「一度目」は戦時下の強制連行だった。朝鮮から九州の炭鉱に送られた私は、口では言えぬ暴力と辱めを受け続けた。「二度目」は愛する日本女性との祖国への旅。地獄を後にした二人はささやかな幸福を噛みしめたのだが…。戦後半世紀を経た今、私は「三度目の海峡」を越えねばならなかった。“海峡”を渡り、強く成長する男の姿と、日韓史の深部を誠実に重ねて描く山本賞作家の本格長編。吉川英治文学新人賞受賞作品。
音楽にとりつかれた祖父と、素数にとりつかれた父、とびぬけて大きなからだをもつぼくとの慎ましい三人暮らし。ある真夏の夜、ひとりぼっちで目覚めたぼくは、とん、たたん、とん、という不思議な音を聞く。麦ふみクーツェの、足音だった。-音楽家をめざす少年の身にふりかかる人生のでたらめな悲喜劇。悲しみのなか鳴り響く、圧倒的祝福の音楽。坪田譲治文学賞受賞の傑作長篇。
漢へ赴いた針のひ孫の炎女は、弥摩大国の巫女となり、まだ幼い女王の日御子に漢字や中国の歴史を教える。成長した日御子が魏に朝貢の使者を送るとき、使譯を務めたのは炎女の甥の在だった。1〜3世紀、日本のあけぼのの時代を、使譯の“あずみ”一族9代の歩みを通して描いた超大作。傑作歴史ロマン小説!
大丸心斎橋店をはじめとするかつて存在した懐かしき異空間を巡る旅。日本・満州・朝鮮に建設された43の傑作近代建築がいま甦る。
10人に1人は天才の可能性あり!親が気付かなければ、一生、普通の人!簡易的ギフテッド診断テスト付。
日蓮が唱えた「他国侵逼」、即ち蒙古による九州侵攻の予言を確かめ大陸の様子を探るために、見助が対馬に遣わされた。島に辿り着いた見助は蒙古の情報を次々に入手する。その間、日蓮は弾圧や法難に遭うが、対馬と東国の間で二人の手紙のやりとりは続いた。そして十余年、ついに蒙古が動いたとの情報が…。
招聘医師として平壌入りを決意した津村。万景峰号で海峡を渡った舞子。中朝国境から潜入した寛順と東源。彼らの運命が交錯するとき、現代史を塗り替える大事件が勃発する。北朝鮮の深層を抉り出す衝撃作。
東西の壁が崩壊したベルリンで、日本の剣道の防具が発見された。「贈ヒトラー閣下」と日本語で書かれ、日本からナチスドイツに贈られたものだという。この意外な贈り物は、国家と戦争に翻弄されたひとりの男の数奇な人生を物語っていたー。1938年、ベルリン駐在武官補佐官となった日独混血の青年、香田光彦がドイツで見たものとは、いったい何だったのか。
父の国であるドイツの現実に、次第に幻滅を覚えてゆく香田。ついに成立した日独伊三国軍事同盟も、彼の思い描いた祖国の進路ではなかった。迫害に怯えるユダヤ人女性・ヒルデとの生活にささやかな幸福を見いだしたのも束の間、居合術をヒトラーの前で披露する機会を与えられたことをきっかけに、香田の運命は大きく狂いはじめた…。清冽なヒューマニズムで貫かれた大作ロマン。
日本の美しい海岸線を不気味に変容させている巨大な建築物の群れ。それが原子力発電所である。過疎地を狙ったように建ち並ぶ原発が、いかにその地の人々に犠牲を強いてきたか。都会の繁栄の陰で、いびつに進行するエネルギー行政の矛盾がここに凝縮されている。日本全国の原発立地点をくまなく歩き続ける著者が、淡々と綴るドキュメント。
絶滅したはずの天然痘を使って黒人社会を滅亡させようとする非人間的な白人支配層に立ち向かう若き日本人医師。留学先の南アフリカで直面した驚くべき黒人差別に怒り、貧しき人々を救うため正義の闘いに命をかける。証拠品の国外持ち出しは成功するか!?山本周五郎賞受賞作家が描く傑作長編冒険サスペンス。
この本は、大正の終わりから昭和の初めころの岐阜県の食生活を再現したものです。
「動いていられるあいだは、おれたち大丈夫さ」逃れるように、何かを求めるように車を走らせる保釈中の若者。「あんたとなら世界の涯までだって行くよ」と恋人ルーラ。けっして甘くはない世界で、傷ついてもなお優しい心の結びつきを描く、苦くスイートな「純愛小説」。D・リンチ監督、カンヌ映画祭グランプリ受賞作品の原作。
アメリカ合衆国国立防疫センターで不審火による火災事故が発生した。消火作業は迅速で、死傷者ゼロ。焼失したのは、C棟三階の医薬品二十万トンであった。心臓移植の若き日本人学徒・作田が、留学先のアフリカで直面したのは、白人によるおそるべき黒人差別の現実であった。やがて、黒人ゲットーで、絶滅したはずの天然痘が大量発生する。平和と繁栄に酔う日本を遠く離れて、作田の怒りと正義のたたかいがはじまる。サスペンスに満ちた冒険ハードボイルドの傑作。