博雅のもとを夜な夜な訪れる異国の美しい女性。語れども声は聞こえず、哀しい眼で見つめ、翌朝には、残り香とともに消えるその女が気になった博雅は、晴明に相談する。晴明は、帝より博雅が賜ったという、吉備真備が唐より持ち帰った音のならぬ琵琶に興味を惹かれる。果たして女性の正体は?「月琴姫」など全九篇を収録。
少し早い、俺たちだけの聖夜。そのオルガンは、特別な音で鳴った。18歳の少年が奏でる、感動の音楽青春小説。
狂躁の季節がきた。長州藩は既に過激派の高杉晋作をすら乗りこえ藩ぐるみで暴走をかさねてゆく。元冶元(1864)年七月に、京へ武力乱入し壊滅、八月には英仏米蘭の四カ国艦隊と戦い惨敗…そして反動がくる。幕府は長州征伐を決意し、その重圧で藩には佐幕政権が成立する。が、高杉は屈せず、密かに反撃の機会を窺っていた。
念願の詩集を出版し順風満帆だった婚約者の突然の自殺に苦しむ相場みのり。健診を受けていないのに送られてきたガンの通知に当惑する佐藤まどか。決して手加減をしない女探偵・葉村晶に持つこまれる様々な事件の真相は、少し切なく、少しこわい。構成の妙、トリッキーなエンディングが鮮やかな連作短篇集。
新選組三番隊長・斎藤一。鳥羽伏見、甲州、会津。そして死に場所を求め、男は西南戦争へ。血風録の中心にあった男が語る、幕末維新と寄る辺ない少年の運命。
限りある生のなかに発見する、永続してゆく命の形。妻はまだ40歳代初めで不治の病におかされたが、その生の息吹が夫を励まし続ける。世の人の心に静かに寄り添う中篇小説。
行助は美味しいたいやき屋を一人で経営するこよみと出会い、親しくなる。ある朝こよみは交通事故の巻き添えになり、三ヵ月後意識を取り戻すと新しい記憶を留めておけなくなっていた。忘れても忘れても、二人の中には何かが育ち、二つの世界は少しずつ重なりゆく。文學界新人賞佳作に選ばれた瑞々しいデビュー作。
劣悪な環境のなかで兄嫁とともに戦中の大阪を生き抜き、二人の息子を育てあげたソンジャ。そこへハンスが姿をあらわした。日本の裏社会で大きな存在感をもつハンスは、いまもソンジャへの恋慕の念を抱いており、これまでもひそかにソンジャ一家を助けていたという。だが、早稲田大学の学生となったソンジャの長男ノアが、自分の実の父親がハンスだったと知ったとき、悲劇は起きるー戦争から復興してゆく日本社会で、まるでパチンコの玉のように運命に翻弄されるソンジャと息子たち、そして孫たち。東京、横浜、長野、ニューヨークー変転する物語は、さまざまな愛と憎しみと悲しみをはらみつつ、読む者を万感こもるフィナーレへと運んでゆく。巻措くあたわざる物語の力を駆使して、国家と歴史に押し流されまいとする人間の尊厳を謳う大作、ここに完結。
絵描きの「俺」の趣味はランパブ通い。高校を中途で廃し、浪費家で夢見がちな性格のうえ、労働が大嫌い。金に困り、自分より劣る絵なのに認められ成功し、自分が好きな女と結婚している吉原に借りにいってしまうが…。現実と想像が交錯し、時空間を超える世界を描いた芥川賞受賞の表題作と他一篇を収録。
サブリミナル効果などというものは存在しない。いくらモーツァルトを聴いても、あなたの頭は良くならない。レイプ被害者は、なぜ別人を監獄送りにしたのか?脳トレを続けても、ボケは防止できない。「えひめ丸」を沈没させた潜水艦の艦長は、目では船が見えていたのに、脳が船を見ていなかった。徹底的な追試実験が、脳科学の通説を覆す。
50年以上にわたって冒険小説のヒーローであり続けたジェームズ・ボンド、暗号名007。その新たな冒険行を、リンカーン・ライム・シリーズなどで知られるサスペンスの巨匠ディーヴァーが手がけたのが本書です。舞台を現在に移し、秘密兵器を開発するQ課が製作した特殊スマートフォンとワルサーPPSを手に、9.11後の世界を駆け回るボンド。スタイリッシュなボンドの言動に彩られたスピーディな展開というボンドものらしいストーリーに、“ドンデン返しの魔術師”ディーヴァーらしい巧妙なプロットが仕掛けられています。
ボランティアの現場、そこは「戦場」だったー筋ジストロフィーの鹿野靖明さんと、彼を支える学生や主婦らボランティアの日常を描いた本作には、現代の若者の悩みと介護・福祉をめぐる今日的問題のすべてが凝縮されている。講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞した名著。
家庭裁判所調査官の仕事は、少年事件や離婚問題の背景を調査し、解決に導くこと。見習いの家裁調査官補は、先輩から、親しみを込めて「カンポちゃん」と呼ばれる。「カンポちゃん」の望月大地は、少年少女との面接、事件の調査、離婚調停の立ち会いと、実際に案件を担当するが、思い通りにいかずに自信を失うことばかり。それでも日々、葛藤を繰り返しながら、一人前の家裁調査官を目指すー
ひとり極夜を旅して、四ヵ月ぶりに太陽を見た。まったく、すべてが想定外だったー。太陽が昇らない冬の北極を、一頭の犬とともに命懸けで体感した探検家の記録。
万引、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人。どれが一番長く刑務所に入れるの?老親の面倒を見てきた桐子は、気づけば結婚もせず、76歳になっていた。両親をおくり、わずかな年金と清掃のパートで細々と暮らしているが、貯金はない。同居していた親友のトモは病気で先に逝ってしまった。唯一の家族であり親友だったのに…。このままだと孤独死して人に迷惑をかけてしまう。絶望を抱えながら過ごしていたある日、テレビで驚きの映像が目に入る。収容された高齢受刑者が、刑務所で介護されている姿を。これだ!光明を見出した桐子は、「長く刑務所に入っていられる犯罪」を模索し始める。
大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも…。コロナ禍を生きる火村とアリスがある場所で直面した夕景は、佳き日の終わりか、明日への希望か。圧倒的にエモーショナルな本格ミステリ。
日ざかりの小道で呆然と、「私が殺した男」を見つめる兵士、木陰から一歩踏み出したとたん、まるでセメント袋のように倒れた兵士、祭の午後、故郷の町をあてどなく車を走らせる帰還兵…。ヴェトナムの・本当の・戦争の・話とは?O・ヘンリー賞を受賞した「ゴースト・ソルジャーズ」をはじめ、心を揺さぶる、衝撃の短編小説集。胸の内に「戦争」を抱えたすべての人におくる22の物語。
連続殺人鬼ボーン・コレクターは被害者の周辺に、次の犯行現場と殺害手口を暗示する手掛かりを残しながら次々と凶悪な殺人を重ねてゆく。現場鑑識にあたるアメリア・サックス巡査は、ライムの目・耳・手・足となり犯人を追う。次に狙われるのは誰か?そして何のために…。ジェットコースター・サスペンスの王道を往く傑作。
関ケ原決戦ー徳川方についた伊右衛門は、この華々しい戦でも前線へ投入されたわけではない。勝ち負けさえわからぬほど遠くにあって銃声と馬蹄の轟きを聞いていた。しかし、戦後の行賞ではなんと土佐二十四万石が…。そこには長曽我部の旧臣たちの烈しい抵抗が燃えさかっていた。戦国痛快物語完結篇。
大人になったあなたは、何かを忘れてしまっていませんか?大阪の路地裏を舞台に、新進気鋭の著者が描く六篇の不思議な世界。