この小説は一平民青年ジュリアン・ソレルの野心をとおして、貴族・僧侶・ブルジョアジーの三者がしのぎをけずる7月革命前夜の反動的で陰鬱なフランス政界と社会を、痛烈な諷刺をこめて描き出した社会小説である。
ナポレオン没落後、武勲による立身の望みを失った貧しい青年ジュリアン・ソレルが、僧侶階級に身を投じ、その才智と美貌とで貴族階級に食い入って、野望のためにいかに戦いそして恋したか。率直で力強い性格をもったジュリアンという青年像を創出し、恋愛心理の複雑な葛藤を描ききったフランス心理小説の最高峰。
これをしも恋愛小説というべきであろうか。発端の1章を別とすれば続く2章だけが恋と誘惑にあてられ、残る7章はすべて男が恋を獲たあとの倦怠と、断とうとして断てぬ恋のくびきの下でのもがきを描いている。いわば恋愛という「人生の花」の花弁の一つ一つを引きむしり、精細に解剖しようというのだ。近代心理小説の先駆をなす作。
朝鮮の近代文学は、日本の統治に反対して起こった三・一運動の年ー1919年に始まる。上巻には、様々な文芸思潮が流入し、いわゆる傾向文学の時代へとすすむ1920年代〜1930年代前半の短篇から、「笞刑」「甘藷」「運のよい日」「桑の葉」「民村」「白琴」「洛東江」「旱鬼」「地下村」「金講師とT教授」の10篇を精選。朝鮮近代文学への概観を与える選集。