日本は世界でもまれにみる昔話・伝説の豊富な国である。「藁しべ長者」「聴耳頭巾」など、われわれの先祖が語り伝えてきた昔話や、「咳のおば様」「驚き清水」「大師講の由来」など、土地の信仰に密接に結びついて口承されてきた伝説を全国各地から採集し、子どもたちのためにやさしく綴った『日本の昔話』『日本の伝説』。太平洋戦争末期の日々の愛読書であった『芭蕉七部集』の「炭俵」をはじめ、蕪村・一茶らの歌仙の評釈を釈める『俳諧評釈』は、詩人の高い審美眼を示すとともに、常民の生活の絵模様を鮮やかにあぶりだす名鑑賞である。
女たちの衣裳が色どり花やかになり、都市のざわめきが一段と大きくなった昭和初期の世相からさかのぼって視た近代の常民の生活史『明治大正史世相篇』。人々の感性や心づかいの移り変わりを読み解いた今なお斬新で刺激的な不朽の名著である。新しい民俗学の方法を追究し、〈史心〉と〈史力〉によって歴史意識を捉えることの重要性を説いた『国史と民俗学』のほか、「現代科学ということ」など歴史学の方法を問いなおし、現代科学としての民俗学の確立を主唱する諸論考を収録。
ニーチェ、リルケ、フロイトを魅了し、その仕事に大きな影響を与えた女性ルー・サロメ。彼女の周囲には常にスキャンダルの噂がつきまとったが、決してひるむことはなかった。それよりも、聡明な男性と交際することに歓びを見出し、また多くの男たちが彼女の理知と人柄にひきつけられた。本書は、美しく知的で、自分に忠実に生きようとした女性ルー・サロメの生涯を伝える詳細な伝記である。
産業スパイが射たれ、狙撃犯はその場で逮捕された。五十嵐丈吉、59歳。中国戦線を転戦。のち自衛隊で射撃の腕を磨く。渡米後、暗黒街のヒットマンとなる。かつて依頼主を明かしたことのない男が、なぜ今回の依頼主を匂わせた。ヒントは「風呂敷」と「キング・コング」だという。警視庁捜査一課に勤める私は、退職刑事の父に連想ゲームをもちかけた…(「連想試験」)。好評シリーズ八篇を収録。
19世紀前半から20世紀初頭まで、詩人、作家、諷刺画家、密偵、気球乗り、発明家、写真家として活躍、第二帝政期のパリに狂騒の種を蒔き散らした天才奇人フェリックス・ナダール。1858年世界で初めて気球による都市景観の写真撮影に成功、人工照明による地下撮影に初めて挑戦するなどの数々の彼の功績は、未だわが国ではほとんど知られていない。本書は、肖像写真を芸術写真にまで高め上げたと賞賛されるナダールの業績を〈空〉〈人〉〈死〉〈闇〉のテーマに分類し、主著『私が写真家だったころ』より本邦初訳のエッセー4編、代表的な写真約70点を収め、ナダール小伝を付すことにより、わが国における本格的なナダール研究の端緒を拓いた。
大正二年、雑誌「郷土研究」を創刊し、本格的に民俗学研究への道を歩みはじめた柳田国男が、各地の郷土誌編纂者に対して、郷土研究の理念と方法を誌上で提示した『郷土誌論』。名もなき平民の立場に立って、自ら問い、答えを求めよと説く新しい学問のすすめ『青年と学問』。地方に住む青年や教員、研究者に向けて行なった十篇の講演を集めたものであり、柳田の胸中にあたためられた学問のテーマ、学問のあるべき姿が情熱を傾けて語られている。他に愛弟子倉田一郎の調査をもとに柳田がまとめた佐渡の漁村の民俗誌『北小浦民俗誌』を収録。
全国各地における民俗の比較研究の重要性を説き、郷土研究の意義・方法・内容をわかりやすく紹介した民俗学入門書『郷土生活の研究法』。柳田学の中心的方法である重出立証法をはじめて提唱し、民俗学の体系化とその方法論の全体像を示した最初の本格的概論書『民間伝承論』。いずれも昭和6-8年の講義記録をもとに公刊された基礎理論の書であり、経世済民をめざす新たな国学としての日本民俗学の確立を決定づけた歴史的名著である。問答形式による民俗学案内「女性生活史」のほか、「文化運搬の問題」「文化と民俗学」の諸論考を収める。
1945年、ハルピンでソ連軍に抑留され、1953年に特赦で日本に帰還した著者が、シベリア各地のラーゲリを転々とした体験をもとに執筆した全エッセイを収録。極寒の地での激しい労働、栄養失調、同囚の密告などに耐えて生き続ける人間の姿と、何よりも厳しく自己自身の精神と魂のありようを静かに見つめ続けた希有な記録である。
幼い頃からフィギュアスケートに賭けてきた美也子は、いま大学生となって全日本選手権をめざしている。トリプルジャンプのための減量。恋人との葛藤。そして〓@50FCじていく拒食症。少女がであう、身体と精神と感情の揺れをみごとに描いた人間ドラマ。
人間社会は、森林とどのようにかかわってきたのか-。有史以前から現代まで、世界の文明史、経済史を「森林」というキーワードによって鮮やかに再構成する。森林問題の第一人者が死の直前まで書きつづけた本書は、地球をおおう「環境危機」の常識を根本から問い直す視座を私たちに与えてくれる。
もっとも親しみ深く、なつかしい古典ー百人一首。王朝和歌の精髄ともいうべき珠玉の名歌の彫琢された心とことばを、第一人者が鮮かに読み解く。現代語訳・鑑賞・作者紹介・さらに適切な語句・技法解説が、見開き2ページにコンパクトに収められ、一読、ことばは作者の心の文脈に添って生き生きとよみがえる。巻末に、百人一首の世界へわけいるためのキーワード集「百人一首要語ノート」を付す。
アラビアのロレンスには「鉄面皮の山師」と呼ばれ、ルーズヴェルトには「鉄の意志をもった王」といわれた男。第一次大戦後、オスマン・トルコの軛を脱し、英仏の植民政策に抗しつつ、イスラムの宗教的理想と、絶え間ない戦い、100回以上ともいわれる政略結婚とにより、遊牧の民ベドウィンを統一して、いち早く「サウドのアラビア」を打ち立てた男。地下水とともに石油を掘り当て、アメリカとの深い関係のもとに近代化を推し進め、一代で王国の基礎を築きあげた男。沈思黙考、疾風迅雷、「リアドの豹」イブン・サウドの波瀾万丈の生涯を描き尽くす。
全国農事会幹事として各地で行なった講演をまとめた『時代ト農政』は、日露戦争後の国による地方改良運動に対して、農民の立場に立った農業経済政策を展開する柳田国男の農政学総決算の書である。農業の抱えるさまざまな問題を、農村と農民の歴史をさかのぼることによって解明する『日本農民史』。都市の起源、形成の過程、日本の都市の特質を明らかにして、都市と農村の望ましい関係を説く『都市と農村』。ほかに「生産組合の性質について」「中農養成策」など、柳田の学問を貫く経世済民思想の源流となった科学としての農政理論を集成する。
タレントでただでさえいそがしいB・Fの航がH学園に転校して一か月。今では彼の顔すら学校で見られなくなった千苑は、イライラしっぱなし。そんなある日、今はモデルをやってる昌也と再会して、一緒に遊園地へ。「また、誘ってもいいかな…」肩に回された彼の腕の感触と、そのやさしい言葉に、千苑の女ごころは揺れうごいて…。千苑、航のカップルに危機がせまる。
雷鳴のような8.8センチ戦車砲の残響を残して歴史の彼方に消えてしまった鋼鉄の「虎」。無敵虎戦車の戦場での足跡を各戦場、重戦車大隊毎に綴った迫真のドキュメント、しかも230点余りも掲載された写真の大半は、本邦初公開である。
詩集「野辺のゆきゝ」「野辺の小草」をはじめ、拾遺詩篇、短歌、詩的散文など、若き抒情詩人松岡国男の初期文学作品の全てを集成する。『炭焼日記』は、太平洋戦争末期から敗戦の年にかけて、自宅の庭に炭がまを築き、日本の危機の日々をどのように過ごしたかを記録する2年間の日記である。「全巻総目次」「全巻収録著作索引」を付す。