小さな町で小さな床屋を営むホクトはあるとき、吸い込まれそうなくらい美しい空を見上げて、決意する。「私はもっともっとたくさんの人の髪を切ってみたい」。そして、彼は鋏ひとつだけを鞄におさめ、好きなときに、好きな場所で、好きな人の髪を切る、自由気ままなあてのない旅に出た…。流浪の床屋をめぐる12のものがたり。
まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦がころがりこんだ。ペットあずかりに塾の送迎、納屋の整理etc.-ありふれた依頼のはずがこのコンビにかかると何故かきな臭い状況に。多田・行天の魅力全開の第135回直木賞受賞作。
広島から根の谷川・江の川に沿って、毛利氏の本貫などをゆく「芸備の道」。「安芸門徒」とその地名を冠されるまでに一向宗の盛んな土地にあって門徒を先鋭化させることなく、むしろ取り込んでいった元就の器量を思う。「神戸散歩」「横浜散歩」では二大港都を相次いで歩く。神戸のあっけらかんとした明るさと、旧幕時代以来の歴史が横浜に含ませる苦味を、鮮やかに浮かび上がらせた。大きな活字で装いも新たに、新装文庫版。
カルノー28歳、わずか1篇の論文『火の動力』で、熱力学の基礎を確立した。イギリスに誕生した蒸気機関は、フランスで効率改良の理論研究が進められ、彼は熱の生む動力の絶対的な制約を見いだす。だがその理論は巨視的自然の究極の真理に触れるラディカルなもので、技術者にも物理学者にも受け入れられることなく長く埋もれる運命となる。第2巻は、熱力学草創期。熱素説の形成と崩壊、そして熱力学第1法則、エネルギー原理の確立と進む。さらに議論は熱力学第2法則とエントロピー概念の形成へとのぼりつめていく。欧米にも類書のない広がりと深さに裏づけられた、迫力ある科学史。
六十余度にわたる生きるか死ぬかの苛烈な真剣勝負を経て自得した、二天一流の兵法の奥義書。地・水・火・風・空の五巻で構成され、兵法の道とはなにか(地)、兵法の基本、実際の戦い方(水)、さまざまな戦いの様相に即して勝つ理(火)、他流派とのちがい(風)、そして兵法の究極(空)が説かれる。古来、兵法書としてはもとより、常に現在に生きる人生の修養・鍛錬の書として読み継がれてきた永遠の古典。底本には、これまで流布してきた細川家本ではなく、2003年に発見された福岡藩家老吉田家旧蔵本を用い、新たに校訂した。『兵法三十五か条の書』と『独行道』も収録し、それぞれ訳・注を付す。
師千利休は何故太閤様より死を賜り、一言の申し開きもせず従容と死に赴いたのか?弟子の本覚坊は、師の縁の人々を尋ね語らい、又冷え枯れた磧の道を行く師に夢の中でまみえる。本覚坊の手記の形で利休自刃の謎に迫り、狭い茶室で命を突きつけあう乱世の侘茶に、死をも貫徹する芸術精神を描く。文化勲章はじめ現世の名誉を得た晩年にあって、なお已み難い作家精神の輝きを示した名作。日本文学大賞受賞作。
古内東子の9年振りとなる映像商品。「IN LOVE AGAIN」などが披露された15周年記念の全国ツアーを中心に、2009年1月のN.Y.でのライヴやオフショット映像なども収録する。
⇒ライブ映像 「大丈夫」 はこちら
古代から現代までの中国の書の歩みを、気鋭の研究者が分担執筆。時代ごとの年表・概論で大枠をつかめ、作品図版で書法を概観できる。王羲之、顔真卿、蘇軾、呉昌碩など重要書人の作品三百点を収録。書を学ぶ方、必携のテキスト。
長州藩の下層の出ではあったが、天堂晋助の剣の天稟は尋常なものではなかった。ふとしたことから彼を知った藩の過激派の首魁高杉晋作は、晋助を恐るべき刺客に仕立てあげる。京で大坂でそして江戸で忽然と現われ、影のように消え去る幻の殺人者のあとには、常におびただしい血が残された…剣の光芒が錯綜する幕末の狂宴。
幕末の情勢は大きな曲がり角にさしかかった。中央から締め出され、藩領に閉じ込められた長州藩では、勤王党の高杉晋作がクーデターに成功。そして慶応二年、ひそかに薩摩藩と手をにぎり、藩を挙げて幕府との決戦に肚を固める。その緊迫した状況の下で、刺客晋助の剣は獲物を狙って冷酷にふるわれ続けたー。
仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。そう思っていた同期の太っちゃんが死んだ。約束を果たすため、私は太っちゃんの部屋にしのびこむ。仕事を通して結ばれた男女の信頼と友情を描く芥川賞受賞作「沖で待つ」に、「勤労感謝の日」、単行本未収録の短篇「みなみのしまのぶんたろう」を併録する。すべての働くひとに。
1週間でネイティブと英会話ができなければ「クビ」「海外旅行中止」「留学取りやめ」という状況に追い込まれたら、あなたはどうしますか?「アルファベット70音」はネイティブに通用する英語が短期間でマスターできるように工夫された日本人のための発音学習法です。そのノウハウを本書に“ギュッ”と詰め込みました。
今日ではほとんど自明なもののように受け止められている透視図法。それは、完全に合理的な空間=無限で連続的な等質的空間を表現するために編み出されたものであり、人間の直接的経験・知覚の原理とは必ずしも一致するものではない。あくまで、ある時代の精神が求めたシンボル的な制度、教義的な形式だったのである。古代の曲面遠近法、ルネサンス期の平面遠近法の成立、近代以降の多様な展開を追いながら、時代の空間観・世界観を、広く人間の精神史と対応させて捉える。美術史・認知科学・建築論など、幅広い分野において今日いっそう参照される記念碑的論考。
「エントロピー」の誕生は難産だった。熱の動力をめぐるカルノー以来の苦闘をへて、熱力学はやがて第1法則と第2法則を確立し、ついにエントロピー概念に到達する。マクロな自然の秘密を明るみに出したそのエントロピーとは何か。「エネルギーの散逸」とのみ捉えられがちな誤謬を正しつつ議論は進む。第3巻は熱力学の完成とその新たな展開。マクスウェル、トムソンらの寄与とクラウジウスの卓抜な総合化、さらにギブズの化学平衡論により制約因子としてのエントロピーの本性が明らかとなってゆく。論文・書簡を含む多くの原典を博捜して成った壮大な熱学史。格好の熱力学入門篇。全3巻完結。