貨幣の増殖を自己目的とする終わりなき運動、資本主義。なぜ等価交換に見える商品流通のなかから、富裕化する階級と貧困化する階級との絶対的対立が生じるのか。この矛盾に満ちた資本主義社会の運動法則全体を、マルクスは19世紀イギリスの産業社会を素材に解明しようとした。全4巻を構想しながら、生前に刊行されたのはこの第1巻だけだった。しかしそれは独立性の高い著作として、以後の知的・政治的世界に巨大な影響を与え続けた。上巻には、「第1篇 商品と貨幣」から「第4篇 相対的剰余価値の生産」の「第12章 分業とマニュファクチュア」までを収録。全2巻。
労働者が資本への屈従を強いられるようになったのはいつからなのか。下巻には、第4篇の続きである「第13章 機械装置と大工業」から「第7篇 資本の蓄積過程」までを収める。商品と貨幣への理論的問いから始まった『資本論』は、ここで産業革命の出版点をなす機械装置の歴史的意味を問う。経済成長が貧困を増大させるー今日なおわれわれを苦しめるこの逆説の由来を、マルクスは剰余価値論と蓄積論により解明していく。資本主義が地球的包摂を進めるなか、根源的批判への手だてを得るには今も本書を紐解くほかはない。原文の躍動感を再現した翻訳で『資本論』の不朽性を開示する。
黄表紙作家の手にかかれば、多くの日本人が快哉を叫ぶ忠臣蔵でさえ、なんとも残念なお話に。浅野内匠頭が短気を起こさなければ、みんな死なずに済んだのにね、というのが佐竹藩留守居役でもあった朋誠堂喜三二のうがちだ。本巻には、世の中の常識をひっくり返して、人びとをうならせたり、笑わせたりした作品16本を収録。井上ひさしをして「SF的発想」といわしめた『莫切自根金生木』や、うさぎが切腹して真っ二つになり、上半身から「鵜(う)」が、下半身から「鷺(さぎ)」が生まれたとする、最高度にくだらない『親敵討腹鞁』など、江戸っ子が競って読んだ名作をお楽しみください。
第三帝国といえば、ゲシュタポの監視のもと恐怖と暴力で国民を支配したイメージがある。しかし、当時を回想する住民証言から現れるのは、ナチズムへの不満や批判ではなく、むしろ正反対の「ナチスの時代はよい時代だった」という記憶だ。ごく平凡な普通の人びとが、ナチズムとは一定の距離をおきながらも、非政治的領域のルートを通じ、政策を支持するようになる。農村ケルレと炭鉱町ホーホラルマルクという、二つの地域での詳細なインタヴュー資料を中心に、子どもや女性までもが、徐々にナチ体制に統合されていった道程をあばきだし、現代のわれわれにも警鐘を鳴らす一冊。
人工知能(AI)に関する初めての論文が発表されたのは1950年のことである。しかし近年のAI研究は、それまでの歩みを圧倒的に凌駕し、AIに加速度的な進化をもたらしている。ただ、急激な発展のあまり、情報は溢れかえってはいても、概念の根本が正確に理解されているとはとても言い難い。本書は、AI研究で突出しているディープラーニング、アルファ碁、トランスフォーマー(生成AIの心臓部)を選び、各々の核心にあるアイデアを説明した後、人工知能について広く考察する。文庫オリジナル。
吉本隆明がつねに第一に考えていたのは詩作であった。本書は『転位のための十篇』より後、一九五〇年代前半から八〇年代半ばまで書かれてきた作品から著者が自ら選んだ六十五篇、単行本として刊行された詩集『記号の森の伝説歌』『言葉からの触手』の全篇、九〇年代、雑誌発表された二篇「十七歳」「わたしの本はすぐに終る」を収録。言語表現の拡張をめざしつづけた詩人の集大成。
科学が証明した「脳にいいこと」を全網羅した決定版!
現在最も注目されるアイルランド作家、トビーンによる長編歴史小説。トーマス・マンを主人公に、第一次世界大戦から第二次世界大戦・冷戦まで、二十世紀ドイツ文化の様相を包括的に描写した壮大な家族の物語。公の顔とプライバシー、愛国心と幻滅の間でバランスをとりつつ揺れ動くマンの内奥世界を重厚に描き出す。
長い武家奉公ののち一念発起して、みたらし団子とお茶を出す茶屋「蒲公英」を開店したさゆ。「客の事情には立ち入らない」と決めていたが、万引きを繰り返す少女や、人付き合いが苦手な絵師希望の娘など、様々な悩みをもって店を訪れる者たちは、さゆに背中を押されて今までの自分から一歩を踏み出す。鍛えた料理の腕と生きる知恵で、江戸の人びとの心を癒やす、人情時代小説シリーズ第二弾!
ミステリ作家志望の君島は、文章力を評価されるも謎解きのトリックが弱いと編集者に指摘され、トリックに強いが文章力に乏しい引き籠もりで、極度の人見知りの雛森寧子を紹介される。外出を嫌がる寧子を小説のネタ集めと称し、連れ出した先で出会ったのは、喫茶店で砂糖壺からコーヒーに大量の砂糖を入れる女、降りしきる雨のなか傘を壊す男…。不可解な出来事に、寧子は鮮やかな推理を披露する!?
ある日突然会社をクビになってしまった、寿明日香。途方に暮れていた明日香は、偶然出会った可愛らしい犬に導かれ、京都東山の細い小路の奥にある「ネイルサロン彩日堂」に迷い込む。その店のオーナー兼ネイリストの千手観月にネイルをしてもらった明日香だが、翌日不思議なことに指が勝手に動き出して…。頑張るあなたに贈りたい、癒しの現代ファンタジー。
コメンテーターとしても活躍する教師・湯川はある日、自分と女生徒がホテルで密会したという記事が週刊誌に掲載されていると知る。さらに、「ディープフェイク(AIによる画像合成技術)」で作られた、湯川が生徒に暴力を振るう動画も拡散。出勤停止、テレビ番組の降板、妻子が家を出ていく中、ネット上では湯川への大炎上がー。普通の人間が追い詰められ、全てを失っていくさまをリアルに描く、傑作サスペンス小説。
とある高校の喫茶部。それぞれ好みのおやつを持ち寄る四人は、不思議な噂を耳にする。「うまい棒一本で、世界の秘密がわかるらしい」それはただの都市伝説か、それともー!?ゆる部活のメンバーがたどりついた「答え」とは。おいしく楽しく、ときどき切ない五つの物語。
地味でマニアックで新鮮な驚きに満ちている、「いつもの暮らし」を綴ったエッセイ集。