南朝派の抵抗は、かつて勤王史観によって尽忠報国とされ、戦後は全く逆に反動として取扱われた。本書は、建武新政の先駆としての武時、その後継者で、一族を組織化した武重、征西将軍宮を迎えて九州宮方の全盛を現出した武光、この3人の人間性に注目し、新しい角度から、数多くの知見を示し、一族をあげての実態を再現している。
近世の後半、町人の哲学として生まれた“心学”は、儒教・仏教・神道・道教の説を取り入れ、庶民の日常生活の中に道徳の実践を説いて発展したが、それは日本が近代化に成功した要因の中でも重要なものの一つであろう。本書は、その開祖石田梅岩の生涯と根本思想について、最も信憑性の高い史料を駆使しながら、平易・簡潔に述べた詳伝である。
日本最初の武家法、御成敗武目の制定者として、また鎌倉時代における稀代の名執権として古来その誉れが高い。北条氏歴代の中で、なぜに泰時ひとりがかくも異数な称讃をかち得たのか。広く関係史料を渉猟し、承久の乱の動揺と武家政権の確立をはかるその時代を背景に、人間泰時の誠実と苦悩の生涯を描き、事績を浮彫りにした好著。
怪僧か、傑僧か。女帝の寵を一身に集めて法王の位に上り、更に皇位をもうかがうに至った空前絶後の怪人物。当時の呪術の盛行と異常な崇仏の様を描いて、宮廷が魔術園と化していたことを明らかにするとともに、女帝治下の暗闘・陰謀を説いて道鏡登場の背景を解明し、秘術の深奥を衝く。古代史上の大きな謎をときほぐした快著。
日本天台宗の開創者である最澄のあとを継ぎ、その教義を顕揚し、また新たに天台密教を根づかせた円仁。入唐して揚州・五台山・長安における修学と書籍の求得に、ひたむきに心をかたむけたその真摯な姿、会昌の破仏という未曽有な出来事に際会し、幾多の辛酸を嘗め、強靭な精神に支えられた足掛け10年におよぶ苦難の旅。その生涯を克明に描いた伝記。
日本資本主義の父といわれる渋沢栄一は、富農の子として生れ、徳川慶喜に仕え幕臣となり、フランス留学で自由民権思想にめざめ、維新後大蔵大丞となったが官尊民卑の風潮に反発して官を辞し、第一銀行はじめ五百余の民間企業を育て、また六百余の社会事業に献身した。高邁な精神と人間味に富んだその生街を生き生きと描く。
この本は、人間のまったく新しい機能「中心感覚」を解明する本である。といっても、その機能自体は人間というものが“設計”されたときに、すでに組み込まれていたものだ。そして人間は、この機能があったからこそ、今日まで生存を続けてきたのである。しかし、この機能は今まで十分に知られることがなかった。人間はよく知らないままに、この機能を部分的にのみ使ってきたのである。この機能の名を「中心感覚」という。人間は、この中心感覚を具体的に知ることによって、大きな変換をとげることができる。それは、それまで人生の重荷であったものから、いとも簡単に人々を解放してしまう。
わが国で最初に人体を解剖したのは山脇東洋であり、その学風を受けついで蘭学を京都にひろめ、解剖の技両において匹敵するものとなしといわれたのが小石元俊であった。小石家に伝わる厖大な史料を精査し、元俊の開業医としての姿と、蘭学者間の文化交流の実体を見事に描出して、蘭学草創期における知られざる人物の発掘を行った好伝記。
貧しい人々の葬儀に自らその棺をかついだ大名。利休七哲の1人として、また茶人としても令名のあった大名。強要されても改宗を肯んぜず、封地を擲って殉教を望み、ついに家族もろとも国外に追放されたキリシタン大名の崇高にして聖なる生涯の伝記。
童謡に一時代を画した作詩家の生涯の書。
学問の神「天神様」に対する信仰は、伊勢や八幡信仰などとともに脈々と日本人の心に波打っている。しかしながら、天神様が菅原道真であることや、道真その人については、どれだけ知られているであろうか。本書は、のちのいわゆる天神伝説を取除き、真実の道真像を丹念に叙述した史学界の碩学による道真伝の定本をなす名著である。
世に“萩原治皇”とも弥せられ、『花園院宸記』をはじめ、多くの文筆を遺された花園天皇は、歴代きっての文化人であった。持明院統の出身で早く位を大覚寺統の後醍醐天皇に譲られたが、南朝側に対する理解もまた深かった。本書は宮廷史・官制史に独自の学風をもつ著者が当時の宮廷の中にいきいきと天皇の生涯を描き出した。
うまいミカンを安くつくる技術の工夫と作業のヒントを集めました。
日記・記録は古文書と共に、日本史学の研究にとり極めて重要である。本書は難解な日記について、その特質や研究上の問題点などを平易に解説、古代から近世に及ぶ日記の概要を簡潔に説く。また、各時代の記録の箇条を例に引いて読下し文を掲げ、特殊な用語等には注解を付した。古記録学を提唱した著者にして初めて可能な好著。
庭の松にしかハーケン(登攀具)を打ったことがない悪友に誘われて岩壁に挑み、みごとズリ落ちた帰り道、ふとみつけた夏みかんに静かに感動する表題作。以来、地球凸凹状況探険家となったシーナがニッポンを歩く。あるときは雪山に天幕を張って酒盛り。またあるときは山のいで湯で温泉正常化を考える。はたまた、カヌーで秘境の沢をくだる。焚火と自然と人間をこよなく愛す、アウト・ドアエッセイ。