「ローマは一日にして成らず」の格言を生んだ古代ローマが西欧各国の歴史の手本とされたのは、その一千年が危機と克服の連続であったからであろう。カルタゴとの死闘に勝ち抜いたあと長い混迷に苦しんだ共和政時代。天才カエサルが描いた青写真に沿って帝政へと移行し、“パクス・ロマーナ”を確立したローマ帝国。崇高と卑劣、叡知と愚かさー人間の営みのすべてを網羅したローマは、われわれと同じ生身の人間が生きた国でもあったのだ。
巨星、墜つー。1996年2月12日、十年間続いた『文芸春秋』の巻頭随筆「この国のかたち」は、筆者の死をもって未完のまま終わることになった。本書は、絶筆となった「歴史のなかの海軍」の他、書き言葉としての日本語の成り立ちを考察した「言語についての感想」「祖父・父・学校」などの随想、講演記録「役人道について」を収録。
貧窮のどん底にあえぐ米沢藩。一汁一菜をもちい、木綿を着て、藩政たてなおしに心血をそそいだ上杉鷹山と執政たち。政治とは、民を富まし、しあわせな日々の暮しをあたえることにほかならない。藤沢さんが読者にのこした遺書とでもいうべきこの長篇小説は、無私に殉じたひとびとの、類いなくうつくしい物語である。
天よ、いつまでわれらをくるしめるつもりですか。改革はままならない。鷹山の孤独と哀しみを明澄な筆でえがきだす下巻。けれど漆は生長し熟しはじめていた。その実は触れあって枝先でからからと音をたてるだろう。秋の野はその音でみたされるだろうー。物語は、いよいよふかく静かな響きをたたえはじめる。
本書のもとになっているのは、古くから中国にある四柱推命などの占いです。占いの基本的な考え方を借りながら、まったく新しい体系に作り直しました。人間を生年月日から12動物60パターンに分けた、日常の中で役に立つ“実学”をめざした心理分析ツールです。
14のヨーロッパ系言語と中国語、日本語を、ほとんど自国を出ることなく、純粋に学習という形で身につけてしまった女性の外国語習得術。25年間に16ヵ国語を身につけていく過程と秘訣をつつみ隠さず公開してくれるこの本は、語学の習得にあたって挫折しがちなわたしたちを、必ず目的の外国語は身につけられるという楽天主義に感染させてくれます。通訳者、翻訳者の入門書としても好適。
まばゆい光、暗いトンネル、亡き人々との再会ー死の床から奇跡的に蘇った人々が、異口同音に語る不思議なイメージ体験。その光景は、本当に「死後の世界」の一端なのだろうか。人に超能力さえもたらすという臨死体験の真実を追い、著者は、科学、宗教、オカルトの垣根を超えた、圧倒的な思考のドラマを展開する。
科学はどこまで臨死体験の核心に迫りうるのか。生物学者や神経学者は、様々な実験や仮説によってそのメカニズムの解明に挑み、成果をあげてきた。しかし、なお謎は残る。蘇生した人々はなぜ、本来、知るはずのない事実を知ってしまうのだろうか…。構想、取材、執筆に五年。発表と同時に大反響を呼んだ著者渾身の大著。
駆け足の近代化と富国強兵を国是とする日本の近代は、必然的に社会経済的な弱者ー極貧階層を生み出した。しかし、多くの日本人はそれを形式的な慈善の対象として認識するのがせいぜいで、社会的存在として見据えようとせず、本質的には彼らを「落伍者」「怠け者」として切り捨ててきた。スラムの惨状、もらい子殺し、娼妓に対する恐るべき搾取、女工の凄惨な労働と虐待…。張りぼての繁栄の陰で、疎外され、忘れ去られた都市の下層民たちの実態を探り、いまなお日本人の意識の根底にある弱者への認識の未熟さと社会観のゆがみを焙り出す。
1845年夏、ヘンリー・ソローはウォールデン池のほとりに自分で家を建て、以後2年2カ月におよぶひとり暮らしを始めた。アメリカが経済原理に取りつかれ始めたその時代、彼はそんな社会のあり方に疑問をもち、人間精神の復権を目指して、社会の外側で生きることを実践した。本書『ウォールデン』は、その実証の記録である。そして人間界とはうらはらに、伸びやかで自由な野性世界の、実に魅力的な宝庫でもある。ソローの思想を忠実に訳文に反映させた、古典的名著の新訳決定版。
人類にとって宗教的現象とはいったい何か、人類史という壮大なスケールのなかでその展望を企てた本書は、20世紀を代表する宗教学者・エリアーデが最晩年に遺した畢生のライフワークである。この古今未曽有の偉大な業績は、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教といった個々の宗教の理解を助けるばかりでなく、人類が創造した宗教そのものの姿を見事に描きだしている。文庫版第1巻は、古人類の宗教的営みから始まり、メソポタミア、古代エジプト、インダス川流域、地中海、ヒッタイト、「創世記」までを収める。
国を鎖していた小さな国が、急速な近代化をなしとげ、しまいには世界の“一等国”を自任するまでになった。しかし東亜の風雲はおさまらず、軍部は独走し、複雑な国際情勢の中で、ついに未曾有の大戦争に突入していくー。昭和日本はどこで誤ったのか?戦争以外の進路はなかったのか?ワシントン体制から満州事変、二・二六事件、盧溝橋事件を経て、太平洋戦争、敗戦に至る過程を、昭和史研究の第一人者たちが、片寄った史観にとらわれることなく、徹底的に討論検証する。
本業の髪結いの傍ら、町方同心のお手先をつとめる伊三次。芸者のお文に心を残しながら、今日も江戸の町を東奔西走…。伊三次とお文のしっとりとした交情、市井の人々の哀歓、法では裁けぬ浮世のしがらみ。目が離せない珠玉の五編を収録。選考委員満場一致でオール読物新人賞を受賞した渾身のデビュー作。
眼に入った物をかぞえずにいられない計算症の青年や、隣人のゴミに異常な関心を持つ男など、現代社会が生み出しつづけるアブナイ性癖の人達。その密かな執着がいつしか妄念に変わる時、事件は起きる…。日本推理作家協会賞受賞の表題作をはじめ、時代を見通す作者の眼力が冴える新犯罪ミステリ五作品を収録。
「自分の道は発見できたといえるかも知れません」昭和39年の「西国巡礼」の旅を第一歩に、『かくれ里』『11面観音巡礼』等の清新な名著を著わした著者が、創作力旺盛な昭和五十年前後に、若い人たちに向けて書いた「お水取りの不思議」「熊野の王子を歩く」「近江の庭園」等の13篇を収録。失われゆく日本の風土・文化を愛惜し日本人の自然観や信仰を共に考え歩む“私の”巡礼紀行。
人類にとって宗教的現象とはいったい何か、人類史という壮大なスケールのなかでその展望を企てた本書は、20世紀を代表する宗教学者・エリアーデが最晩年に遺した畢生のライフワークである。この古今未曾有の偉大な業績は、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教といった個々の宗教の理解を助けるばかりでなく、人類が創造した宗教そのものの姿を見事に描きだしている。文庫版第2巻は、ヴェーダの神々、ギリシア宗教、オリュンポスの神々と英雄たち、ザラスシュトラ、イスラエルの宗教、ディオニュソスの密儀までを収める。