昭和四九年七二歳。真夏の九州霧島で、学生たちに語ったベルグソンの哲学、柳田国男の学問。いまここに、超自然的な事実が報告された。僕らは、これを、どういう態度で聞くべきかー。
空海の樹立した真言密教の根本思想とはなにか?空海は『即身成仏義』で、宇宙の森羅万象を、法身大日如来の顕現と見、宇宙の真実相を、六大・四曼・三密の三方面より解明して、密教的成仏を説き明かした。『声字実相義』では、六塵(色・声・香・味・触・法)がことごとく文字であり、声字はそのまま実相であるとする。また、『吽字義』では、吽という一字の中に実在の根源を求め、真言密教の至極の境地を明らかにする。なお、真言密教の立場から注釈して、『般若心経』は大般若菩薩のさとりの境地を説いた密教であるとした『般若心経秘鍵』と密教求得の帰国報告書である『請来目録』を収録。
太平洋戦争で、日本はなぜ敗れたのか。本書で説く「克己心の欠如、反省力なき事、一人よがりで同情心がない事、思想的に徹底したものがなかった事」など「敗因21カ条」は、今もなお、われわれの内部と社会に巣くう。そして、同じ過ちをくりかえしている。これらを克服しないかぎり、日本はまた必ず敗れる。フィリピンのジャングルでの逃亡生活と抑留体験を、常に一貫した視線で、その時、その場所で、見たままのことを記し、戦友の骨壷に隠して持ち帰った一科学者の比類のない貴重な記録。ここに、戦争の真実と人間の本性の深淵を見極める。第29回毎日出版文化賞受賞の不朽の名著。
女性として僧侶の愛を受ける稚児たち、美女とされる京女、出産がもとで死亡し幽霊になる女、男の欲望をむけられて鬼神と化す羅刹女ー、それら虚実の群像の背後には、日本人のセックス/ジェンダー意識の古層が隠されている。平家物語や今昔物語、女性文学など、中世説話文学から民俗信仰までをフィールドに、歴史に潜んでいる性愛、権力、神仏信仰などを、縦横無尽に切り捌いた論文集。
カスミは、故郷・北海道を捨てた。が、皮肉にも、北海道で幼い娘が謎の失踪を遂げる。罪悪感に苦しむカスミ。実は、夫の友人・石山に招かれた別荘で、カスミと石山は家族の目を盗み、逢引きを重ねていたのだ。カスミは一人、娘を探し続ける。4年後、元刑事の内海が再捜査を申し出るまでは。話題の直木賞受賞作ついに文庫化。
野心家で強引な内海も、苦しみの渦中にあった。ガンで余命半年と宣告されたのだ。内海とカスミは、事件の関係者を訪ね歩く。残された時間のない内海は、真相とも妄想ともつかぬ夢を見始める。そして二人は、カスミの故郷に辿れ着いた。真実という名のゴールを追い続ける人間の強さと輝きを描き切った最高傑作。
兄・神林通之進の使で、旗本・青江但馬の別宅、根岸の白萩屋敷に出かけた東吾は、萩の精のような佇まいの女主人に出会う。が、その美しい顔には、むごたらしい火傷の痕が…。読者アンケートの人気投票でも堂々トップを飾った表題作ほか、天野宗太郎が初登場する「美男の医者」など全八篇を収録。人気シリーズの新装版第八弾。
戦後日本で起きた怪事件の数々。その背後には、当時日本を占領していた米国・GHQが陰謀の限りを尽くし暗躍する姿があった。しかし、占領下の日本人には「知る権利」もなく真相を知る術もなかった。抜群の情報収集力と推理力で隠蔽された真相に迫った昭和史に残る名作。名推理として知られる「下山国鉄総裁謀殺論」など。
戦後日本で起きた怪事件の背後に何が存在したのか。米国・GHQの恐るべき謀略に肉薄した昭和史に残る名作の続編。戦後の混乱を生々しく伝え、今日の日本を考える貴重な資料である。日本中を震撼させた「帝銀事件の謎」、被告の冤罪を主張する「推理・松川事件」、横暴な権力への静かな怒りに満ちた「追放とレッド・パージ」など。
中国・春秋時代の晋。没落寸前の家に生を受けた若者・士会は、並外れた兵略の才と知力で名君・重耳に見出され、混迷の乱世で名を挙げていく。生死を無意味にしないために人はなにをすべきか。勇気の本質とはー。苦難を乗り越え、宰相にまで上り詰めた天才兵法家のあざやかな生涯を格調高く描いた古代中国傑作歴史小説。
「礼をおこたった晋は欺瞞の国になる。」苦悩の果て、覇権争いに乱れた祖国を離れ秦に亡命した士会は、君主に重用され平和な日々を送る。しかし、危難にある晋からの使者が再び士会のもとを訪れるー。徳を積み、知謀の限りを尽くして国を救った天才兵法家の一生を、多彩な人物が息づく古代中国に描きだした傑作歴史長編。
ペリー来航五年前、鎖国中の日本に憧れたアメリカ人青年ラナルド・マクドナルドはボートで単身利尻島に上陸する。長崎の座敷牢に収容された彼から本物の英語を学んだ長崎通詞・森山栄之助は、開国を迫る諸外国との交渉のほぼ全てに関わっていく。彼らの交流を通し、開国に至る日本を描きだす長編歴史小説。
崩壊した銀行不倒神話。給料もポストも減り、逆境にさらされてもー銀行員(バンカー)よ、顔を上げろ!融資課長・半沢直樹の意地と挑戦を描く痛快長篇。
ロレンス畢生の論考にして20世紀の名著。「黙示録」は抑圧が生んだ、歪んだ自尊と復讐の書といわれる。自らを不当に迫害されていると考える弱者の、歪曲された優越意思と劣等感とを示すこの書は、西欧世界で長く人々の支配慾と権力慾を支えてきた。人には純粋な愛を求める個人的側面のほかに、つねに支配し支配される慾望を秘めた集団的側面があり、黙示録は、愛を説く新約聖書に密かに忍びこんでそれにこたえた、と著者は言う。この隠喩に満ちた晦渋な書を読み解き、現代人が他者を愛することの困難とその克服を切実に問う。巻頭に福田恒存「ロレンスの黙示録について」を収録。
己れを捨てて学問をすればおのずと己れの生き方が出てくる。源氏物語、古事記、…生涯一貫、古典との対話で日本人の生き方を究めた大学者宣長、その頭の中の波乱万丈。
昭和四〇年、六三歳の夏から雑誌連載十一年、全面推敲、さらに一年ー。精魂こめて読みぬいた、「道」の学問、人生の意味…。永遠の未来へ畢生の大業。