短い生涯を流星のように駆けぬけた兄・宮沢賢治の生と死をそのかたわらで見つめ、兄の死後も烈しい空襲や散佚から遺稿類を守りぬいてきた実弟による初めての文集。昭和14年に変名で発表した幻の詩論「『春と修羅』への独白」をはじめ、45年の長きにわたって発表しつづけてきた兄の想い出や作品についてのエッセーを収録。文庫化に当たり新たに二篇を加え、決定版とした。
酒がいっぱいあるということで満洲行を決意した話など酒、女、バクチ、芸をしみじみと語り、五代目古今亭志ん生の人柄がにじみでた半生記。
職業も年齢も異なる5人の登場人物が繰りひろげるさまざまな出来事をすべて手紙形式で表現した異色小説。恋したりフラレたり、金を借りたり断わられたり、あざけり合ったり、憎み合ったりと、もつれた糸がこんがらかって…。山本容子のオシヤレな挿画を添えて、手紙を書くのが苦手なあなたに贈る枠な文例集。
異常な記憶力、超人的行動力によって、南方熊楠は生存中からすでに伝説の人物だった。明治19年渡米、独学で粘菌類の採集研究を進める。中南米を放浪後、ロンドン大英博物館に勤務、革命家孫文とも親交を結ぶ。帰国後は熊野の自然のなかにあって終生在野の学者たることを貫く。おびただしい論文、随筆、書簡や日記を辿りつつ、その生涯に秘められた天才の素顔をあますところなく描く。
葬式饅頭を御飯にのせ、煎茶をかけて美味しそうに食べた父・鴎外のこと、ものの言い方が切り口上でぶっきら棒、誤解されやすかった凄い美人の母のこと、カルチャー・ショックを受けたパリでの生活、〈しんかき〉〈他所ゆき〉〈足弱伴れ〉などなつかしい言葉と共にあった日常のことー。記憶の底にある様々な風景を輝くばかりの感性と素直な心で描き出した滋味あふれる随筆集。
女中バベットは富くじで当てた1万フランをはたいて、祝宴に海亀のスープやブリニのデミドフ風など本格的なフランス料理を準備する。その料理はまさに芸術だった…。寓話的な語り口で、“美”こそ最高とする芸術観・人生観を表現し、不思議な雰囲気の「バベットの晩餐会」(1987年度アカデミー賞外国語映画賞受賞の原作)。中年の画家が美しい娘を指一本ふれないで誘惑する、遺作の「エーレンガート」を併録。
ベストセラー「原色牧野植物大図鑑」のポケットサイズ「コンパクト版原色牧野日本植物図鑑」。写真と異なり細密なカラー図版で植物の細部まで確認でき、彩色部分図と部分名により各植物の特徴が一目でわかる。
裕福で自由な生活を謳歌している三人の離婚成金。映画や服飾の批評家、レストランのオーナー、ブティックの経営者と、それぞれ仕事もこなしつつ、月に一回の例会“年増園”の話題はもっぱら男の品定め。そのうち一人元貴族の妙子がニヒルで美形のゲイ・ボーイに心底惚れこんだ…。三島由紀夫の女性観、恋愛観そして恋のかけひきとは?
近世的なるものとは何だったのかー。平賀源内と上田秋成という同時代の異質な個性を軸にしながら、博物学・浮世絵・世界図・読本といったさまざまなジャンルの地殻変動を織り込んで、江戸18世紀の外国文化受容の屈折したありようとダイナミックな近世の〈運動〉を描いた傑作評論。1986年度芸術選奨文部大臣新人賞受賞作。
〈資本主義〉のシステムやその根底にある〈貨幣〉の逆説とはなにか。その怪物めいた謎をめぐって、シェイクスピアの喜劇を舞台に、登場人物の演ずる役廻りを読み解く表題作「ヴェニスの商人の資本論」。そのほか、「パンダの親指と経済人類学」など明晰な論理と軽妙な洒脱さで展開する気鋭の経済学者による貨幣や言葉の逆説についての諸考察。
イギリスで人気のフラワーアーチスト達が紹介する花の香りのレシピ。
夕暮れの公園で何気なく撮った一枚の写真から、現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれる「悪魔の涎」。薬物への耽溺とジャズの即興演奏のうちに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」。斬新な実験性と幻想的な作風で、ラテンアメリカ文学界に独自の位置を占めるコルタサルの代表作10篇を収録。
縄文時代ー人々が山のけものや木の実、魚や貝を漁って生活していた時代。大飢饉になると村は全滅の危機にみまわれる。どんぐり村に住む十歳の少年ヨギは村人を救うためイネという草を探す旅に出たり、襲撃してくる食人族や屍鬼を相手に渾身の力をふるう。不思議な力に助けられながら、心やさしく、勇気ある少年の命をかけた冒険の数々。
内部 外部、秩序 混沌、清浄 不浄、自己 他者などの無限に反復される二元論のうえにたえまなく分泌されるもの。境界をつかさどる聖なる司祭ー〈異人〉。この、内と外とが交わるあわいに生ずる豊饒なる物語を、さまざまなテクストを横断しつつ明快に解き明かす、危険な魅力にみちた論考。
春水『春色梅児誉美』、鴎外『舞姫』、二葉亭『浮草』、一葉『たけくらべ』、荷風『狐』、漱石『彼岸過迄』『門』、横光『上海』、川端『浅草紅団』など近世から現代に至る文学作品と、ベルリン、上海、江戸東京といった都市空間ー。このふたつの相関を、幅広い視野と博識のもと、鋭く、エレガントにそして生き生きとして解読してみせた、著者の代表作。芸術選奨文部大臣賞受賞。
マルクス主義と資本主義擁護論の両者に共通する生産中心主義の理論を批判し、すべてがシミュレーションと化した現代システムの像を鮮やかに提示した上で、〈死の象徴交換〉による、その内部からの〈反乱〉を説く、仏ポストモダン思想家の代表作。
1976年5月から6月、日本に滞在したブローティガンは、日記をつけるようにこれらの詩を書いた。この1カ月半の瞬間瞬間を、自分たちが死者となった後の永却の時間から捉える、ブローティガン固有の東京日記。