中に入っていたのは、青いフェルトのブックカバーだ。ていねいに題名がししゅうしてある。『若草物語』。ジューンはほほえんで、ししゅうの文字を指でなぞった。お母さんは、ジューンの本の表紙がぼろぼろになっていることを知っていたのだ。居間に行って本を取ると、カバーをかけてみた。ぴったりだ。本をケーキの横におき、ジューンは、指で生クリームをすくった。お母さんにここにいてほしかった。プレゼントとカードをありがとうと、いいたかった。最近、ひどく疲れているようなのに、プレゼントを作ってくれたのだから、なおさらだ。小学5年生以上。
久しぶりに故郷に帰ってきたブレットは、親友の家を訪れたとき、信じられないような話を立ち聞きしてしまった。彼の親友カルロとその妹のフランセスカが、賭をしていたのだ。一カ月後の友人の結婚式までに、フランセスカが恋人を見つけるという賭だ。ブレットは妹のように思っいたフランセスカが男性とつき合う年ごろになったことが、どうしても信じられなかった。幼いころに母を亡くし、四人の兄と父親に育てられたフランセスカは、恋愛に関して、まったくなにもわかっていない。賭に勝とうとあせり、たちの悪い男に引っかかって傷つけられてしまうだろう。心配になったブレットは、自分が賭の対象になるべく、フランセスカをデートに誘いはじめた。だがフランセスカは、ブレットが賭のことを知っているとはつゆ知らず、幼いころから憧れていた彼に誘われて、有頂天になっていた…。
「答えはノーだ」カートの冷たい言葉に、ジェシカは必死で泣くまいとした。幼いころから親の愛情に恵まれずに育ったジェシカは、結婚して自分の家庭を持つのが夢だった。だが最近、婚約者にも捨てられ、彼女は人工授精で子供をもうける決意をした。子供の父親は見ず知らずの男性であってほしくない。考えたあげく、彼女は親友の兄カートのもとを訪れ、自分の子供の父親になってくれないか、と頼んだのだった。しかし、いくら懇願しても、カートは首を縦に振らない。仲のよいカートにまで自分を受け入れてもらえなかったという事実に、ジェシカの心はナイフで刺されたように痛んだ。
“エレナ・イン・ベッド”-ベッドに横たわるエレナを描いた官能的な作品だ。その絵を“天敵”ローガンが高値で買い取ったと知って、エレナは怒り狂った。彼女がローガンを憎むようになったのには理由がある。十年前、町で一番裕福でハンサムなローガンは、ハイスクールの卒業パーティにエレナを誘ってくれた。だが当日になり、約束の時間を過ぎても現れなかった。彼は心変わりをしたのだ。貧しい少女など相手にしない、と。それ以来、ほとんど顔を合わせることはなかったのに、なぜあの肖像画を買ったりしたのだろう。絵を取り戻すためローガンの家に乗り込んだエレナは、彼から意外な取り引きを持ちかけられた。
この人は、先月のバロン家のパーティーで突然情熱的なキスをしてきた、シーク・アシュラフだわ。アッシュとの再会に、カレンの胸は高鳴った。あのとろけるような瞬間をずっと忘れられずにいたのだ。だが男性と恋愛関係にならないと心に決めていた彼女は、食事の誘いを断り、その場を逃げ出した。これでよかったのだと自分に言い聞かせているとアッシュが追いかけてきて、言った。「僕の妻になれば、望むものをあげる。いやなら離婚してもいい」カレンは、魅力的なプロポーズを断るすべを知らなかった。
フィオナの働くバーに、見慣れない顔の客がやってきた。見たこともないほど美しいその姿に、彼女の胸はときめく。緊張を抑え、フィオナは思いきって彼に話しかけた。会話を楽しんでいたのもつかのま、酔っ払いの邪魔が入り、彼は店の外へと消えてしまった。運の悪さに嘆くフィオナにさらなる不運が降りかかる。ごみ捨てに外へ出たとき、ナイフを持った暴漢に襲われたのだ。ところがどこからともなく現れた黒い影が彼女を救う。暴漢が逃げ去ると、フィオナは目の前の光景に呆然となったー救世主の正体はさきほどの男性客で、しかも血を流して倒れていた。
ダーシーは、昼はカフェのウェイトレスとして、空いた時間は手作りのパンや菓子を売って暮らしている。隣人の刑事マークは彼女の人柄に惹かれ、親密な関係を持つが、ダーシーの部屋であるものを見つけてかた考えが一変する。“彼女はいったい何者なんだ?”(『恋は謎めいて』)。ジョシュは、臨時の秘書として雇い入れたローリに最初から惹かれていた。彼女は美しく聡明で、強い。だが一方で、どうしても理解できないことがあった。なぜ、彼女はあんなに暗闇を怖がるのだろう?ジョシュの疑問は、意外なことから解明された(『傷ついた恋人』)。モンタナ州ホワイトホーンの町を舞台にした作家競作シリーズ。
エイダンは、弟ケビンがコリーナとの婚約を一方的に破棄したと知り、不実な弟にすさまじい怒りを覚えると同時に、ひそかな喜びを感じずにはいられなかった。コリーナは、彼のテレビ局で放映している料理番組の司会者だ。友人として、以前エイダンはコリーナを家に連れていったのだが、プレイボーイの弟が彼女を気に入り、二人は交際を始めた。人知れずコリーナに欲望を感じていたエイダンは、彼女を弟に引き合わせたことを後悔していた。そして今、ついに彼女を自分のものにするチャンスが到来したのだ。慎重かつ確実に、コリーナを誘惑しよう。エイダンはさっそく行動に出た。
ダイヤモンドをちりばめたような夜空の下、サックスの音色がミランダの体を恋人の指先のように愛撫する。ミランダは目を閉じ、なまめかしい空想に身をまかせた。どこからともなくセクシーな恋人が姿を現す、完璧な設定だわ…。数時間後、彼女は見知らぬサックス奏者とベッドの中にいた。普段のミランダなら即座に断ったはずの誘いだったが、まさに完璧な彼の魅力に、抗うすべがなかったのだ。お堅い看護師の姿に戻り、新しい職場での初日を迎えた翌朝。担当医として彼女の前に現れたのは、昨夜の謎めいた男性だった。