薩軍は各地を転戦の末、鹿児島へ帰った。城山に篭る薩兵は三百余人。包囲する七万の政府軍は九月二十四日早朝、総攻撃を開始する。西郷隆盛に続き、桐野利秋、村田新八、別府晋介ら薩軍幹部はそれぞれの生を閉じた。反乱士族を鎮圧した大久保利通もまた翌年、凶刃に斃れ、激動の時代は終熄したのだった。
伝統芸能に生きる父娘の葛藤と和解を描き、著者の文壇登場作となった「地唄」、ある男の正妻・愛人・実妹、三人の女が繰り広げる壮絶な同居生活と、等しく忍び寄る老いを見据えた「三婆」、田舎の静かな尼寺に若い男女が滞在したことで起こる波風を温かい筆致で描く「美っつい庵主さん」等五作品を収録。無類の劇的構成力を発揮する著者が、小説の面白さを余すところなく示す精選作品集。
平安時代末の仁寛を流祖とする真言立川流は、密教理論の要ともいうべき即身成仏を実現するために、男女交合の性愛秘技をもって可能だとした。また鎌倉時代の『愛法用心集』には、死者の髑髏を本尊に仕立てあげるための過程が入念に記述されている。こうした教え、実践、修行ゆえに正純な密教からは徹底的に弾圧され、その典籍も破棄されるなどして、立川流の実像は、長い間歴史の闇に葬り去られてきた。本書は、立川流の教義を改めてつぶさに検討し、逆説的に正純な真言密教の本質や構造を浮き彫りにすると同時に、立川流の奥義に込められた生命、人間存在の解釈をエロスとタナトスの回路を通じて提示する。
「あの苦しみはこの苦しみより大きい」、「これを欲するわたしとあれを欲するわたしとが衝突する」などと口にするとき、私たちは何を比較し、何を対立させているのか、ベルクソンは、人間の内的事象に固有の表現を、言語の限界線上に模索してゆく。感覚や情緒など互いに比較不能な純粋に質的な諸状態、それらが相互浸透する多様性、さらにその多様性が“持続”において展開する有機能組織化…。本書では、これらの考察を通じて、全く動的に再編された斬新な行為論・自由論が呈示される。『時間と自由』の通称でも知られるベルクソン第一主著の新訳。
無名時代の藤沢さんの内面を鮮明にしるす、新発見の書簡。そして二十代の詩篇、俳句。完全編集版としてここに完結。
いま、あざやかに蘇る日本誕生の物語。詳細な注釈、読みやすい語り言葉で綴られた決定版現代語訳。古事記の原型に近い「語り」を生かした口語体による完訳版。古事記研究の最前線に立った詳細な注釈。古事記の書かれた時代背景の理解に役立つ解説。地名・氏族名解説、神々および天皇の系図、地図など豊富な資料。古事記に登場する動物・植物のイラスト入り。詳細な三種の索引(神・人名、動物・植物名、注釈事項・語彙)付き。
著者の生涯と作品を顧みる諸家の随想を収録し、併せて小林秀雄年譜、作品解題、著書目録、標題索引を収めた。書名とした「無私を得る道」は、著者が色紙に残した言葉「批評トハ無私ヲ得ル道デアル」に由来する。
明治十五年、近在屈指の大地主の長男として生まれ、九歳の時母自殺。以降徐々に家は没落、時代の傾斜と並ぶようにやがて不幸の淵に沈んでゆく。大正十四年出家。大正十五年四月、解くすべもない惑ひを背負うて、行乞流転の旅に出た。分け入つても分け入つても青い山(「俳句」大正十五年)九州から東北まで漂泊托鉢。行乞生活を記録した句は数奇な生涯を凝縮。俳句、随筆、行乞記の三章でその真髄を纏める。
「外なる世界と内なる世界、外なる法則性と内なる道徳性との間に横たわる深淵は、ただ自由な魂だけがこれに橋をかけることができる」(本書「あとがき」より)。刊行後100年以上経つ現在も、まばゆい光芒を放ち続ける、シュタイナー全業績の礎をなしている認識論哲学。社会の中で否応なしに生きざるを得ない個としての人間は、個人の究極の自由をどこに見出すことができるのか。また、思考の働きは人類に何をもたらすのか。シュタイナー四大主著の一冊。
ランドスケープデザインの世界を知るために。仕事の実際、必要不可欠な知識がすぐに学べる。
真珠のように美しく気高い、男爵の娘・瑠璃子は、子爵の息子・直也と潔い交際をしていた。が、家の借金と名誉のため、成金である勝平の妻に。体を許さぬうちに勝平も死に、未亡人となった瑠璃子。サロンに集う男たちを弄び、孔雀のように嫣然と微笑む妖婦と化した彼女の心の内とは。話題騒然のTVドラマの原作。
日露戦争の復讐と版図拡大に野望をいだくスターリン、原爆を投下し戦後政略を早くも画策する米英、日ソ中立条約を頼り切ってソ満国境の危機に無策の日本軍首脳ー三様の権謀が渦巻く中、突如ソ連軍戦車が八月の曠野に殺到した。百万邦人が見棄てられた昭和史の悲劇を、『ノモンハンの夏』の作家が痛烈に描く。
深川の長寿庵の主人であり、源三郎の下で岡っ引を長年つとめてきた長助が、お上から褒賞を受けた。町内あげてのお祭騒ぎの中、取り残されたように、一人ぼんやり店番をする女房おえい。が、そのおえいが気になる人物を見かけ、目の前で思わぬ事件がおこる。表題作ほか、「千手観音の謎」「嫁入り舟」「唐獅子の産着」など全八篇。
昭和十年の創設以来、世紀を越えて日本文学の本流をリードしつづける「賞の中の賞」の名作を完全網羅。芥川賞選評・受賞者のことば・年譜収録。
70年をかけ全国の名庭を歴覧してきた京都林泉協会による、庭園鑑賞のエンサイクロペディア。歴史と思想、地割、石組、苑路、石造品、建造物等、庭園を理解するために必要な要素のすべてをまとめた。全国約1300件の名園と所在地を掲載、関係年表・参考文献目録など資料も充実。