも大事
3-5-1 『密かな恥辱には密かな復讐を』
3-5-2 『不名誉の画家』
3-5-3 『名誉の医師』
4 〈マントと剣〉の喜劇
4-1 喜劇のかたち
4-2 夜の暗闇と秘密の隠れ場所
4-2-1 『淑女「ドゥエンデ」』
4-3 隠匿の妙味
4-3-1 『時には禍も幸いの端(はし)となる』
4-4 性格の異なる姉妹
4-4-1 『緩やかな水流にご用心』──従順な姉と自由奔放な妹
4-4-2 『愛に愚弄は禁物』──才媛と愚女
4-5 『四月と五月の朝』──捻くれた女と身勝手な男
4-6 変装の妙味
4-6-1 『白き手は侮辱にあらず』
5 人生の糸
5-1 運命と自由意志の相克
5-2 『人生は夢』──自由意志の力
5-3 『風の娘』──権力志向と傲慢さの顛末
6 宗教劇──カトリック信仰の強化
6-1 『驚異の魔術師』──改宗の妙味
6-2 『十字架の献身』──神はいかなる罪も赦される
6-3 『不屈の王子』──カトリック信仰の高揚
7 歴史的背景
7-1 歴史を背景とする作品
7-2 『イングランド国教会分裂』
7-3 アメリカ新大陸(インディアス)の話題性
7-3-1 『コパカバーナの黎明(れいめい)』
8 聖体劇
8-1 聖体劇とは
8-2 聖体劇の起源
8-3 聖体劇の終焉
8-4 カルデロンの聖体劇
8-4-1 『世界大劇場』
8-4-2 『人生は夢』
おわりに
参考文献
年譜
作者名・作品名索引
何度でも騙されたくなる視覚のエンターテイメント。ウラジーミル・クッシュ、ベヴ・ドゥーリトル、リウ・ボーリン、エリック・ヨハンソン、会田誠など、古今東西のさらなる関連アートを収載した『錯視芸術図鑑』に続く第2弾。
志望校攻略に欠かせない大学入試過去問題集「赤本」
生きることそのものであるような芸術的活動、すなわち〈生(せい)の芸術〉は、出会う者の生をいかに変容させ、制度化された既存の芸術界に何を問いかけるだろうか。
重度の自閉スペクトラム症者たちの表現活動、ハンセン病国立療養所の絵画クラブ、インドネシアのアート・コレクティヴが芸術監督を務めたドイツの国際芸術祭、ナイジェリアの現代アーティストによる工房での共同制作……。多様な現場で織りなされてきた、他者とともに生き、つくる営み。「生(き)の芸術」と呼ばれてきたアール・ブリュット、近現代の美術史も参照しながら、自明化された芸術と社会の枠組を揺り動かす論考集。
【執筆者紹介】
青木惠理子 担当:まえがき・序論・第三章・第2部コラム・あとがき
文化人類学研究に従事。日本への移民の子どもたち、日本の旧産炭地社会、在日インドネシア人介護福祉士・看護師、アートの文化人類学的フィールドワークに基づく研究に従事している。
高岡智子 担当:第一章
ドイツ語圏のユダヤ人作曲家研究をきっかけに、現在は東ドイツのポピュラー文化研究に取り組む。専門は音楽社会学。龍谷大学社会学部准教授。
羽鳥悠樹 担当:第二章
九州産業大学芸術学部非常勤講師。専門はインドネシア近現代美術史。
川口幸也 担当:第1部コラム
専門はアフリカ同時代美術、展示表象論。世田谷美術館学芸員、国立民族学博物館・総合研究大学院大学准教授を経て2020年まで立教大学教授を務める。
山田 創 担当:第四章
ボーダレス・アートミュージアムNO-MA学芸員、滋賀県立美術館学芸員。
松本 拓 担当:第五章
専門は社会学。龍谷大学非常勤講師、ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター研究員。
藏座江美 担当:第六章
学芸員、司書。熊本市現代美術館の立ち上げに従事。
藤澤三佳 担当:第七章
京都芸術大学名誉教授。社会人間学のなかの自己アイデンティティ論、自己意識論が専門。
服部 正 担当:第八章
美術史・芸術学。兵庫県立美術館学芸員、2013年より甲南大学。
村澤真保呂 担当:第九章
専門は精神分析、社会学、社会思想史。龍谷大学教員。
胡桃澤伸 担当:第3部コラム
劇作家、精神科医。精神科医として兵庫、大阪、東京、千葉で勤務。専門は統合失調症、外傷性精神障害。
富士山は2013年に世界文化遺産に登録された。その構成資産は、山域の遺構・神社、富士五湖、三保松原など25にのぼり、多くは自然環境と一体となっている。現在、富士山頂には毎年30万人近くが登り、ふもとを周遊する来訪者を入れるとじつに2千万人が訪れており、保存管理が最大の課題となってきた。本書は、登録5周年を記念して、信仰の対象、芸術の源泉として世界に価値を認めたれた富士山の魅力を再確認し、次世代に伝えていくためのロードマップ「富士山ヴィジョン」を紹介する。
目次
2 巻頭言 世界遺産 富士山の魅力を生かすために 西村幸夫
第1章 世界遺産富士山の概要(歴史・信仰・芸術)
10 信仰の対象としての富士山 秋道智彌
33 芸術の源泉としての富士山 遠山敦子
47 世界遺産「富士山──信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産 富士山世界文化遺産協議会
第2章 座談会
66 信仰の山としての富士山を見つめ直して 清雲俊元、松浦晃一郎、岩槻邦男、五十嵐敬喜、西村幸夫
第3章 富士山の自然と文化的景観
82 富士山の文化的景観とその背景としての自然 岩槻邦男
100 富士山の文化的景観とは何か 五十嵐敬喜
114 世界遺産 富士山の自然保護問題 吉田正人
第4章 富士山の魅力を生かす視点
126 富士山ヴィジョンへの取り組み 富士山世界文化遺産協議会
136 未来を担う子供たちへ 富士の国づくりキッズ・スタディ・プログラム 青柳正規
146 自然遺産から複合遺産へ マオリの聖地、「信仰の対象」としてのトンガリロ山 岡橋純子
158 富士山ヴィジョンを通していかに「顕著で普遍的な価値」を高めるか 西村幸夫
日本文化の影響を受けて描き始めたとされる、画に言葉をのせて1コマで見せる「子凱漫画」は、今なお中国で広く親しまれている。庶民の日常生活で育まれる、人の心にある多種多様な「趣」を描き続け、翻訳家としても功績を残した彼の軌跡を、絵画と文章(日本語・中国語対訳)を織り交ぜて紹介。
仏教美術と時代精神・信仰形態との関連に着目し,美術史研究に新たな領野を示唆する試論。
序 章 仏教美術の思想史的研究
第一章 八世紀後半における木彫発生の背景
第二章 八・九世紀の七仏薬師像
第三章 悔過の芸術
第四章 山越阿弥陀図の仏教思想史的考察
第五章 北野天神縁起日蔵六道巡りの段の成立
あとがき
メディウムは再発明/救済されるーー
ポストメディウム的条件とは何か? メディウムとは何か? ポストメディウム時代の芸術とは何か? マルセル・ブロータースの作品の精緻な分析とベンヤミンの考古学的方法を深く交差させながら、現代における芸術そして「メディウム」の可能性を探究する。必読の理論書、待望の邦訳。解説=林道郎
スクウォット、それは空き家や土地を占拠するという行為を通じて、人間が必要とするあらゆる空間を再分配する運動だ。世界各地のスクウォットの歴史に触れ、韓国におけるスクウォット運動の地平を開いてきたアーティスト・金江による体系的なスクウォット研究書。