十年間堪え忍んだ夫との生活を捨て家政婦になった主婦。囚われた思いから抜け出して初めて見えた風景とは。表題作ほか、劇作家にファンレターを送り続ける生物教師の“恋”を描いた「虫卵の配列」、荒廃した庭に異常に魅かれる男を主人公にした「月下の楽園」など全六篇。魂の渇きと孤独を鋭く抉り出した短篇集。
台所はオーケストラの舞台です。包丁、マナ板、フライパンなどを駆使して一皿の料理の完成まで、タクトを振るのはあなたです。でも、ときには怠けたいこともある。時間が無いヨ、というときもある。そんなときのために、ごく簡単でおいしい和、洋、中のレシピを集めてみました。お味?それはコンダクターの腕しだいです。
熊野補陀落寺の代々の住職には、六十一歳の十一月に観音浄土をめざし生きながら海に出て往生を願う渡海上人の慣わしがあった。周囲から追い詰められ、逃れられない時を俟つ老いた住職金光坊の、死に向う恐怖と葛藤を記す表題作のほか「小磐梯」「グウドル氏の手套」「姨捨」「道」など、旺盛で多彩な創作活動を続けた著者が常に核としていた散文詩に隣接する人生の不可思議さ、奥深さを描く九篇。
1970年代、有機的な組替えやズラしによって、外の空気を浸透させ他を受け入れる作品を精力的につくり、あるがままをアルガママにする仕事をした「モノ派」、その運動の柱として知られ、国際的に活躍する李禹煥の著作を集める。そして著者自身の芸術について、セザンヌやマチスに始まり、ゲルハルト・リヒター、ペノーネ、若林奮、白南準ら現代芸術の旗手たち、古井由吉や中上健次などの作家たちについて、そして、ものと言葉について…自分と、自分をとりまく外の世界。その境界にあたらしい刺激的な見方を開く。
図解・図表で西洋美術のわかりにくさをすっきり整理。原始〜現代までの名品をより良く知るためにも格好の一冊。すべて見開き2ページでコンパクトに解説。
締切間際に押し掛けられ、つい貸した百万円。ところが相手はいつの間にやらトンズラしていた。しかも我が家の車(ついあげた)に乗って!しつこい無言電話に老犬タローの世話、孫の質問攻めでヘトヘトの合間に、漸く花粉症の特大ハクションを連発する毎日だというのに、嗚呼!読めば元気が湧いてくる“我が老後”第三弾。
戦死した兄の思い出を辿るうち、胸に呼び起こされたある不幸な事故の記憶。過去に埋もれた出来事を追い求める表題作ほか、浮気調査を任された大学生が意外な現実を目の当たりにする「尾行」、夫と子を捨てて別の男と失踪した娘を連れ戻しに行く「父親の旅」など、人生の一瞬の揺らぎを捉えた十二の傑作短編集。
三十二歳のヒロイン、水越麻也子は、結婚六年目の夫に不満を抱き、昔の恋人野村と不倫の逢瀬を重ねていた。だが歳下の情熱的な音楽評論家、通彦との恋愛で、麻也子は大きな決断を迫られることになる…。「不倫」という男女の愛情の虚実を醒めた視点で描いて一大社会現象を巻き起こし、TV・映画化された、恋愛小説の最高峰。
本書は、スピード化、情報化が進む時代に生きる現代人にもわかるように、簡潔で、しかも多角的な視点からとらえた仏教理解書です。最初から通して読めば、仏教のなんたるかがはっきりと見えてくるはずです。
鮮烈なイメージと豊かなストーリーで織りなされる30の連作短編集。一つずつ順番に、前話をゆがんだ鏡像のように映しだし、最後の話が最初の話へとつながって、読者をめくるめく意識の迷宮へと導く。人間存在の神秘と不可思議さを映し出す鏡の世界の物語は、『モモ』『はてしない物語』とならぶ、エンデの代表作である。
「私」はアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、迦陵頻伽の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」-。圧倒的な小説作りの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る。直木賞受賞で文壇を騒然とさせた話題作。
十三世紀、ユーラシア大陸を席捲したモンゴル軍が占領したペルシャ高原のとある街。モンゴルの将軍とその命を狙うペルシャ人との暗闘を描いた「ペルシャの幻術師」(昭和三十一年、第八回講談倶楽部賞受賞)は司馬氏の幻のデビュー作で、文庫初登場である。同じく文庫初収録の「兜率天の巡礼」等、全八篇の短篇集。
惜しんでもあまりある、この作家。その六十九年の生涯と作品の魅力をあますところなく一冊に。丸谷才一、井上ひさしの弔辞から、昔を知る縁の人々の声、各界著名人のエッセイ・対談等に作品リスト、年譜、未公開写真、俳句までも収録した、愛読者のための完全編集版。“藤沢周平の遺した世界”を堪能し尽くす文芸読本である。
よい文章ーつまり、わかりやすく、自分にしか書けない、そんな文章を書こう!本書がめざすのは、種類やジャンルを超えたすべての文章に共通する創造的表現。実践的に作文用紙に鉛筆を走らせ、友達やプロの作家の作品を味わい、創作の過程を通して自分の言語観や文章観を鍛え直す。具体的で多様な課題に取り組むことにより、発想を形にする方法、〈メモ〉から文章を構成する手順、ことばの磨きかたを体験的に修得する文章表現の実戦書。もう何を書けばよいかわからない、なんて言わせない。
11世紀から13世紀まで、200年にわたって西欧キリスト教徒が行った近東への軍事遠征ーそれが十字軍である。ヨーロッパ側の史料と史観に依拠することもっぱらで、ときに「聖戦」の代名詞ともされる、この中世最大の文明衝突の実相は、はたしてどのようなものだったのだろうか。豊富な一次史料を用い、ジャーナリストならではの生き生きとした語り口で、アラブ・イスラム教徒の観点からリアルな歴史を再現して、通念を覆し偏見を正すとともに、今日なお続く抗争と対立からの脱却の途を示唆する反十字軍史。
木造の伝統工法を支える土壁が、阪神大震災以来、ふたたび注目されている。名匠と第一線の壁塗職人があますところなくつづる、歴史と工法。