この本は、人間のまったく新しい機能「中心感覚」を解明する本である。といっても、その機能自体は人間というものが“設計”されたときに、すでに組み込まれていたものだ。そして人間は、この機能があったからこそ、今日まで生存を続けてきたのである。しかし、この機能は今まで十分に知られることがなかった。人間はよく知らないままに、この機能を部分的にのみ使ってきたのである。この機能の名を「中心感覚」という。人間は、この中心感覚を具体的に知ることによって、大きな変換をとげることができる。それは、それまで人生の重荷であったものから、いとも簡単に人々を解放してしまう。
豊臣秀吉の天下統一を授けたものに僧侶安国寺恵瓊があることを知る人は少ない。東福寺の住持で一方位予六万石の大名になった幅の広い人生を持ち、毛利氏の外交僧として敏腕を揮い、転換期を泳ぎながら、ついに関ケ原の役に石田三成・小西行長らとともに西軍の主謀者として処刑される波瀾の一生を、確実な史料によりその全貌を描く。
佐理は道風・所成とともに三蹟の一に数えられ、平安時代屈指の能書家であった。貴顕の家に生まれて幸福な前半生を送りながら、特異な性格のため、後半生は不遇の連続であった。本書は当時の文献を基礎に、彼の書風を、道風や行成のそれと比較しつつ、その個性の浮彫に巧みな筆致を揮っている。はじめてのまとまった佐理伝。
武士勃興期における時代のシンボルともいえる“八幡太郎”源義家は、同時代の人々からも「天下第一武勇の士」と称讃されていた。鎌倉時代以後の武士世界において、彼は典型的な武将として偶像化され、伝説を生み神格化されていった。しかし現実の義家の姿はどのようなものであったろうか。本書はその歴史的生涯を実証的に追求した興味深い好著である。
若手・ベテラン、女性・男性の研究者が集う前近代女性史研究会が、10周年を記念してその成果を問う論文集。「家族・婚姻と女性」「共同体と女性」「家と女性」の3部から成り、日本古代・中世における女性の地位・役割とその変遷を多面的に解明。今後の家族史・女性史研究への豊かな展望を示すとともに、従来の歴史像の修正を迫る。
ここへ来て、天気予報は情報としての価値を持つに至った。この本では、そんな大それた“情報”を扱ったわけではない。が、その情報を読み取るためのヒントになるような事を集め、それを一問一答形式のクイズにまとめた。
熊野比丘尼の存在や和泉式部の伝承に関心をもつ人は多い。しかし研究成果はそれほど多くはない。文献史料からだけではなかなかその姿がつかめないからである。筆者は祭礼の研究に手を染めたことがあるが、日本の祭礼の中には、中枢の部分でかたくなに女性の参加を拒んできた例が多い。近年の民俗学的な巫女研究はこれらに解答を与えつつある。これを、熊野比丘尼や和泉式部に適用してみたらどうであろうか。
手早く楽しく大江戸文化をつかむ道は、山東京伝にふれることであろう。京伝は文学・芸術・演劇・遊里・音楽に通じた文豪であり、上品な商人でもあった。著者は永年にわたって京伝の資料を探り、それらを新しく平易に、ユーモラスにまとめられた。新説・新資料のあれこれが至るところに溢れて、面白く読まれる好伝記。
皇位継承を契機に天武天皇と大友皇子の争いが日本古代きっての大内乱に発展。律令国家形成途上におこったこの乱の真の原因はなにか。額田王をめぐる三角関係説は?弘文天皇追諡の事情・歴史教育との関係・乱の物語や伝説など、興味深いテーマを加え、江戸時代から戦後に至る諸学説を整理し、初めて研究史上に位置づけた。
華やかな歌道の精進をつづける傍ら、すがりつくような思いで顕栄を願う官僚生活。一方悪化してゆく世相の中で所領をおびやかされ、絶間ない病苦に悩まされる。堂上公家とはいえ、やはり一個の人間であり、一代の歌人がたどる苦闘の一生は、まさに反抗的な美の極致の追求でもある。詳細な研究成果と新史料を盛って全容を解剖した著名な堂上歌学者の伝。
『偐柴田舎源氏』によって一世に高名を馳せた旗本戯作者。江戸城大奥を写したものとされて、天保の改革に伴う筆禍事件を惹記し、失意のうちに生涯の幕を閉じる。流行作家としての人気の絶頂と転落ー本書は綿密な史料操作とその全作品批判とをあやなして、従来殆どなされなかった種彦伝を見事に構成する異色作である。
童謡に一時代を画した作詩家の生涯の書。
本阿弥光悦・尾形光琳・里村紹巴・角倉予以など、当代一流の人士を姻戚に持った家に生まれ。諸候の招きを固辞して専ら学問に傾倒した1代の硯学。当時朝野をなびかせた朱子学や陽明学を排し、自ら古学を唱え、門弟3000を数えた。儒者としての優れた生涯と、その学統の影響するところを述べ、難解な理論を平易に語る好伝記。
若年より四国・中国の戦陣に活躍し、壮年義詮の遺托により幼将義満を輔佐し室町幕府の基礎を固む。一旦政争に敗れ四国に退去したが、分国経営に専念して一族繁栄の基盤を築き、のち再び幕府に迎えられて管領に復帰。幕政を主導し南北朝内乱の終熄に尽した誠実な大政治家・第一級武将を克明に描き、その豊かな教養等をも併せ説いた好著。
「文武全才第一」とその才能をうたわれる傑物。明末亡国の危機に際会して東奔西走、終に日本に亡命して、徳川光圀に招かれ、わが文教、殊に水戸学に偉大な感化を与えた波瀾万丈の生涯。剛毅にして博学、とくに経世済民、実用・実学を重んじ、清初五大師のひとりにかぞえられる。日中両国の史料を発掘駆使した完璧な朱舜水伝。
信州の辺地に生れながらも、発明に凝って寺に入れられたが故あって還俗、さらに情熱をふるってついに綿糸紡績機(ガラ紡機)を発明し、明治初期綿業発展の基礎を造った異色の人。考案に明けくれ、貧窮と闘った発明生活の背景を、日本資本主義発展の動きの中に初めて明らかにした本書は、地方史家としての著者が現地に足を運び丹念にまとめた実録である。