中世写本画の傑作“ユトレヒト詩篇”の表現主義的線描はどのようにして生み出されたのか。
今年もイブが近づいて、恒例のサンタクロース会議が開かれます。その年から新たに加わることになったサンタは何と女性。女性サンタを認めるかどうかで会議は大騒ぎに…。
尾張、清洲城下のはずれで、二十の於蝶は五月晴れのもとにのびやかな肢体をなげだしていた。夏草のにおいと果肉のような体臭に木立を進む武士は惑乱した。一瞬の後に…。川中島から姉川合戦に到る年月を甲賀忍びの技と道に賭してゆく於蝶。おのが生理と心をあやつり、死闘を繰り広げる女忍びの活躍は、ここからはじまる。
織田信長、浅井長政らの屋敷に侍して、機をうかがう於蝶の、六年前、どことなく少女めいた硬いふくらみに引きしまっていた肉体は、どこも成熟しつくしている。(大好きな上杉謙信公のために…)常人ばなれした女忍者の秘めた女心と香りたつ生命が、戦場に魅惑的な光をなげかける。人気を博した忍者小説三部作、第一弾。
スミスにはじまりマルクス、ケインズ、シュンペーターと続く経済学の巨人たち。彼らが遺した経済思想とは、どんなものだったのだろうか。彼らはみな、経済的な分析技術の発明者というよりは、自分を取り巻く現実の経済社会と切り結び、人間の営みの本質を「ヴィジョン」として描こうとした「世俗の思想家」であった。-1953年の初版以来たびたび版を重ね、二十数カ国語に翻訳されて多くの学生を経済学へと誘ってきた名著の、最新第7版の翻訳。現実の経済の行方が不透明な今日、将来を見通すための最良の指針。
材木商伊勢屋忠兵衛からの度重なる申し出に心揺れる、深川芸者のお文。一方、本業の髪結いの傍ら同心の小者を務める伊三次は、頻発する幼女殺しに忙殺され、二人の心の隙間は広がってゆく…。別れ、裏切り、友の死、そして仇討ち。世の中の道理では割り切れない人の痛みを描く人気シリーズ、波瀾の第二弾。
春は桜にはじまって、神楽囃子は夏祭、秋はそぞろに寂しくて、炬燵火恋しい冬となる…日本人は、季節のうつろいに心情を重ね合わせて言葉をつむいできた。色鮮やかな四季の変化、こまやかな人の情、折々の行事…失われつつある日本の「風流」を、小唄端唄、和歌俳句、芝居や物語の中の言葉から選び抜き、古今亭志ん朝が粋な調子に乗せて語る。風流ことば再発見の一冊。
明治維新とともに出発した新しい政府は、内外に深刻な問題を抱え絶えず分裂の危機を孕んでいた。明治六年、長い間くすぶり続けていた不満が爆発した。西郷隆盛が主唱した「征韓論」は、国の存亡を賭けた抗争にまで沸騰してゆく。征韓論から、西南戦争の結末まで新生日本を根底からゆさぶった、激動の時代を描く長篇小説全十冊。
西郷隆盛と大久保利通ーともに薩摩に生をうけ、維新の立役者となり、そして今や新政府の領袖である二人は、年来の友誼を捨て、征韓論をめぐり、鋭く対立した。西郷=征韓論派、大久保=反征韓論派の激突は、政府を崩壊させ、日本中を大混乱におとしいれた。事態の収拾を誤ることがあれば、この国は一気に滅ぶであろう…。
突然、燃え上がった若者の頭、心臓だけ腐った男の死体、池に浮んだデスマスク、幽体離脱した少年…警視庁捜査一課の草薙俊平が、説明のつかない難事件にぶつかったとき、必ず訪ねる友人がいる。帝都大学理工学部物理学科助教授・湯川学。常識を超えた謎に天才科学者が挑む、連作ミステリーのシリーズ第一作。
主流を外れた職場、地方で入婿状態の息子、妻子持ちと交際中の娘。五年前に妻を亡くし、まだローンの残る建売の家で一人、主人公は自分の役目は終ったと感じている。そんなある日、娘に再婚を勧められー。初老の勤め人の寂寥を描く「早春」。加えて時代小説二作と、作家晩年の心境をうつしだす随想、エッセイを収録。
短歌、俳句、演劇…さまざまなジャンルで煌めく才能を発揮し、四十七歳で逝った寺山修司の詩的感性が横溢するエッセイ集。偏愛したボルヘス、夢野久作、フェリーニ等についての洞察、自叙伝、芝居、競馬等のエッセイを収録。
ルネサンスの生を彩る赤、青、黄、黒、緑、ポルポラ。絵画に、詩歌に、そして衣裳に映える色彩のポリフォニー。
ー西郷と大久保の議論は、感情に馳せてややもすれば道理の外に出で、一座、呆然として喙を容るるに由なき光景であったー。明治六年十月の廟議は、征韓論をめぐって激しく火花を散らした。そして…西郷は敗れた。故国へ帰る彼を慕い、薩摩系の士官達は陸続として東京を去ってゆくー内戦への不安は、現実となった。
西郷に続いて官を辞した、もとの司法卿・江藤新平が、明治七年、突如佐賀で叛旗をひるがえした。この乱に素早く対処した大久保は首謀者の江藤を梟首に処すという実に苛酷な措置で決着をつける。これは、政府に背をむけて、隠然たる勢力を養い、独立国の様相を呈し始めている薩摩への、警告、あるいは挑戦であったであろうか。
「現代かなづかい」の不合理と不徹底と論理的混乱は、「表記法は音にではなく、語に随ふべし」といふ全く異種の原則を導入したことから起つた。この原則に基く歴史的かなづかひの合理性、論理的一貫性を具体例を挙げて論証、国語問題の本質を剔抉して学界、論壇、文壇に衝撃を与へた不朽の名著の再刊。