“アジアは一つなり”という名言をもって戦時中大いにもてはやされた天心は、戦後、あまり顧みられなくなってしまった。しかし明治の美術界をリードし、日本の美術を今日の隆盛に導いた彼の業績は、いまこそ改めて考究されるべきである。近代美術の生みの親ともいうべき天心の生涯を委細にわたって知り尽した著者による労作。
漢方医学一点張りの鎖国下の日本にあって,初めて西洋医学書を訳読,『解体新書』と銘打って公刊することに心血を注いで成功。日本の医学界の革新と純正な蘭学の確立を希求し、その発展に熱情を傾け通した玄白。日本人の心に生きつづける不朽の名著『蘭学事始』を遺した先覚者の本格的な伝記、新史料と精緻な考証を加えてはじめてなる。
全国第2位の生産量を誇る「福島県」の養蚕業と製糸業は、どのように普及・発展してきたのであろうか。種掃立枚数・繭産量・蚕種製造の増加にともない、製糸方法も座繰器から機械化へと進んでいくー。それら近代福島県の養蚕・製糸業の変遷を、本書では著者が粉骨砕身して収集した綿密なる史料と統計を基に論理的に展開している。昭和60年に急逝された、庄司先生の博士論文となった近世編の続編として、後世に遺る労作。
『古事記』はひとつの完結した作品として把握されねばならない。「高天原」「葦原中国」「黄泉国」「根之堅州国」の位置付けに新たな見解を示し、『古事記』が、上中下巻を通して構築する独自の世界観ー中国を意識しながらみずからひとつの世界であるという主張を解明する。
近世大阪随一の富豪鴻池家の初代から近代までの一貫した歴史を、従来未公開であった厖大な資料によって丹念に追求した力篇。醸造業から海運業へ、そして大名貸その他の金融業へと発展する財閥成長の過程を、歴代当主のすぐれた業績と人物とを織込んで叙述し、特にその同族組織や事業内容をも克明にえぐり出した画期的著作。
文豪夏目漱石は神経症になやまされていたが、その死因は“胃潰瘍”であった。また旅と酒を愛した歌人牧水は“肝硬変”によって亡くなった。暗殺を逃れた板垣退助は“脳溢血”に斃れた…等々。本書は明治・大正・昭和の激動期に生きた各界の著名人102人のさまざまな「死因」を、医家の眼を通して調査したユニークな読み物である。
正岡子規が明治文学界に大きな足跡を残したことはいうまでもないし、またその伝記も少くない。しかし著者はさらにここに1冊の伝記を送る。子規に傾倒し、子規の心情そのものに奥深く迫る著者は、全く新しい観点から、新しい子規伝のための条件を探り出して、周到にその生涯を追い、その文学理論と思想的動向とを鮮かに描き出した。
本書は建築史の権威である著者が、自らイギリス全土をくまなく踏査し、撮影した写真とともに、古代から近世に至る城郭の変遷を組織的に述べ、かつ各城ごとに本格的な解説を附したものである。特に古城の宝庫ウェールズや、外国人の立ち入り困難な北アイルランドの古城の紹介は圧巻である。
印刷職の時、キリスト教に入信し、苦学しながら同志社に学び、やがて救世軍に身を投じて、伝道と公娼廃止・貧民救済・免囚保護等々の社会事業に自らの血を流して戦う。“平民の使徒”“真の奉仕者”“救世軍最初の日本人司令官”の聖き生涯を描いた本書は、広く宗派を超えて、人類愛と社会福祉に関心を持たれるすべての人々の必読の書である。
誰にもわかる平易な神観研究。深い慰めと平安に満ちた中に語られた内容を専門外の人にも分かり易く解説。神概念の基本構造の全体像を把握する好著。キリスト教、仏教、ユダヤ的イスラム教、神道の神観にも及ぶ。
本巻はこれまで洋学史研究の空白であった幕末洋学史の研究で、近代西洋諸学術、とくに人文・社会諸科学の導入の問題を中心とした論考である。西周、津田真道等の和蘭留学の業績の精密な文献の調査、また長崎、鹿児島その他の幕末の地方洋学の研究など、いずれも著者ならではの手堅い手法でその様相を鮮やかに解明する。