日残りて昏るるに未だ遠しー。家督をゆずり、離れに起臥する隠居の身となった三屋清左衛門は、日録を記すことを自らに課した。世間から隔てられた寂寥感、老いた身を襲う悔恨。しかし、藩の執政府は紛糾の渦中にあったのである。老いゆく日々の命のかがやきを、いぶし銀にも似た見事な筆で描く傑作長篇小説。
1950年代の半ばに大学を卒業し、イタリアへ留学した著者は、詩人のトゥロルド司祭を中心にしたミラノのコルシア書店に仲間として迎え入れられる。理想の共同体を夢みる三十代の友人たち、かいま見た貴族の世界、ユダヤ系一家の物語、友達の恋の落ちつき先など書店の人々をめぐる情景を流麗に描いたエッセイ。
愛ってなんぼのものか、わたしはこうして健康に打ち勝った、あなたも禁煙をやめられる、なにも考えないで楽しく生きる方法、超好意的女性論序説、汝みずからを笑え…などなど本邦初の「お笑い哲学者」が、人間について哲学的に、大マジメに考察した、摩訶不思議、変幻自在、抱腹絶倒の処女エッセイ集。
文化や伝統、社会制度はもちろん、言語、意識、そして心…あらゆるヒトの営みは脳に由来する。「情報」を縁とし、おびただしい「人工物」に囲まれた現代人は、いわば脳の中に住むー脳の法則性という観点からヒトの活動を捉え直し、現代社会を「脳化社会」と喝破。さらに、脳化とともに抑圧されてきた身体、禁忌としての「脳の身体性」に説き及ぶ。発表されるや各界に波紋を投げ、一連の脳ブームの端緒を拓いたスリリングな論考。
冷たい夏の日の夕方、25歳の青年が自死を図った。意識が戻らないまま彼は脳死状態に。生前、心を病みながらも自己犠牲に思いを馳せていた彼のため、父親は悩んだ末に臓器提供を決意する。医療や脳死問題にも造詣の深い著者が最愛の息子を喪って動揺し、苦しみ、生と死について考え抜いた11日間の感動の手記。
山奥のクラシックなホテルで、毎秋開かれる豪華なパーティ。その年、不吉な前兆とともに、次々と変死事件が起こった。果たして犯人は…。巧妙な仕掛けで読者に挑戦する渾身の一作。
放課後の理科室で古びた図鑑を見つけた少年は、不思議な夜間学級に出席するーファンタジー短篇「ゾロ博士の鉱物図鑑」を収録。紫水晶、白雲母、月長石など数々の鉱石から生まれた物語は、葡萄狩り、天体観測、寝台特急と場面を変えながら美しく煌いている。著者秘蔵の鉱石写真やショップ案内も充実したコンパクト決定版。
最短で結果が出せる長文読解テクニック。受験カウンセラー的存在として人気の高いカリスマ教師が独自の必勝解法初公開。
建武元年(西暦25年)に始まる後漢王朝では、幼帝が続き、宮中は皇太后の外戚と宦官の勢力争いに明け暮れていた。正義の声は圧殺され、異民族の侵入が頻発し、地震や天候不順が続く。六代目の帝に皇子が生まれた時、守り役に一人の幼い宦官がついた。その名は曹騰。後に八代目順帝の右腕となった彼こそ、曹操の祖父である。
決断できない、責任をとらないリーダーはなぜ生まれてしまったのか。エリート参謀の暴走を許したものは何か。ご存知“歴史探偵”が日本のリーダーの源流をたどり、太平洋戦争での実際の指揮ぶりをつぶさに点検。今こそ歴史に学ぶ姿勢が問われているのです。
「皆が反対することこそ成功する」「人は『得』より『損』を大きく感じる」-。40周年を迎えたコンビニ業界トップのセブンーイレブン。常識をくつがえす経営で知られる著者が、人の心理をつかむビジネスの秘訣を初公開する。
若くしてデイトレードで成功しながら、自身に秘められた女性への殺人衝動に悩む榊信一。ある日、余命僅かと宣告され、欲望に忠実に生きることを決意する。それは連続殺人の始まりだった。元恋人の澄乃との皮肉な再会。犯人逮捕に執念を燃やす刑事・蒼井にも同じ病が襲いかかり、事件の展開は衝撃の結末をー。
ただ生きてきた時間の中に溶けていくのは、なんて心地よいことなんだろう。卓抜なユーモアと鋭い人間観察、リズミカルな文章と意表を突く展開。会心の短篇集!
46歳の誕生日、夫と2人の息子と暮らす主婦・朋美は、自分を軽んじる、身勝手な家族と決別。夫の愛車で高速道路をひた走る。家出した妻より、車とゴルフバッグが気になる夫をよそに、朋美はかつてない解放感を味わうが…。家族という荒野を生きる孤独と希望を描いて、新聞連載時大反響を呼んだ話題作の文庫化。
あれから六年、大学を卒業した早苗は結婚。就職が決まらぬ香織は、道場での指導の日々を送っていたが、玄明先生が倒れ、道場に後継者問題が…。香織と早苗それぞれの方法で道場を守ろうと奮闘する姿を描く「武士道」サーガ第四弾。はたして、この勝負、如何にー。番外編の「美酒道コンペティション」と書店員座談会も特別収録。
親を亡くし一人になった20歳の夏、父よりも年上の写真家の男と出会ったー。男の最後の写真集を前にあのひとときが蘇る。妙に人懐っこいくせに、時折みせるひやりとした目つき。臆病な私の心に踏み込んで揺さぶった。彼と出会う前の自分にはもう戻れない。唯一無二の関係を生々しく鮮烈に描いた恋愛小説。
友人の死に導かれ夜明けの穴にうずくまる僕。地獄を所有し、安保闘争で傷ついた鷹四。障害児を出産した菜採子。苦渋に満たち登場人物たちが、四国の谷間の村をさして軽快に出発した。万延元年の村の一揆をなぞるように、神話の森に暴動が起る。幕末から現代につなぐ民衆の心をみごとに形象化し、戦後世代の切実な体験と希求を結実させた画期的長編。谷崎賞受賞。
「人生の大きさは悔しさの大きさで計るんだ」。拍手は遠い。喝采とも無縁だ。めざすは密やかな達成感。克明な観察メモから連続空き巣事件の真相に迫る守衛の奮戦をたどる表題作ほか、代議士のお抱え運転手、サラ金の取り立て屋など、日陰にありながら矜持を保ち続ける男たちの、敗れざる物語です。深い余韻をご堪能ください。
米空軍のステルス爆撃機が北アルプスに墜落!その搭載物をめぐって男たちの死闘が始まった。報道カメラマン西崎勇次もその渦中に…。かたや週刊誌記者の松永慶子は、横田基地に侵入・逃走した北朝鮮の工作員に接触する。吹雪の北アルプスと東京。二つの場所で、男と女は絆を取り戻せるのか。渾身の国際謀略サスペンス。