人間は歴史によって作られ,また歴史の形成に大きく存在した。それ故に一人物をとおして一定の時代を考え,人物そのものの行動を追跡する意味がある。前著『武士世界の序幕』において武士世界と武家政権成立の実体について考察した著者は,本書では源氏・北条らその開幕の舞台に登場する人々を取上げ,個々の歴史的行動の軌跡を生き生きと叙述する。
伝統的仏教学のうず高い知識が、近代の学問的態度をもって見事に整理せられた好著。
清沢満之は近代信仰の第一の樹立者であり,また日本哲学の基礎を築いた傑人でもある。本書は,日本近代思想史研究の立場から,彼の生涯をたどり,従来真宗教団内に孤立しがちだった満之を,本来あるべき位置に正しくすえただけでなく,宗教信仰や哲学的思索の難問を,実地踏査と適正な史料操作によって見事に解決している。
本名は鄭成功だが国姓爺として有名。貿易のため来日した明人鄭芝竜の子で母は日本人。帰国して抗清復明に活躍,国姓「朱」を賜わり,しばしば日本に救援を乞うたが容れられなかった。一度は南京を陥落しようとして果さず,退いて台湾に拠り,大陸反攻を夢みつつ同地に歿した民族運動の英雄。本書はその生涯を描いた興味ある伝記。
近世女性史研究に新たな視野を切り拓き、既存の近世史研究へも多くの問題を投げかける意欲作9編。封建社会の町や村に生きる女性たちを、史料を丹念に集め着実な分析を加えることによって多面的に描き出し、その経済的・法的・社会的存在形態に迫る近世女性史研究会7年の成果。現代の女性問題にも多くの示唆を与える。
地蔵さんになった百姓の足跡。軍国主義下の日本で、さまざまな迫害と弾圧に耐えながら、「無産強戸村」を築き、10年にわたって統治した農民の勇気と知恵。まさに地方自治の原点を見る思いだ。歴史の証言として読んでほしい。
日本古代政治史の研究は、ともすれば、飛鳥・奈良・平安(前期・後期)等の各時代に分断されがちである。しかし、これらの全時代に一貫して、古代独特の論理の働きがあることを見過ごしてはならない。その基調にあるものこそ、天皇制の価値観(直系主義)ではなかろうか。本書はかかる視点から政治史上の諸事件に独自の解釈を加え、新たな日本古代像を浮彫にする。
ヒコは漂流して渡米,日本人として禁教後最初にキリスト教の洗礼を受け,また帰化第1号の米国市民権を得る。ハリスに伴われて開国日本に帰り,わが国最初の新聞『海外新聞』を発行し,幕末明治の文化の恩人となった。著者はヒコ研究に30年,この“新聞の父”の生涯と功績とを克明に記し,また『ヒコ自伝』を正確にした。
華麗な天平文化の頂点に立つ“美貌の皇后”彼女はまた凄惨極りない政争の嵐の中にそびえ立つ存在でもあった。彼女は生来の叡智と仏への深い帰依によって数々の事業をなし遂げるが,公私にわたり人間としての悲喜にも遭遇する。この天平宮廷に生きた1女性を,政治・社会・文化の各方面からダイナミックに描き出したものである。
本巻所収の諸論稿は明治初年の岩倉遣外使節団派遣の政治史的分析に始まり、さらにその海外視察の体験を基礎に発足した内務省の成立と機構,そしてそのもとでの三島通庸による東北開発に論及する。ついで、立憲制制定への軌道を確定した明治14年政変をめぐる政治過程について考察する。いずれも新たな基礎史料を発掘・紹介しつつ、明治国家の形成に鋭く迫る。